災害から学ぶ、強くしなやかな街づくり-豪雨・台風後の復興で、自然の力を活かした防災(グリーンインフラ)の事例

夜明け前の暗闇と、日本の街づくり

近年、日本各地で豪雨や台風による被害が相次ぎました。家屋の浸水、道路の冠水、ライフラインの寸断…。被災地の映像を目にするたび、胸が締め付けられます。
しかし、私はこうも感じます。「夜明け前が一番暗い」という言葉の通り、この困難の中からこそ、新しい街のかたちが芽吹いているのではないか、と。

その芽吹きを支えているのが、「グリーンインフラ」という考え方です。コンクリートだけに頼らず、自然の力を活用して防災や環境保全を行う手法。日本各地に、未来に希望を感じさせる取り組みが生まれています。

事例① 雨を庭に受け入れる―京都先端科学大学・太秦キャンパス

京都市右京区の太秦にある京都先端科学大学(旧:京都学園大学)のキャンパスには、雨水を地面に浸透させる「レインガーデン(雨庭)が整備されています(京都先端科学大学造園設計事例 2014年実施)【出典:ランドスケープ事業者施工実績】。
豪雨時には一時的に雨水を溜め込み、ゆっくりと地下へ染み込ませます。これにより、下流での洪水リスクを減らし、普段は緑あふれる空間として学生や地域住民が憩える場所となっています。まるで自然と都市が静かに握手を交わしているような景色です。

事例② 雨水と暮らす文化―東京都墨田区の雨水ネットワーク

墨田区は、住宅密集地にもかかわらず、雨水を敵ではなく「資源」として捉えてきました。区内には「路地尊」や「天水尊」と呼ばれる雨水タンクが各所に設置され、日常の植木の水やりから災害時の生活用水まで幅広く利用されています(墨田区公式サイト 令和6年3月末現在 総貯留量26,780m³)【出典:墨田区公式「雨水貯留施設」ページ】。
この雨水ネットワークは、住民同士の助け合いを生み出す社会的インフラでもあります。まるで江戸時代の長屋の井戸端のように、人と人が雨水を介してつながっていくのです。

事例③ 都市の真ん中に防災と憩いの場―豊島区「としまみどりの防災公園」(愛称「IKE・SUNPARK」)

東京都豊島区のIKE・SUNPARKは、平時は緑豊かな芝生広場として子どもたちの遊び場や地域イベントに使われていますが、災害時には物資拠点や避難場所、ヘリポートとしても機能します(豊島区公式サイト「IKE・SUNPARK概要」)【出典:豊島区公式サイト】。
公式に「スポンジシティ」と呼ばれてはいませんが、都市に雨水浸透や防災拠点の機能を組み込み、平常時と非常時をシームレスにつなぐ点で、その理念に通じる先進例です。

事例④ 横浜市の公園再整備と雨水貯留

横浜市では、豪雨時に雨水を一時的に貯める地下貯留施設や、雨を土に浸透させる透水性舗装、公園の再整備が進んでいます(横浜市環境創造局 グリーンインフラ推進計画)【出典:横浜市公式資料】。
地域によっては多目的広場を「一時的な水のゆりかご」として使う仕組みも導入。水害を単なる脅威ではなく、コントロール可能な自然現象として受け入れる発想が広がっています。

「夜明け前」に芽吹く希望

これらの事例は、単なる施設整備の話ではありません。そこにあるのは、地域が持つ記憶と自然へのまなざし、そして人々が未来を諦めないという意思です。
私たちはまだ「夜明け前」の暗闇にいるかもしれません。しかし、その足元には確かに、新しい光の芽が育ちつつあります。

豪雨や台風の被害から学び、自然の力を味方につけた街づくりを進めること。それは、次の世代に「この街で生きてよかった」と思ってもらえる未来を手渡すことなのです。

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