本記事は、特定の国籍や民族、個人を危険視・排除することを目的とするものではありません。
外国人一般や特定国籍の人々を一律に脅威とみなす考え方には、筆者は与しません。
本記事で論じるのは、国家が定める法制度や統治構造が、他国の安全保障や制度運用にどのような影響を及ぼし得るかという政策論・制度論です。
問題の所在を「個人」ではなく「制度」に置いた上で、日本における出入国管理政策のあり方を冷静に検討することを目的としています。
はじめに
近年、日本社会において、外国人の受け入れや在留のあり方をめぐる議論が活発化しています。労働力不足への対応、人道的配慮、国際交流の促進など、外国人受け入れには多様な意義があります。
一方で、こうした議論を進める際には、国家としての安全保障や制度運用の観点を無視することもできません。
ただし、この問題は感情論や単純な善悪二元論で語るべきものではありません。とりわけ、安全保障という言葉が出てくると、排外主義的な主張と混同されやすくなるため、議論の前提を丁寧に整理する必要があります。
まず明確にしておきたいのは、個々の移住者や在留外国人そのものが脅威であるという考え方は誤りだという点です。国籍や出身国を理由に人を一律に疑うことは、倫理的にも現実的にも正当化できません。
問題の本質は、個人ではなく、その背後にある法制度と統治構造にあります。
中華人民共和国の法制度が国際的に懸念される理由
中華人民共和国には、「国家情報法」や「国防動員法」といった法律が存在し、国内外を問わず、個人や企業に対して国家への協力義務を課し得る仕組みが制度上組み込まれています。
ここで重要なのは、この協力義務が、いわゆる映画のような諜報活動に限定されるものではない、という点です。
たとえば、海外で研究活動や企業活動に従事している中国籍の個人が、自身の専門分野に関する情報、技術動向、研究環境、人脈、業界内の状況などについて説明や情報提供を求められることも、制度上は想定されています。
また、特定の調査への協力や、第三者との連絡・仲介を依頼される可能性も否定できません。
国際社会が問題視しているのは、そうした要請がなされた場合、当事者がそれを拒否しにくい立場に置かれ得ることです。
国家情報法などは国家安全を名目に広範な協力義務を定めており、協力を拒否した場合、本人や中国国内にいる家族が不利益を受ける可能性があると指摘されています。
その結果、本人の意思とは無関係に、外国社会で得られた情報や知見が中国政府に渡るリスクが生じ得る、という点が懸念されてきました。
ここで改めて強調すべきなのは、これは特定の個人の忠誠心や人格を疑う話ではないということです。
問題は、国家が個人をどのように動員し得るか、どこまで法的に拘束し得るかという、制度と統治構造の問題なのです。
アメリカ合衆国の対応とその継続性
実際、アメリカ合衆国では第一次トランプ政権(2017~2021年)以降、中国からの人の流入について、留学生や研究者を含め、安全保障上の観点から審査を厳格化する政策が導入されました。
これらの措置は、人種や国籍そのものを理由とするものではなく、先端技術の流出や諜報活動のリスクを念頭に置いた国家安全保障政策として説明されてきました。
その後、バイデン政権へと政権交代が行われましたが、対中安全保障上の警戒姿勢そのものは大きく転換されることなく、多くの制度や運用が現在に至るまで一定程度維持・継続されています。
この点からも、こうした対応が一時的な政治的パフォーマンスではなく、超党派的な安全保障上の判断として位置づけられていることがうかがえます。
日本に求められる視点
日本においても、外国人の受け入れをめぐる議論を進める際には、同様に冷静な視点が求められます。
重要なのは、外国人の受け入れ自体を否定することではありません。
むしろ、出入国管理政策・移住政策をどのような制度として設計し、運用するかという点です。
安全保障上の然るべき規制や精査は、移民化を前提としていない在留外国人にも、将来的に定住や永住へ移行する可能性を持つ在留外国人にも、等しく必要とされます。
その意味で、この問題は「移民政策」だけでなく、「出入国管理行政全体」の問題として捉える必要があります。
具体的施策の方向性
具体的な施策の方向性としては、少なくとも次の点が挙げられます。
第一に、滞在目的や活動分野に応じた審査の精緻化です。
特に、先端技術、研究開発、重要インフラに関わる分野については、形式的な書類審査にとどまらず、制度的リスクを踏まえた慎重な判断が求められます。
第二に、入国後も含めた在留管理の透明性と継続性の確保です。
明確なルールを設け、公平に運用することは、特定の国籍者を狙い撃ちすることではなく、むしろ真面目に生活し、活動する外国人を守ることにもつながります。
第三に、同盟国や友好国との情報共有を通じたリスク評価能力の向上です。
国際的に共有されている懸念や知見を踏まえることで、過剰でも過少でもない、現実的な制度運用が可能になります。
そして第四に、こうした出入国管理行政上の対応を実効性あるものとするため、現行制度や運用だけでは対応が困難な場合には、国会における十分な議論を経た上で、必要に応じて立法措置を講ずることも検討されるべきでしょう。
制度の不備を行政裁量のみで補おうとするのではなく、民主的正統性を持つルールとして明文化することは、恣意的運用を防ぎ、内外に対する説明責任を果たす上でも重要です。
おわりに
出入国管理政策・移住政策と安全保障は、本来、対立する概念ではありません。
人権への配慮と国家の安全を両立させるためには、「誰を排除するか」という発想ではなく、「どのような制度を整え、いかに公平かつ透明に運用するか」という視点が不可欠です。
感情論やレッテル貼りに流されることなく、法制度と統治構造に着目した冷静な議論を積み重ねていくこと。そのことこそが、成熟した民主国家としての日本に、いま求められている姿勢ではないでしょうか。

