結論
端的に言って、それは、高度な専門的技術や知識、熟練の技能を有している外国人材ではなくて、それなりの専門性・技能を有している外国人材を主に中小・小規模事業者の人手不足解消のために幅広く受け入れる場合です。
外国人を出稼ぎ労働者として受け入れたつもりでも、結果的に、その相当人数が定住化、移民化していく---これが、20世紀後半以降の民主主義国家における歴史的事実です。
20世紀後半以降のドイツ(旧西ドイツ)の事例
第2次世界大戦後の旧西ドイツは、戦後復興に必要な労働力不足を補うため、外国から労働者を受け入れました。最も多かった送り出し国はトルコでした。外国人労働者は定住、永住を前提としない “出稼ぎ労働者” という位置づけで、「ガストアルバイター(客人の労働者)」と呼ばれていました。
けれども、雇う側は「せっかく仕事に慣れた人材を決められた期間で辞めさせるのは………」として難色を示し、また、働く側も母国から家族をドイツに呼び寄せて定住を選ぶ動きが広がっていったのでした。
詳細を知りたい場合には、ネット検索で容易に情報入手が可能です。
日本の平成以降の事例
日本においても、平成以降のお話になりますが、日本での生活が長引くにつれて結果的に移民化していった外国人の事例として、日本人の子孫として我が国と特別な関係にあることに着目してその受け入れが認められているブラジル人、ペルー人を中心とする日系人及びその家族の存在があります。
これら日系外国人は、平成元年の法改正が施行された平成2年6月以降、「出入国管理及び難民認定法」に定める「定住者」、「日本人の配偶者等」などの身分又は地位に基づく在留資格で在留しており、活動に基づく在留資格により入国した外国人と異なって、活動内容に制限はなく自由に就労できる(いわゆる単純労働にも従事できる)ことになっていることもあって、日本の地域経済を支え、活力をもたらす存在として、これまで経済発展に貢献してきています。
ところが、平成20年秋以降の世界的な経済危機(いわゆるリーマンショック)による厳しい経済状況の下、日本での生活を断念する者が相当数帰国した一方で、日本に残り続けている者がかなりの数に上っており、日本での暮らしが長期に及んだ者はそのまま定住を希望する傾向があったのでした。
具体的には、日本に在留するブラジル国籍の中長期在留者数は、平成20年末時点で30万9千人台でしたが、リーマンショックによる経済危機を受け、失業して自発的に帰国した日系ブラジル人がもちろんいましたが、それに加えて、日本政府が平成21年4月から平成22年3月までの1年間実施した「日系人帰国支援事業」によって帰国支援金の支給を受けて帰国した日系ブラジル人が約2万人いました。その結果、ブラジル国籍の中長期在留者数は減少したものの、平成22年末時点で22万8千人台が在留を続けていました。その後もブラジル国籍の中長期在留者数は減少し続けましたが、平成27年末の17万3千人台をボトムとしてその後増加に転じ、令和3年末時点では20万4千人台です。
このように、平成2年6月以降来日するようになった、その大半は来日当初は出稼ぎ目的であったに違いない日系ブラジル人のうちの相当数が、日本の “失われた30年” にもかかわらず、日本在留が長引くにつれて定住、永住化していったのでした。
ローテーション方式(回転ドア的な出稼ぎコントロール型)の受け入れ方法だったら?
自国内の求人難の企業(事業者)を救うために外国人労働者の受け入れに頼るけれども、外国人労働者が自国に定着化・定住化するのを防ぐために、その受け入れ期間・受け入れ人数・受け入れ分野等を送り出し国政府と協定を結んで管理するいわゆるローテーション方式(回転ドア的な出稼ぎコントロール型)によって受け入れることにすれば、果たしてうまくいくのでしょうか?
日本国内の求人難の企業(事業所)において、専門的な技術、技能、知識等を必要としない業務に、日本との経済格差や所得格差が大きい国(主に途上国)から外国人労働者を受け入れることを認めることとした場合、
「西欧先進国の経験から見ても、雇用する企業の側では、仕事に慣れ、言葉も上達してきた外国人を帰国させて別の者に入れ替えることに否定的となり、他方、雇われる外国人の側では、仕事にも生活にも慣れ一定の所得とそれによる生活が確保された我が国で引き続き就労することを希望し、職の確保の見通しの立たない本国に帰国したがらない等の理由により、当初の意図にかかわらず、これらの外国人の滞在期間は長期化しやすい。その結果、家族の呼び寄せなど人道的配慮も要請され、一時的労働力として受け入れたとしても実際には定着化・定住化は避けられないと思われる。このため、このローテーション方式の受入れ方法は、我が国の現状を前提とする限り、その実効性は極めて乏しいと考えられる。」(『出入国管理基本計画』(平成4年5月 法務省)より)。※末尾に補足あり。
まとめ
結局、米国型の移民制度を設けていない国家であっても、自国にやってくる外国人が少なからずの割合で結果として移民化していくことが不可避である以上、移民との関係での出入国管理&外国人受け入れ政策のポイントは、手短にざっくり言えば
「短期間の滞在(代表例:観光旅行)ではなく中長期の滞在予定期間を必要とする目的で来日を希望する外国人について、どのような条件を満たす者(注1)を、どのような人数規模で、どのようなペースで、どのような環境整備のもとで、受け入れることとするのか?」
なのです。
もう少し具体的に言えば、
(1)外国人を受け入れる側については、国内のどの産業分野、業界、職種、事業所に対して、どのような条件を課した上で受け入れを可能とするのか?
