学校は「安全配慮義務」を負っている
学校は、児童生徒を預かる主体として、安全配慮義務を負っています。
この点について、最高裁判所は一貫して、学校には生徒の生命・身体を危険から保護する注意義務があると判示してきました。
たとえば、
最高裁昭和62年2月6日判決は、
学校に予見可能性がある場合には事故防止措置を講じる義務があると示しました。
判例が重視するのは、
・危険の予見可能性
・結果回避可能性
・必要な措置の有無
です。
いじめが継続し、深刻化している場合、
学校側に予見可能性が認められる可能性は高まります。
適切な対応を怠れば、民事上の損害賠償責任や、設置者の国家賠償責任が問題となり得ます。
いじめ防止対策推進法の位置づけ
いじめ防止対策推進法は、いじめ対策を理念や努力目標にとどめるものではありません。
学校および教職員に対し、具体的な責務を課す法律です。
まず、同法は、児童等に対し「いじめを行ってはならない」と明確に規定しています(第4条)。
いじめは法秩序上否定された行為であることが前提とされています。
そのうえで、学校及び学校の教職員は、
・保護者や関係機関と連携しつつ、
・学校全体でいじめの防止および早期発見に取り組み、
・いじめを受けていると思われるときは適切かつ迅速に対処する
責務を有するとされています(第8条)。
ここで重要なのは、「確認されたとき」ではなく、
「いじめを受けていると思われるとき」に対処義務が生じると規定されている点です(第8条)。
また、各学校は、いじめの防止等のための対策に関する基本方針を定めなければなりません(第13条)。
さらに、いじめ防止等の対策のための組織を置くものとするとされています(第22条)。
そして、生命・心身に重大な被害が生じた疑いがある場合など、いわゆる「重大事態」が発生したときは、設置者は事実関係を明確にするための調査を行うものとされています(第28条第1項)。
調査結果は地方公共団体の長等に報告しなければなりません(第30条)。
このように、いじめ防止対策推進法は、
・予防
・早期発見
・迅速対処
・組織整備
・重大事態調査
を制度として義務づけています。
したがって、命の危険が伴ういじめの場面において、
証拠の軽視や調査の不実施があれば、それは単なる対応上の不手際ではなく、
同法の予定する責務との関係で問題となり得るのです。
証拠動画の意味
事実解明を行う上で、客観的資料は重要です。
・証言は変わり得る
・記憶は曖昧になる
・加害否認が起こり得る
こうした現実の中で、映像資料は有力な証拠になります。
重大事案が疑われるにもかかわらず、証拠の保存より消去を優先すれば、
・調査義務との整合性を欠き
・安全配慮義務との関係で問題を生じ
・将来的な責任追及の場面で不利になる
可能性があります。
個人情報保護は重要です。
しかしそれは「適切に管理する」問題であって、「消去する」ことと直結しません。
校則と法的義務の衝突
校則とは、学校が教育目的を達成するために生徒の生活や学習上の規律として定める校内ルールにすぎません。
校則には、立法府(国会)が制定する法律で定められている法律上の義務を排除する効力は全くありません。
重大ないじめ事案においては、
・校則違反の処分
よりも
・被害の実態解明と安全確保
が優先されるべきです。
結論――学校の責任はどこにあるのか
命の危険が伴ういじめは、
・刑法上の違法行為に発展し得る
・学校の安全配慮義務違反を生じ得る
・いじめ防止対策推進法上の重大事態に該当し得る
重大問題です。
この文脈において重要なのは、
「証拠を撮った生徒を処分すること」
ではなく、
「命を守る体制を整えること」
です。
校則は秩序の手段です。
安全確保は法的義務です。
両者が衝突したとき、
優先されるべきものは明らかです。
