人種差別撤廃条約は「何を禁じ、何を認めている」のか――第1条を正しく読むということ

移民 出入国管理

国際条約と聞くと、「難しそう」「専門家の話」という印象を持つ方も多いかもしれません。
しかし、日本が批准している『あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約』(略称『人種差別撤廃条約』)は、私たちの日常的な政治議論や社会問題と、実は深く関わっています。
とくに第1条は、しばしば引用されます。
ただ、その一部だけが切り取られて語られることも少なくありません。
今回は、この第1条を全体として読み、「条約は本当は何を言っているのか」を確認してみたいと思います。

「人種差別」とは何か――第1条1項

第1条1項は、「人種差別」の定義を示しています。要約すれば、
人種、皮膚の色、民族的出身などを理由に、人権や基本的自由の平等な享有を妨げる行為は、人種差別に当たる。

第1条1項
この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。

この点に異論はほとんどないでしょう。
重要なのは、この定義が「目的」だけでなく「効果」も含めていることです。
善意であっても、結果として特定の集団の権利を不当に損なえば、人種差別になり得る。
ここまでは、条約が示す非常に原則的で、普遍的な考え方です。

しかし、条約はここで話を終えていません。

国籍や市民権の区別は否定されていない――第1条2項・3項

第1条2項では、はっきりとこう述べられています。
「この条約は、締約国が市民と市民でない者との間に設ける区別、排除、制限又は優先については、適用しない。」
さらに3項では、
国籍・市民権・帰化に関する制度は、原則として各国の判断に委ねられる旨を明記しています。
ただし、「いかなる特定の民族に対しても差別を設けていない」という条件付きです。

つまり条約は、
・国境を否定していない
・国籍制度を否定していない
・移民管理や在留資格の区別そのものを差別とはしていない

ということになります。
これは意外に感じる方もいるかもしれませんが、
国際人権条約であっても、国家の制度設計や社会の現実を無視していないということです。

「特別扱い」は無条件に正義ではない――第1条4項

第1条4項では、いわゆる「特別措置」について触れられています。
歴史的・社会的理由から不利な立場に置かれている集団を支援するため、
一時的に特別な措置を取ること自体は、人種差別とは見なさない。

ただし、ここには重要な制限があります。
・別個の権利を恒久的に維持してはならない
・目的が達成された後は、継続してはならない
条約は、「平等のための例外」を認めつつも、
それが新たな不平等や分断を固定化することを、明確に戒めています。

第1条を「全部読む」と見えてくるもの

第1条を1項だけで読むのと、4項すべてを通して読むのとでは、
受け取る印象は大きく変わります。

この条約が目指しているのは、
無差別・無秩序な「同一化」ではなく
・国籍や制度を踏まえたうえでの、現実的な平等
・理念と責任を両立させる社会

だと言えるでしょう。

条約を守るとは、考えることをやめないということ

国際条約は、誰かを黙らせるための「魔法の言葉」ではありません。
ましてや、国内の議論を止めるための道具でもありません。

条文を正確に読み、
「どこまでが禁止で、どこからが各国の判断なのか」を理解した上で、
私たち自身が考え、選択していくこと。
それこそが、条約を本当に尊重する態度なのだと思います。

第1条を正しく読むことは、
誰かを疑うためではなく、自分が騙されないための知的な備えです。
静かに、しかし確実に。
そうした理解が、日本社会に少しずつ広がっていくことを願っています。

※本記事についての注意書き

本記事は、特定の民族・国籍・人々を否定したり、排除したりすることを目的とするものではありません。
また、人種差別を正当化する意図も一切ありません。
人種差別撤廃条約第1条を、条文全体として正確に読み、その趣旨を冷静に理解することが、本記事の目的です。
条約の一部のみを切り取って解釈するのではなく、各項がどのような関係で構成されているのかを確認し、日本社会における議論の前提を整理したいと考えています。
なお、本記事は特定の政党・団体・個人を批判・支持するものではなく、政策や制度をめぐる議論が感情論やレッテル貼りに流れることなく行われることを願って執筆しています。
読者の皆さまには、賛否にかかわらず、条文そのものと本文の趣旨を踏まえたうえでお読みいただければ幸いです。

\ 最新情報をチェック /

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました