【前編】命の危険が伴ういじめと証拠保全の法的問題――校則と刑法、どちらが優先されるのか

それは「教育問題」なのか、それとも「違法行為」なのか

いじめの中には、悪口や仲間外れといった道徳的問題の域を超え、刑法に触れ得る行為が存在します。
たとえば、
・暴行罪(刑法208条)
・傷害罪(刑法204条)
・脅迫罪(刑法222条)
・強要罪(刑法223条)
・名誉毀損罪(刑法230条)
・侮辱罪(刑法231条)

に該当し得るケースです。

加害者が未成年であれば、手続上は少年法の枠組みで扱われますが、「違法性」が否定されるわけではありません。
とりわけ、被害者が自死に追い込まれる、重大な精神的・身体的被害を受けるといった場合、それは生命・身体に対する重大な権利侵害です。
この段階に至れば、もはや単なる校内トラブルではありません。

校則は法より上位に立てるのか

多くの学校では、校則によりスマートフォンの持ち込みや録画を禁止しています。
しかし、法体系には階層があります。
・憲法(
日本国憲法第三章基本的人権の保障が定められている)
・国会が定める法律(「刑法」など)
・各省の大臣が定める省令
・地方自治体が定める条例(「迷惑防止条例」など)
・学校が定める校則(学校内部規律)

校則は学校の内部的な規律にすぎず、法律に優越するものではありません。
もし現実に生命・身体の重大な侵害が起きているのであれば、
それは校則違反の問題よりも優先して検討されるべき事柄です。

いじめ証拠の録画は違法なのか

(1)撮影行為そのもの
日本法は、「無断で撮影したから直ちに犯罪」とする一般規定を置いていません。
問題となり得るのは、
・迷惑防止条例違反(盗撮など)
・プライバシー侵害(民事責任)
などです。
しかし、暴行や脅迫など違法行為の現場を記録する行為は、その目的や態様によっては社会的相当性が認められる余地があります
さらに、刑法37条の「緊急避難」は、
自己または他人の生命・身体・自由・財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為
について、一定の要件のもとで違法性を否定します。
すべての録画が自動的に適法になるわけではありません。
けれども、
・被害が現実に進行している
・他に有効な証拠確保手段がない
・重大な権利侵害の立証が困難である
といった事情
があれば、違法性が否定される可能性は十分あります。

(2)「撮影」と「拡散」は別問題
録画して保存する行為と、SNSで不特定多数に公開する行為は、法的にまったく別です。
証拠として、
 ・保護者
 ・弁護士
 ・学校
 ・警察
 に提出する目的で保存する場合
と、
ネット上に公開する場合
では、
名誉毀損やプライバシー侵害の成否は大きく異なります。
「撮影=違法」と短絡的に断じるのは、法的には正確ではありません。

学校による証拠の消去命令はどう評価されるか

刑法104条の証拠隠滅罪は、
他人の刑事事件に関する証拠を隠滅・偽造・変造、または偽造・変造された証拠を使用した場合
に成立しますが、
成立には厳格な要件があり、直ちに犯罪になるとは限りません。

いじめに重大な違法行為の疑いがあるにもかかわらず、
・事実確認よりも
・組織の体面維持を優先し
・証拠保全よりも消去を求める
という対応を取ることは、被害者保護の観点から重大な問題を孕みます。

問われるのは「優先順位」

命に関わるいじめが現実にあるとき、
問うべきは、
「校則違反をどう処分するか」ではなく、
命を守るために何を優先するか
という順序の問題です。
校則は秩序維持の手段です。
生命と尊厳は、法秩序の目的です。
その順序を誤ってはなりません。

次回は、学校側の法的責任という視点から、
さらに踏み込んで検討します。

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