「認めるべき」も一つの政治的意見ですが、その理由として納税と結びつけるのはおかしい!
学校の歴史で習ったことを思い出しましょう。
歴史的に、国政選挙において財産(納税額)等の制限を設けずに選挙権を行使できるようにすべきということで、現在の「普通選挙制度」が実現したのです。
参政権と納税は別個の概念として扱われるべきもの
その理由は次のとおりです。
①公平性と平等性の原則
参政権は、あらゆる国民に公平かつ平等に与えられるべき権利です。納税能力や財産の有無に基づいて参政権を制限することは、社会のある一部の人々を差別し、政治的な意思決定への平等な参加を妨げる可能性があります。
②納税と参政権の異なる性質
納税は財政的な貢献であり、政府の運営や公共サービスの維持に必要です。一方、参政権は国民の権利であり、政治的な意思決定に関与する権利です。これらは本質的に異なる概念であり、両者を結びつけることは適切ではありません。
②社会的な包摂と民主主義の原則
参政権は、社会全体の利益や多様な意見を反映するために重要です。納税と参政権を結びつけると、経済的な能力に基づいて政治的な影響力が偏り、特定の利益や階層が優位に立つ可能性があります。民主主義の原則に照らして、全ての国民が政治に参加できる機会と平等性を確保することが重要です。
“認める(べき)派” の主張するメリット等とは
“認める(べき)派” は、「外国人ならではの多様な価値観や考え方を政治に反映できる」と主張しています。
けれども、それなら、
〇公聴会において意見を聴取する対象に必ず永住外国人を含めるようにする
〇アンケート調査、実態調査等に必ず永住外国人を含めるようにする
ことで対応可能です。
また、“認める(べき)派” は、「日本は閉鎖的な国だという印象を海外に与えるおそれれがある」と言ったりもしています。
けれども、外国人参政権は、ヨーロッパなどで一定の制約下で認められているケースがあるものの、世界的にはまだまだ一般的ではないので、「日本は閉鎖的な国だという印象を海外に与えるおそれがある」という主張は虚仮威し(こけおどし)と言わざるを得ないでしょう。
日本人と外国人が安全に安心して暮らせる社会の実現に必要なものは………
日本国が経済社会の担い手の補充として即戦力となる外国人材をそれ相応の人数規模でどうしても必要としているという現実を直視するならば、
このブログの過去の二つの投稿記事
『日本は移民国家? これさえ押さえれば完璧 その2「日本が今後とも米国型の移民制度を設けずにいても、外国人の定住化そして移民化を “皆無” にはできない」』(2023年1月9日付け)
『日本は移民国家? これさえ押さえれば完璧 その3「どのようなタイプの外国人がより定住化、移民化しやすいのでしょうか?」』(2023年1月10日付け)
で説明しましたように、
受け入れる外国人材の日本への定住化・移民化を一人残らず完全に阻止することは困難であって、ある程度の割合の人数の定住化・移民化を覚悟して想定した上で、それ相応の社会統合政策を後手に回ることのないように早くから実行することが必要不可欠なのです。
そもそも、外国人材の来日目的が出稼ぎの場合には永住許可は不要ですし、日本政府は移民受け入れ政策ではないとしているのですから、外国人材に選んでもらえる国になるという観点からも、永住許可の緩和・早期付与は筋違い(注1)であって、肝心なのは
「在留資格を有する全ての外国人を孤立させることなく、社会を構成する一員として受け入れていくという視点に立ち、外国人が日本人と同様に公共サービスを享受し安心して生活することができる環境を全力で整備していく。」(注2)こと
でしょう。
なお、受け入れる外国人材のなかに定住化・移民化を希望する者が含まれていることを肯定的にとらえて想定しておくならば、彼ら・彼女らの日本語教育にかかる費用や必要な支援を本人自身や受け入れ企業等だけの負担とするのではなくて、国や自治体が日本語教育環境の整備をはじめとする然るべき公的支援を十分にすることで、外国人材に永住許可を経て帰化の許可を得るように政策誘導することが最適解であろう、と考えています。
以上から、私は、永住外国人への地方参政権の付与は不要であり不適当でもある、という考えです。
(注1)結果的に玉石混淆の移民の受け入れにつながるおそれがあります。
(注2)『外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和4年度改訂)』(令和4年(2022年)6月14日 外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議)の「Ⅰ 基本的な考え方」より。
韓国籍の永住外国人には韓国との相互主義で認めるべきという意見について
韓国では永住外国人に地方参政権を認めていることを理由として、相互主義の観点から、日本も、日本に永住している韓国人に地方参政権を付与すべきである、という意見があります。
この意見に関しては、見落としてはならないポイントがあります。
それは、
韓国の永住許可制度は、許可要件が日本よりもかなり厳しくて、韓国人の配偶者や未成年の子である外国人以外は、韓国人の一人当たり国民総所得の4倍以上の年間所得がある者、高額投資をした上で一定人数の韓国人を雇用した者、博士学位取得者、韓国への特別功労者などにしか永住許可を認めていない
ということです。
したがって、もしも仮に、“高度な政治・外交的判断” とやらで、相互主義の観点から、日本に在留する韓国籍の永住外国人に地方参政権を付与するという場合には、実質的な対等性を確保することが重要かつ必要だ、と私は考えています。
具体的には、
韓国籍の永住外国人(出入国管理関係法令上の「特別永住者」と「永住者」)のうち、日本人と国際結婚をしている韓国人(注:父母のどちらかが日本国民なら子は日本国籍)以外は、
韓国の永住許可要件に倣って、日本国民一人当たり国民総所得の4倍以上の年間所得がある者、高額投資をした上で一定人数の日本国民を雇用した者、日本国への特別功労者などに、地方参政権の付与対象を限定すべきであって、
そうであってこそ真の相互主義と言えます。
備考:最高裁判所判決(平成7年(1995年)2月28日、最高裁第三小法廷)
この判決のポイントは、次のとおりです。
〇「憲法93条2項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するもの」であり、在留外国人に対して地方参政権を保障したものということはできない。
〇居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められる定住外国人に対し、法律をもって、地方参政権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないが、それは専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、そのような立法を行わないからといって違憲の問題を生ずるものではない。
〇選挙権を日本国民たる住民に限るものとした地方自治法11条、18条、公職選挙法9条2項の各規定が違憲だということはできない。