「「(補充)移民政策」はとらない」とは
提言書『人口ビジョン2100』の本文23~24頁には
〇「(補充)移民政策」はとらない
〇人口減少を補充するための、いわゆる「(補充)移民政策」はとるべきではないと考えます。
と明記されています。
が、同時に、
〇永定住外国人に関する政策は、「強靭化戦略」の一環として位置づけていくことが適当であると考えます。
と記されています。
以上から言えることは、この提言書が政策として「とらない(採用しない)」ことを明言しているのは、あくまでも「人口減少を補充するための、いわゆる「(補充)移民政策」」なのであって、外国人の受け入れの主たる目的(あるいは当初の目的)が、人口減少の補充ではなくて人材確保であるならば、何ら否定していないのです。
「移民」の定義についての再確認
国際連合広報センターのホームページには、次のように記載されています。
「国際移民の正式な法的定義はありませんが、多くの専門家は、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなすことに同意しています。3カ月から12カ月間の移動を短期的または一時的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別するのが一般的です。」
これに対して、移民の国と呼ばれるアメリカ合衆国の法制度では、移民とは「永住権所持者」を指しています。
では、日本政府の見解はどうなのか、それは次のとおりです。
「仮に、入国と同時に在留期間を無期限で与える形態を移民として捉えるのであれば、我が国の入国管理制度というのは、我が国での永住を希望する外国人に対しては、その入国と同時に永住を許可することができる制度にはなっておりません。その意味において、我が国は移民制度をとっていないと言えるのではないかと考えております。」(平成29年2月8日衆議院予算委員会における法務大臣答弁より)
日本は移民国家なのか否か?その答えは………
① 日本は、米国型の移民制度(外国人に入国と同時に永住を許可することができる制度)を導入していません。つまり、米国型の移民(制度採用)国家ではありません。
② けれども、日本は、外国人に対する永住許可の制度(及び帰化の許可の制度)によって、許可要件を満たす外国人に永住許可(さらには帰化の許可)を与えるという形で、移民を受け入れています。
③ 以上から、日本は、米国型の移民国家ではありませんが、中長期在留外国人に対する永住許可(そして帰化の許可)という形で移民を受け入れている国、れっきとした移民がいる国なのです。
※法務省出入国在留管理庁の公表資料によれば、2022年一年間の永住許可件数は3万7992件、2022年6月末日時点での永住外国人の人数は、在留資格「永住者」が88万178人、法的地位「特別永住者」が28万4807人、在留資格「高度専門職2号」が1323人です。
④ ただし、世界中の大抵の国家は、外国人に対する永住許可の制度、帰化の許可の制度を有しているはずですので、永住許可の制度、帰化の許可の制度を有することをもってわざわざ “移民国家” と呼ぶことには意味がないでしょう。
※参照:2023年1月9日付け投稿記事『日本は移民国家? これさえ押さえれば完璧 その1「米国のような移民制度のない日本に、なぜ移民がいて、増えていくのか?」』
この提言書に登場する「永定住外国人」とは
この提言書では、日本の出入国管理関係法令とは多少異なる定義づけをしています。
私なりの解釈と補足説明をしつつ紹介します。
①提言書に登場する「永住外国人」という表現
滞在期間の制限がない外国人で、講学上の「永住型移民」にあたる。
私なりの補足説明
出入国管理関係法令上の「永住者」、「特別永住者」、「高度専門職2号」が該当します。
②提言書に登場する「定住外国人」という表現
滞在期限に上限がある外国人で、講学上の「一時滞在型移民」にあたる。
私なりの補足説明
滞在期間の制限がない外国人以外であって、かつ、国境を超えて定住国を変更する移動をした者、つまり観光そ の他外国での滞在期間が3か月未満の者を除いた者を指しているように思われますので、日本の出入国管理関係法令上の「中長期在留者」とほぼ同じだとみなしてよいように思われます。
③提言書に登場する「永定住外国人」という表現
①と②を合わせた総称。
④提言書に登場するいわゆる「労働移民」という表現
労働目的の永定住外国人。
この提言書には、
「いわゆる「(補充)移民政策」はとらないとしても、労働目的を中心とする永定住外国人に対する総合戦略の策定は喫緊の課題です。」
と記されています。
まとめ
この提言書が、採るべきではない政策として明言しているのは、あくまでも
人口減少を補充するための、いわゆる「(補充)移民政策」
だけです。
労働目的を中心とする永定住外国人に対する総合戦略の策定は喫緊の課題
とだけ述べていて、労働移民のこれ以上の増加についての是非、賛否には何ら言及していないのです。
よって、仮に政府がこの提言書をそっくりそのまま政府の政策方針として採用したとしても、
〇労働移民政策の在り方
〇一時滞在型移民を永住許可、帰化の許可の活用によって永住型移民として受け入れる在り方
については、フリーハンドの状態にあると言えるでしょう。
次回(その3)では、提言書が言う「目指すべきは8000万人での人口定常化」について、解説する予定です。