在日の「通名」問題を “別名使用の平等性” から捉え直す――日本社会の名称使用慣行と、制度の公正性を再点検する

はじめに

在日韓国・朝鮮人の「通名」をめぐる議論は、しばしば法的有無や感情論で紛糾します。だが問題を解く鍵は、通名を単独で批判することよりも、日本社会全体に存在する「本名以外名称(別名)」の慣行と、その取り扱いの公平性・透明性をどう確保するかという制度設計の視点にあります。本稿は、事実関係の検証を踏まえ(注:主要出典を本文末に示しています)、通名問題を「別名使用慣行の平等性」から整理し、実践的な改善案を示します。

日本に根づく「本名以外名称」の多様性

日本社会では、芸名・ペンネームに加え、歌舞伎等の襲名、茶道や華道の家元名、書道家や画家の雅号、近年のビジネスネーム(職場用通称)など、多様な「別名使用」の慣行があります。これらはいずれも戸籍上の本名を前提としつつ、社会的・職業的機能を果たすために使われるものであり、公的手続きでは本名が原則であるという基本枠組みと共存しています(住民票や行政手続きの実務は本名優先の原則があります)。

通名の法的・行政的地位(事実関係)

通名(通称)の住民票記載は、制度的には地方自治体の運用に基づくものであり、必ずしも法律上の「権利」として保障されたものではありません。裁判においても、通称の使用・記載を法律上の権利として肯定する判断は限定的で、通称は行政の裁量的取り扱いにとどまるとの解釈が示されている例があります。

また、2013年頃には総務省が通称記載の運用要件を厳格化し、通称の安易な変更を抑制する旨の通知を出した経緯があります(以後、自治体の運用は厳格化されたようです)。この点は、制度が完全に自由放任ではなく、悪用抑止を意図した行政上の整理が進められてきたことを示しています。

問題点の整理:不平等・悪用・報道の扱い

ここで通名制度の問題点を三点で整理します。
(1)国籍に依存する運用の不均衡
第2次世界大戦後の歴史的経緯により、在日韓国・朝鮮人に対して通称記載が慣行的に広がった面がありますが、21世紀のこんにちの多国籍化を考えると、特定国籍を事実上優遇する運用は合理性を欠き、平等の観点から問題となり得ます。
(2通称の変更・悪用リスク
通称の変更や併用の制度運用が不十分だと、本人確認の齟齬や不正利用の温床になり得ます。総務省の2013年通知が示すように、行政は要件厳格化でこのリスクを是正しようとしてきましたが、運用のばらつきは残っています。
(3)報道における取り扱いの不均一性
犯罪報道等で通名のみが用いられ、本名(戸籍名)を明示しないまま社会的責任の所在が曖昧になるケースが媒体によって存在しています。報道の慣行にはばらつきがあり、これが「在日=日本人扱い」の誤解を生むことがあります(報道基準の統一が求められます)。

基本原理――平等性・透明性・本人確認の厳格化

上記を踏まえれば、通名問題の解決は次の三原則に沿って行うべきです。
①平等性
別名使用の扱いは国籍・民族・職業で差をつけない(芸能人の芸名、家元名、通称、通名を同列に扱う基準を整備する)。
②透明性
行政手続き・住民票・法律文書・報道での扱いに関する明確なルール(本名併記の基準など)を設定する。
③本人確認の厳格化
別名の登録・変更に関する明確な手続き、履歴管理、不正行為が確認された場合の抹消(および再登録制限)ルールを定める。

総務省の2013年通知はこの方向性の一部を示すものでしたが、運用の均一化と法的整備は未だ不十分です。

実務的改善案(具体的提案)

以下は制度改変の実務案です。
(A)「別名使用登録制度」の一本化
芸名・雅号・通名等を包含する登録制度を整備し、国籍を問わず申請・審査基準を統一する。
(B)変更制限と履歴管理
別名の安易な変更を原則禁じる(正当な理由がある場合のみ例外を認め、変更歴を行政が保存する)。不正が確認された場合は当該別名を抹消し、再登録を一定期間禁止する規定を設ける
(C)報道ガイドラインの整備
犯罪報道や公的責任の場面では原則として本名(戸籍名)を併記することをメディア倫理ガイドラインに明記する(本人の公表意思等の例外規定は検討)。
(D)本人確認インフラの改善
マイナンバー等を含めた本人確認制度と別名登録を連携させ、金融・不動産等での悪用を技術的に抑止する仕組みを整える。

これらを組み合わせれば、在日韓国・朝鮮人、その他の在留外国人、日本国民いずれの別名使用者に対しても公平かつ安全に名前の使い分けを許容できます。

結語

通名問題を単に「廃止か是か」の二元論で論じても、本質は見えてきません。
重要なのは、日本社会に既に存在する別名使用慣行全体を俯瞰し、平等・透明・安全に運用する制度を設計することです。
そうした包括的な制度が整えば、通名だけが特別視されることも、不当な優遇や不正利用も大幅に減るはずでしょう。

主要出典(本文で言及した5件)

〇通称使用・司法・行政の整理(論考・訴訟資料)。
〇住民基本台帳事務処理要領関連(通称記載の運用要領):総行住第17号平成24年2月10日付け各都道府県知事宛ての総務省自治行政局長名の通知『住民基本台帳事務処理要領の一部改正について(通知)』。
〇2013年総務省通知(通称要件の厳格化・変更制限に関する報道解説)。
〇大阪地裁・高裁の通名をめぐる判決報道(2013年など)。
〇報道の取り扱いのばらつきに関する研究・解説:『本名か通称名か?――新聞報道における在日コリアンの名前表記をめぐる本質主義と社会構築主義――』東洋大学 井沢(金)泰樹(泰泳))。

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