(2)来日を希望する外国人に対しては、どのような条件を満たす外国人に限って受け入れることとするのか?
(3)一年間当たりの、あるいは一定年数の期間単位での国別の受け入れ人数の上限の設定をどのようにするのか?
(4)移民としての受け入れでなくても受け入れた外国人は多少なりとも定住化し得ることが不可避である以上、ましてや移民としての受け入れに踏み切る場合にはなおさらのこと、社会統合政策をどのように準備しておくのか?(注2)
といったところでしょうね。
(注1)「深刻化する人手不足への対応として、生産性の向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野に限り、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れる」ことの他にも、法務省が策定・公表している『出入国在留管理基本計画(2019年4月)』によれば、出入国在留管理行政における取組の基本方針の一つとして、
「○我が国経済社会に活力をもたらす外国人を積極的に受け入れていくこと」を掲げています。
(注2)他にも、『出入国在留管理基本計画(2019年4月)』では、出入国在留管理行政における取組の基本方針の一つとして、
「○受け入れた外国人との共生社会の実現に向けた環境を整備していくこと」を掲げています。
また、出入国在留管理行政における取組の基本方針のもとでの具体的な施策の方針の一つとして「少子高齢化の進展を踏まえた外国人の受入れについての国民的議論の活性化」について、「人口減少時代への対応については,生産性の向上,女性,若者や高齢者などの潜在的な労働力の活用等,幅広い分野の施策に実効的かつ精力的に取り組むことが必要であり,外国人の受入れの在り方については,そうした取組がなされることを前提に,検討することとなる。」としています。
末尾補足:日本の「外国人技能実習制度」について
外国人が日本で働きながら技能等を学ぶ「技能実習制度」は、開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に協力するという制度趣旨から、開発途上国等の外国人を日本で一定期間(最長5年間)に限り受け入れるという制度設計になっており、正面切っての外国人労働者の受け入れではないものの、ローテーション方式の受け入れという点ではその実効性を有するものとなっています(注3)。
平成31年4月から実施されている「特定技能制度」についても、入国・在留を認める外国人材の在留期間の上限を通算で5年とし、家族の帯同は基本的に認めないという制度設計になっています。
しかしながら、技能実習制度については、これまでに複数回、制度の適正化が図られているにもかかわらず、国の内外からの厳しい指摘が止むことはなく、現在、改めて制度の見直しの議論が始まっているほどですので、技能実習生として受け入れた外国人の定住化、移民化を防ぐことに成功している代償は高くついている、と言わざるを得ません。
国際社会からは、次のような厳しい指摘を受けています。
「技能実習制度の雇用主は、技能実習制度の本来の目的に反して、多くの技能実習生を技能の教授や育成が実施されない仕事に従事させている。送出国と日本との間で過剰な金銭徴収の慣行を抑制することを目的とした二国間合意があるにもかかわらず、(技能実習生は)過大な労働者負担金、保証金や不明瞭な「手数料」を母国の送出機関に支払っている。(技能実習生に対して、)移動・通信の制限、パスポート等の取上げ、強制送還や家族に危害を及ぼすといった脅迫、身体的暴力、劣悪な生活環境、賃金差押え等の人権侵害が起きている。」
また、入管OBで現在は一般社団法人 移民政策研究所の坂中英徳 所長の技能実習制度に対する見解は、次のとおりです。
「技能実習生の送り出し国、厚生労働省、法務省等の役人の天下り財団、さらに農家、水産業者、零細企業の経営者などの雇用主から、ひたすら搾取される構造になっている。」「すでに国際的な批判を浴びており、アメリカ政府からは「強制労働に近い状態」、国連からも「奴隷・人身売買の状態になっている」などの厳しい批判を受けている。深刻化する人手不足を補う一時しのぎの措置ということだとしても、払う代償は余りにも大きい。」「非人道的で、中間搾取のかたまりとも言うべき技能実習制度は一刻も早く廃止すべきだ。」
令和3年夏には、ついに法務大臣が次のようにご発言になったのでした。
「人づくりによる国際貢献という技能実習制度の目的と、(実習実施者が技能実習生を)人手不足を補う労働力として扱っているという実態がかい離していること、………、不当に高額な借金を背負って来日するために、不当な扱いを受けても相談・交渉等ができない実習生がいること、原則、転籍ができないとされているため、実習先で不当な扱いを受けても相談・交渉等ができない実習生がいること、………等の問題点の御指摘があり、私としても、これらはもっともな御意見であると受け止めています。」(2022年7月29日法務大臣閣議後記者会見より)
(注3)裏を返せば、この記事の最初の結論で述べたように、より定住化、移民化しやすい外国人材の受け入れとなる技能実習制度の制度設計に際して、「定住防止型」の出入国管理政策として万全を期すためには、「開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」への協力」という大義名分が必須であった、と言えます。だからこそ、早くから実態と乖離しているという指摘を受け続けても、「開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」への協力」という看板を降ろすことができないでこんにちに至っているのでしょう。