高市早苗首相を支持するなら自民党一択なのか?――党内力学から考える「戦略的投票」

はじめに――SNSで広がる違和感

SNS上では近頃、
「高市氏を応援していても自民党には投票しない」
「非左翼・非自民系の候補者に投票しよう」
といった主張をよく見かける。
これに対し、
「高市首相が実現したのは自民党が与党だからだ」
「高市政権を本気で応援するなら自民党一択だ」
という反論も根強い。
一見すると筋が通っているように思えるこの反論だが、本当にそう言い切ってよいのだろうか。少し立ち止まって、党内力学と選挙の現実から考えてみたい。

高市首相誕生の本当の理由

高市首相が誕生した最大の理由は、党内で保守派が圧倒的に優勢だったからではない。むしろ現実には、自民党内では依然として左派・日和見的中間派が多数を占めている。
その中で高市氏が選ばれたのは、次の選挙を見据えたとき、保守層に最も訴求力のある「顔」だったからに他ならない。
言い換えれば、それは思想的勝利というよりも、選挙戦略上の判断だった。
つまり高市首相の誕生は、党内の路線転換を意味するものではなく、「勝つために必要な象徴」として担ぎ出された結果だと見る方が現実に近い。

単独過半数がもたらす皮肉な結果

この党内構図が変わらないまま、自民党が衆院選で単独過半数を獲得した場合、何が起きるのだろうか。

まず確認しておくべき重要な点は、参議院では与党が過半数に達していないという現実である。仮に衆議院選挙で与党が単独過半数を制したとしても、参議院では引き続き与党が少数派であり、いわゆる「ねじれ」に近い状況は今後も当分の間続く可能性が高い。

制度上、衆議院で可決された法律案が参議院で否決または修正された場合、衆議院で再可決して成立させるためには、出席議員の3分の2以上という極めて高いハードルを越える必要がある。つまり、参議院で過半数を占める野党が反対に回る限り、衆議院で単純過半数を確保しているだけでは、法律案を成立させることはできないのである。

この制度的制約は、首相個人の意思だけでなく、自民党内の多数派の行動原理を強く縛る。参議院で成立の見込みが乏しい法案や、社会的・政治的な対立を激しく招きかねない争点については、党内主流派ほど慎重になりやすい。「どうせ参院で止まる」「波風を立てるだけ損だ」という判断が、政策提起そのものを抑制する方向に働くからである。

その結果、高市首相が掲げる安全保障、憲法改正、歴史認識などの右派的政策は、党内多数派の十分な支持を得られず、実行が極めて困難になる可能性が高い。仮に議論の対象となったとしても、調整に次ぐ調整の末に骨抜きにされるか、最終的には棚上げされる展開が想定される。

もし首相がこうした党内状況を押し切り、強引に政策を実行しようとすれば、今度は党内から強い反発を招くことになるだろう。場合によっては、党内不満が結集し、「高市降ろし」とも言うべき動きが表面化する可能性すら否定できない。

このように考えると、自民党が衆院で単独過半数を獲得することは、一見すると安定政権の条件のように見える。しかし皮肉なことに、それは高市首相の政策的自由度をかえって狭める結果になりかねない。単独過半数は、必ずしも首相に強力な推進力を与えるとは限らない――それが、現在の党内力学と国会構成が突きつけている現実なのである。

なぜ「自民党以外」が意味を持つのか

こうした状況を踏まえると、「自民党左派の選挙区に候補者を擁立する」という参政党の戦略は、単なる反自民ではなく、党内構造に揺さぶりをかける試みとして一定の合理性を持つ。
自民党の外から圧力をかけ、党内左派の数を減らすことができれば、高市首相の政策に賛同する勢力の発言力は相対的に高まる。直接与党に投票しなくとも、結果として高市路線を後押しするという発想だ。
これは感情的な「自民党不支持」ではなく、政策実現を見据えた冷静な戦略論である。

※2026年1月25日追記

なお、その後の参政党の動きを踏まえると、同党の戦略と実際の行動との間には、看過できない齟齬が見えてきました。

参政党はこれまで、「自民党左派の選挙区に候補者を擁立する」という戦略を掲げてきましたが、神谷宗幣代表は1月22日、産経新聞のインタビューで、全国の小選挙区に170人超を擁立するめどが立ったと明らかにしています。選挙戦についても、「党が違うのだから戦って当たり前だ。日本全体の国益を考えたときに、自民にも通していい人と、通したらまずい人がいる」と述べており、事実上、選挙区を限定しない全面対決の構えを示しています。

また、神谷代表は以前から、「高市首相がやりたい政策を推進するには、参政党が比例で議席を取った方がいい。自民党に外から圧力をかけていく」と主張してきました。しかし、昨年秋に行われた石破前総理の後継を選ぶ首班指名選挙の参議院決選投票において、参政党は高市氏に投票しませんでした。この事実は、「高市路線を外から支える」という主張と整合しているとは言い難いものです。

これらを総合すると、参政党の戦略や姿勢には、少なくとも現時点では、一定の信用性の欠如を指摘せざるを得ません。自民党内部の反高市勢力を抑制することが重要である点は事実ですが、それ以上に大前提となるのは、「高市総裁が率いる自民党が選挙に勝利し、政権基盤を安定させること」です。これなくして、高市内閣の政策的自由度や継続性は確保できません。

もちろん、行き過ぎたグローバリズムの是正という点で、参政党や日本保守党が一定の支持を集め、存在感を高めていくこと自体を否定するものではありません。ただし、それが結果として高市政権の足場を不安定にする形になってしまっては、本末転倒です。

仮に、参政党が懸念するように、自民党が大勝した後、参議院で過半数を占める野党との協調を重視するあまり、高市路線を骨抜きにし、さらには「高市総裁降ろし」に踏み込むような事態が生じた場合には、その時こそ参政党は、国会における首班指名で明確に高市氏へ投票するという行動を示すべきでしょう。言葉ではなく行動によってこそ、真に「外から圧力をかける」存在としての信頼が生まれるからです。

「誰を支持するか」と「何を実現したいか」

高市首相の政策を本当に支持する有権者にとって重要なのは、「誰が首相か」だけではない。より本質的なのは、「その政策を支える勢力構造がどうなっているか」である。
衆院解散総選挙において、投票先は必ずしも自民党一択ではない。場合によっては、自民党以外に投じる一票こそが、高市首相の掲げる路線を現実のものにする近道となり得る。

おわりに――支持とは何か

支持とは、盲目的な追随ではない。
理念や政策を本当に実現したいのであれば、感情ではなく、構造と結果を見据えた選択が求められる。
今、有権者に問われているのは、「誰を応援しているか」ではなく、その応援を現実の政策に結びつけるために、どの一票が最も有効かという冷静な判断なのではないだろうか。

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