日本の出入国管理法と退去強制の現状:課題と解決策

はじめに

日本では、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)に基づき、退去強制(注:マスコミ用語は「強制送還」)の対象となる外国人がさまざまな理由で国内に留まり続けるケースが存在します。この背景には、難民認定申請の濫用本国政府の受け入れ拒否送還時の妨害行為収容期間の制限と人権問題などが関係しています。本記事では、これらの課題とその解決策について詳しく解説します。

難民認定申請の濫用

現行の入管法では、難民認定手続中の外国人は、申請中は退去が一時的に停止される制度となっています。しかし、この制度を利用し、退去を回避するために難民認定申請を繰り返す事例が報告されています。例えば、2018年1月15日以前は、難民認定申請者は申請から6ヶ月経過後に就労が許可されていましたが、明らかに難民と認められない申請者による制度の濫用が問題視されていました。そのため、法務省は2018年1月15日以降、明らかに難民該当性がない申請者に対しては、在留や就労を認めない方針に転換しました。

本国政府の受け入れ拒否

一部の国では、自国民の受け入れを拒否するケースがあります。この場合、強制送還を試みても、本国政府が受け入れを拒否するため、送還が実現しません。
例えば、2025年1月、アメリカ合衆国は軍用機を使用してグアテマラへの不法移民の強制送還を実施しましたが、コロンビアは当初、送還受け入れを拒否しました。その結果、トランプ政権はコロンビアに対して関税措置を警告し、最終的にコロンビアは受け入れに同意しました。

送還時の妨害行為

送還対象者の中には、航空機内で暴れる、大声を上げるなどの行為を行い、他の乗客や運航の安全に影響を及ぼす者がいます。このような場合、航空会社が搭乗を拒否するため、物理的に送還が困難となります。
アメリカでは、軍用機を使用して不法移民の強制送還を行うケースがあり、2025年1月にはC-17輸送機を使用してグアテマラへの送還が実施されました。

収容期間の制限と人権問題

日本の出入国管理制度では、在留資格を持たない外国人に対して、退去強制令書が出された場合、一律に収容が可能とされています。しかし、収容期間に制限がないため、長期収容が人権侵害として問題視されています。2021年3月には、名古屋出入国在留管理局で収容中のスリランカ人女性が死亡する事件が発生し、収容環境や医療体制の不備が指摘されました。

解決策

(1)難民認定手続の見直し
難民認定申請の濫用を防ぐため、申請回数や理由に基づいて送還停止の適用を制限することが検討されています。具体的には、明らかに理由のない申請や繰り返しの申請に対しては、送還停止の対象外とする制度改正が提案されています。2021年には、3回目以降の難民認定申請者に対して強制送還を可能とする入管法改正案が提出されましたが、収容中の死亡事件などを受けて、法案は廃案となりました。
(2)本国政府との交渉強化
自国民の受け入れを拒否する国に対しては、外交交渉を通じて受け入れを求める努力が必要です。国際法上、自国民を受け入れる義務があることを踏まえ、国際的な協力を強化することが求められます。
アメリカでは、2025年1月に大統領に返り咲いたトランプ政権が、受け入れを拒否する国に対して関税措置を警告し、受け入れを促す手法が取られています。
(3)送還手続の安全確保
送還時の妨害行為を防止するため、専門の職員による同行や、専用機の活用など、安全かつ確実な送還手続の整備が必要です。
アメリカでは、軍用機を使用して不法移民の強制送還を行うケースがあり、2025年1月にはC-17輸送機を使用してグアテマラへの送還が実施されました。
(4)収容制度の改善
長期収容を避けるため、収容期間に上限を設けることや、収容に代わる監理措置の導入が検討されています。これにより、人道的な対応と法の適正な執行のバランスを図ることが期待されます。例えば、一定期間以上の収容を行わないという制限を設けることで、外国人の人権が守られるとともに、入管当局の対応も改善される可能性があります。また、収容に代わる措置として、外出許可や報告義務を設ける監理措置を導入することが議論されています。これにより、長期収容の負担を軽減し、国際的な人権基準を遵守する形で問題を解決する方向が見込まれます。

日本の出入国管理制度の強化に向けて

退去強制事由に該当する外国人の適切な処遇を実現するためには、これらの課題に対する解決策が不可欠です。難民認定申請の濫用を防ぐための制度改正や、本国政府との交渉強化、送還手続きの安全確保、収容制度の改善といった対策を講じることで、退去強制を円滑に進めることが可能となるでしょう。

日本の出入国管理制度は、依然として改善の余地がある部分が多いため、これらの解決策を実現することで、より人道的かつ効果的な体制が築かれることが期待されます。また、他国の事例を参考にしながら、送還手続きや外交交渉の戦略を見直すことで、退去強制の実効性を高めることができるでしょう。

最終的には、外国人の人権を守りつつ、出入国管理の適切な運用を進めるために、法的な枠組みの整備や行政当局の柔軟な対応が求められます。
日本における出入国管理制度が、より公正で透明性の高いものとなり、国際的な信頼を得るための一歩となることを願っています。

結論

退去強制事由に該当する外国人が日本国内に留まり続ける背景には、制度の不備や外交問題、送還時の障害が影響しています。しかし、難民認定申請の濫用防止や本国政府との交渉、送還手続きの安全確保、収容制度の改善などの対策を講じることで、問題の解決が期待されます。今後は、入管法の見直しを進め、より効果的で人道的な出入国管理が実現されることが求められます。

タイトルとURLをコピーしました