『送還忌避者の実態について』(出入国在留管理庁 令和2年3月27日)によれば………
「送還忌避者」とは、「入管法(※)の定める慎重な手続による審査を経て、退去強制事由に該当すると判断され、かつ、特別に在留を許可すべき事情がないため在留特別許可が付与されずに退去強制処分を受けた者であり、もはや退去強制手続において採り得る手段はなく、速やかに送還することが求められているにもかかわらず、法律上又は事実上の作為・不作為により日本からの退去を拒んでいる被収容者である。」。
「令和元年12月末現在の送還忌避被収容者649人のうち、272人 (42%) が有罪判決(入管法違反によるものを除く。以下同じ。)を受けており、66人 (10%) が仮放免中の犯罪により有罪判決を受けている。」
(※)正式名称は「出入国管理及び難民認定法」。
5月9日のNHKニュースによれば………
「外国人の収容のあり方を見直す入管法の改正案が、衆議院本会議で自民・公明両党と日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決され、参議院に送られました。
出入国管理法などの改正案は、難民申請中は強制送還が停止される規定について、申請を繰り返すことで送還を逃れようとするケースがある(※)として、3回目の申請以降は、「相当の理由」を示さなければ適用しないことや退去するまでの間、施設に収容するとしていた原則を改め、入管が認めた「監理人」と呼ばれる支援者らのもとで生活できることなどが盛り込まれています。
また、自民・公明両党と日本維新の会、国民民主党の4党の協議の結果、難民認定が適正に行われるよう、専門的な職員を育成することなどの修正が加えられています。」
(※)「送還を拒否するなどして収容が長期に及ぶ不法滞在外国人のうち、懲役3年以上の実刑判決を受けた刑法犯が昨年末時点で約310人に上り、うち難民認定申請中が約150人と半数近くを占めることが18日、分かった。申請を繰り返すケースもあり、申請中は本国へ送還できない「送還停止効」の悪用も疑われる。」(産経新聞2021年5月18日)
達成すべき目標はたった一つではない
A:条約難民(注)の認定の判断、退去強制令書発付に至る過程における在留特別許可の付与の適否の判断の両方ともに判断ミスがあってはならないという前提の下で、抵抗する送還忌避者のほとんどであろう、移民目的で難民認定制度等を濫用する不法移民に過ぎない者に対して、ゴネ得による仮放免(を経ての最終的には在留特別許可の獲得)をあきらめさせること
B:【詐病によって収容を逃れようとする被収容者】と【本当に病気の被収容者】を確実に見分けること
のA・B両者は、どちらも重要な達成目標なのです。
(注)「難民の地位に関する条約」&「難民の地位に関する議定書」で定義された難民の要件に該当すると判断された人を、経済難民や避難民等を含むいわゆる難民と区別する場合の呼び方。
「日本型移民政策」の提唱者 坂中英徳 一般社団法人移民政策研究所長(出入国在留管理庁OB)の主張
移民政策研究所のホームページの2023年5月2日付け投稿記事『難民認定制度を全面的に改めるべきだ』には、次のように記されています。
1.「各方面から厳しい批判を受けている退去強制手続きを、外国人の人権に最大限配慮するものに改めるべきだ。裁判官が関与する身柄拘束手続きに改めるなど抜本的な改革が必要だ。」
2.「ウクライナ避難民の受け入れを円滑に進めるため、難民認定数が極端に少ないなど各界からの批判が絶えない難民認定制度を全面的に改めるべきだ。法務省出入国在留管理庁の難民認定室を廃止し、内閣府に学者、外交官、裁判官の三者からなる難民審査委員会を設置すること、同委員会に難民調査官を配置すること。」
この投稿記事にはこれ以上の言及はありませんが、坂中氏の著書『移民国家日本が世界を変える』(2020年12月30日発行 発行者:移民政策研究所)の「8 大量不法移民の流入を鉄壁の守りで阻止する」と題する小節(202~203頁)には、
「大量移民時代の日本は、移民受け入れ計画に基づき正面から入る移民を積極的に受け入れる一方で、……裏門から潜り込もうとする外国人を徹底的に取り締まる必要がある」
「関係当局は不法移民の入国管理は日本の安全保障の不可欠な一部であると認識し、中国から押し寄せてくる不法移民を鉄壁の備えでくいとめるべきだ。」
と記されています。
私の愚見:あるべき理想像は………
1.退去強制手続きの抜本的な改革については、
在留特別許可に値しない者があの手この手で送還を忌避して送還を免れてごね得で仮放免ひいては在留特別許可を獲得すること(=不法移民がゴネ得で移民になれること)を実効的に防止できる制度設計とワンセットになっていること
2.難民認定制度の全面的な改革についても、
経済難民等による難民認定制度の濫用を有効に防止できる制度設計とワンセットになっていること
があるべき理想像ではないでしょうか?
読売新聞の5月10日付け社説「入管法改正案 外国人の長期収容解消を急げ」
私は、読売新聞5月10日付けの社説「入管法改正案 外国人の長期収容解消を急げ」の中の次の主張には同感です。
「政党間協議を通じ、より良い立法を追求するのが政治の技術だ。改正案が十分ではないとしても、一定の改善につながる以上、早期に成立させるべきだ。」
「国は、収容者の人権に配慮しつつ、運用の改善を急がねばならない。」
「入管当局や施設側は、収容者の命と健康を守る責任があることを自覚し、マイナスイメージの払拭に努めなければならない。」