日本国憲法が規定する基本的人権の保障は、外国人にも及ぶのか?:判例・通説は「性質説」
日本国憲法の条文上の「国民は」という文言と「何人も」という文言の差異は参考となるにすぎず、権利・自由の性質によって判断すべきであり、基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としているものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶことが原則です(注1)。
我が国に在留する外国人は、法に基づく外国人在留制度(注2)の枠内でのみ、憲法の基本的人権の保障が与えられている(注3)ことがほとんどであり、それ以外の場合には保障されないことがあります。
外国人に憲法の基本的人権規定の適用があるとしても、日本国民と同じ保障が及ぶことを意味するわけではなく、日本人と在留外国人で合理的な理由に基づいて取扱いの差異を設けることが許されます。
(注1)不法入国外国人、不法移民であっても、人間として当然享有する人権を有しています。ただし、日本国民であれ外国人であれ、基本的人権は無制約ではなく、公共の福祉による制約を受けることがあります。
(注2)「出入国管理及び難民認定法」(略称「入管法」)は、外国人が日本に滞在するための資格を定める「在留資格制度」を規定しています。「留学」、「技術・人文知識・国際業務」、「高度専門職」、「介護」、「技能実習」、「家族滞在」、「日本人の配偶者等」、「永住者」などの在留資格があります。在留資格を持つ外国人は、法的に認められた在留期間内に、自分の在留資格に応じた活動を行うことができ、必要な手続きを行うことで滞在を継続することができます。
(注3)在留外国人にも種々のタイプ(例えば、永住外国人はもちろん、我が国での滞在期間が長期で生活の実態が深く定着している外国人と、そうでない外国人)があるので、在留外国人を合理的な理由に基づいて類型化して保障の程度に差異を設けることも、理論的には可能であることが指摘されています。
「憲法上の権利」と「法律上の権利」
憲法上外国人に保障されていない基本的人権であっても、国民主権の原理により国民に排他的に認められているものを除き、法律によって保障されることがあります。ただし、法律で認める場合においても、日本国民と在留外国人で合理的な理由に基づいて取扱いの差異を設けることが許されます。
覚えておくべき重要な点:憲法上は外国人には保障が及ばない権利であっても、立法措置によって「法律上の権利」として認めることが可能
憲法上外国人に保障されていない基本的人権であっても、国民主権の原理からして国民にのみ認められるもの以外は、立法裁量の問題であり、必ずしも外国人に保障が禁止されるわけではありません。外国人のために法律が制定されれば当然に保障されることになります。
例えば、外国人の日本への入国については、
まず、日本国憲法第22条第1項(居住・移転の自由)は、外国人が日本に入国する自由についてはなんら規定しておらず、日本への入国の自由は外国人には保障されていません。
次に、国際慣習法上、外国人の入国・在留を認めるか否か、認める場合にどのような条件の下にこれを認めるかは、我が国が締結し若しくは加入した特別の条約又は確立された国際法規による制約がない限り、国家の自由裁量に属するものとされています。
その上で、「法律による行政の原理」(注4)に従って、日本国は、どのような外国人の入国を認め、どのような外国人の入国を拒否するかについて、立法機関である国会が制定した「入管法」で定め、この法律に基づき出入国管理の権限を行使しています。
入管法第9条第1項には「入国審査官は、審査の結果、外国人が第7条第1項に規定する上陸のための条件に適合していると認定したときは、当該外国人の旅券に上陸許可の証印をしなければならない。」と規定されています。
つまり、外国人は、入管法第7条第1項に規定する上陸のための条件に適合している場合には、その限りにおいてですが、法律上の権利として日本に入国する権利を有していると言えます。
(注4)「法律による行政の原理」とは、行政は、行政機関独自の判断で行われてはならず、国民の代表である議会が定めた法律に従ってのみ行われなければならないことをいいます。