「人民の、人民による、人民のための政治」は正しい訳か?──リンカーンの名言を読み解く

民主主義を象徴する名言とは?

「人民の、人民による、人民のための政治」
この言葉は、アメリカ合衆国の第16代大統領エイブラハム・リンカーンが、南北戦争中の1863年11月に行った「ゲティスバーグ演説」の一節として、世界的に知られる名言です。

英語の原文は、こちらです。
”Government of the people, by the people, for the people,
shall not perish from the earth.”
(人民の、人民による、人民のための政治が、地上から滅びることはない)

この一文は、民主主義の本質を見事に凝縮しており、日本でも長く親しまれてきました。しかし近年では、この定訳に対して、「本当に原文の意味を正確に伝えているのか?」という疑問の声も少なくありません。

英文を文法的に読み解いてみると………

では、原文に立ち返って、英文の構造を詳しく見てみましょう。

government of the people:人民「の」政府(=人民に属する政府)
by the people:人民「による」政府(=人民が行う統治)
for the people:人民「のための」政府(=人民に利益をもたらす政治)

この三つの表現は、それぞれ所有・行為者・目的という異なる文法的要素を持ち、巧みに構成されています。リンカーンはこの表現で、「統治の主体も、客体も、受益者もすべて人民である」という民主主義の真髄を、たった一文で鮮やかに示したのです。

日本語訳を見直すと………?

従来の訳「人民の、人民による、人民のための政治」は、確かにリズムも美しく、日本語として非常に洗練されています。しかし、文法的には、すべて「の」で接続されているため、誰が統治し、誰がされ、誰のためなのかが少し曖昧になってしまいます。

そこで、より原文の構造に忠実に訳すと、こうなります。
人民が、人民を、人民のために統治する政治

この訳では、主語(が)、目的語(を)、目的(ために)が明確になり、民主主義の構造がはっきりと見えてきます。
つまり、人民が自らを律し、自らの未来のために政治を行う」という、自己統治の原則が、よりダイレクトに伝わってくるのです。

現代の私たちへの問いかけ

このリンカーンの言葉は、単なる歴史的スローガンではなく、今を生きる私たちにも深い示唆を与える言葉です。
果たして私たちの社会は、「人民が、人民を、人民のために」統治しているでしょうか?
それとも、いつの間にか「誰かのための政治」にすり替わってはいないでしょうか?
名訳の美しさを尊重しつつも、今一度、その意味をじっくりと問い直してみる価値はあるはずです。

おわりに:言葉を見直すことは、民主主義を見直すこと

「人民の、人民による、人民のための政治」

この美しい言葉にもうひとつの訳を加えるなら──
「人民が、人民を、人民のために統治する政治」

この訳は、より明確に私たち一人ひとりの責任と役割を浮き彫りにしてくれます。
民主主義は、選ばれた政治家や一部の専門家のものではありません
私たち自身が、私たち自身の未来のために関与すべきものなのです

\ 最新情報をチェック /

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました