国際協力機構(JICA)が今年発表した「JICAアフリカ・ホームタウン」事業に関して、国内外でさまざまな誤解や憶測が広がっています。「アフリカから日本に移民を定住させるのではないか」といった不安や、「日本政府は事実を隠しているのでは」といった推測も散見される状況です。
しかし、事実関係を整理すると、この事業の本質は、日本国内の自治体とアフリカ諸国との交流を強化する取り組みであり、移民受け入れや定住政策とは無関係です。
事業の概要と目的
「JICAアフリカ・ホームタウン」事業は、JICAがこれまでに培ったアフリカ各国との交流の実績をもとに、さらに関係を深めることを目的としています。具体的には、日本国内の4つの自治体をそれぞれアフリカ4か国の「ホームタウン」として認定し、
〇地域住民とアフリカ各国の人々による交流イベントの開催
〇海外協力隊員の活動報告やワークショップ
〇教育・文化・ビジネスを通じた相互理解の促進
といった活動を想定しています。
ポイントは、あくまで「人と人との交流」を通じた国際協力であり、「移民受け入れ」や「定住」を目的としていないことです。
JICAの権限と移民政策の所管
ここで「そもそも論」を確認しておきましょう。
JICAとは、日本政府が定めた援助政策に基づき、技術協力、有償資金協力、無償資金協力といった開発途上国への支援を、相手国のニーズに合わせて一体的に実施する役割を担っている独立行政法人です。
一方、日本における外国人の出入国・在留管理行政を所管するのは、法務省の外局である出入国在留管理庁であり、査証(ビザ)の発給は外務省の管轄である在外公館(大使館や総領事館)が行います。
したがって、JICAには「移民受け入れ」や「定住政策」を実施する権限はなく、今回の「アフリカ・ホームタウン」事業もそのような政策ではあり得ません。
「home town」という名称が引き起こした誤解
今回の事業でJICAが使った「home town」という言葉は、英語圏では通常「出身地」「ふるさと」「生まれ育った町」といったニュアンスを持ちます。
そのため「日本の自治体をアフリカ諸国のホームタウンに認定する」と聞くと、一部の報道やSNSでは「アフリカの人々が日本の町を自分のふるさととして定住するのではないか」と誤解されやすくなりました。
つまり、名称ひとつで政策や事業の印象は大きく変わり、事実とは異なる情報が拡散されるリスクがあることがよくわかります。特にSNSやニュースの断片的な情報だけでは、事業の本来の趣旨が十分に伝わらないこともあります。
名称は意図的なものだった可能性
ここで重要なのは、JICAがわざわざ「home town」という表現を用いたのは、単なる表現上のミスではなく、意図的なものだった可能性を完全には否定できないという点です。
ナイジェリア政府の公式発表は、後日、日本政府の訂正申し入れに応じて修正されましたが、「特別ビザ創設」が両国政府の今後の検討課題、あるいは実現目標として意識されていた可能性も議論されています。
「home town」という名称の曖昧さが、国内外でさまざまな誤解や憶測を生む原因になってしまった可能性は否めません。
より適切な名称の提案
事業の本来の趣旨を正確に伝えるためには、次のような名称がよりふさわしかったと考えられます。
①Partner City(パートナーシティ)
「相互の協力関係を結んだ都市」を意味する表現。国際交流の文脈で広く使われ、対等な関係を示すため誤解を招きにくい。
②Exchange Hub(交流拠点)
「人の交流や協力の中心地」という意味を直接的に伝える表現。hub という言葉は国際的にも一般的で、わかりやすい。
これらの表現であれば、事業の趣旨がより明確に伝わり、移民や定住といった誤解を防ぐ効果があります。
情報を正しく理解するために
この事例は、名称ひとつで政策や事業の印象が大きく変わることを示しています。また、国内外の情報の受け取り方や報道の仕方によっても、誤解は広がりやすいという教訓でもあります。
私たちは、断片的な情報やSNS上の憶測だけで判断せず、公式発表や一次情報を慎重に確認する姿勢が求められます。特に国際協力や行政発表では、表現の微妙な違いが誤解を招くことがあるため、事実関係を整理したうえで理解することが重要です。
まとめ
〇JICAの「アフリカ・ホームタウン」事業は、日本国内の自治体とアフリカ諸国の交流を促進する取り組みであり、移民受け入れや定住政策ではない。
〇「home town」という名称が誤解を生みやすい要因となった。
〇JICAには移民政策を担う権限はなく、ビザ発給や出入国・在留管理は外務省・法務省の所管である。
〇事業の趣旨を正確に伝えるには、Partner City や Exchange Hub といった名称が適切である。
〇言葉の選び方ひとつで国際協力の印象や理解は大きく変わるため、事実に基づいた冷静な理解が求められる。