はじめに
学校が動かないとき、保護者は孤立しがちです。
いじめが起きたとき、最初に相談するのは学校です。
しかし、
・「様子を見ましょう」と言われたまま改善しない
・事実確認が曖昧なまま終わる
・加害側への配慮ばかりが強調され、被害が置き去りになる
こうした状況に直面することがあります。
状況によっては、学校や教育委員会が心理的に「おかみ(お上)」のように感じられ、声を上げにくくなることもあります。
本来は子どもの安全を守るための機関であっても、立場や権限の差を意識してしまい、率直に疑問や不安を伝えることが難しくなることがあるのです。
さらに、
・弁護士は敷居が高い
・費用が不安
・得意分野に差がある
・「手持ちの案件で手いっぱい」と断られることもある
こうして、相談先が見つからず、孤立感が深まってしまうこともあります。
しかし――
選択肢は学校だけではありません。
本記事では、
学校が十分に動かないと感じたとき、
保護者が取り得る「次の一手」を、制度・法的手段・民間支援の観点から整理します。
子どもの命と尊厳を守るために、
孤立しないための現実的な道筋を提示することが、本稿の目的です。
まずやるべきこと――証拠と記録の確保
記録は「武器」ではなく「盾」
・日付
・発言内容
・教員とのやり取り
・メールやプリント
・子どもの様子の変化
すべて時系列で残してください。
可能なら:
・スクリーンショット
・録音(地域法令に注意。会話の当事者の一方の同意のみで適法とされる地域と、参加者全員の同意が求められる地域があります。違法収集と評価されると証拠価値に影響する可能性もあるため、事前の確認が望まれます。)
・医療機関の受診記録
後の行政対応・法的対応において、
記録の有無は決定的な差になります。
学校が動かないときの制度的アプローチ
①教育委員会への正式相談
各自治体の教育委員会には相談窓口があります。
「口頭相談」ではなく、
書面提出が重要です。
提出時のポイント:
事実経過
要求事項(調査・安全確保等)
回答期限
②いじめ防止対策推進法の活用
いじめ防止対策推進法に基づき、
・学校の調査義務
・重大事態の報告義務
・第三者委員会設置
などが規定されています。
学校が消極的な場合でも、
法に基づく対応を求めることが可能です。
③人権機関への申立て
■法務省の「子どもの人権110番」
子どもの人権侵害として申し立て可能です。
電話:0120-007-110(月~金 8:30-17:15)
④公的相談窓口(教育行政)
24時間子供SOSダイヤル
文部科学省が実施する事業で、
各都道府県・政令指定都市の教育委員会が設置・運営する公的相談窓口です。
警察・法的対応という選択肢
暴行・脅迫・恐喝・強要などがある場合、
刑法上の犯罪に該当する可能性があります。
相談先:
生活安全課
少年係
また、民事責任を追及する場合は弁護士相談が必要になります。
※弁護士は「学校問題」「教育問題」に強い専門家を探すことが重要です。
民間支援団体という第三の選択肢
学校や行政に直接対峙するのは負担が大きい。
そんなとき、有効なのが
政治色のない民間支援団体・相談窓口です。
①全国規模で利用できる支援窓口
■チャイルドライン(特定非営利活動法人 チャイルドライン支援センター)
0120-99-7777(フリーダイヤル)毎日 午後4時〜午後9時
子ども向け匿名相談(電話・チャット)。
※子ども本人の心理的支援に有効です。
■公益社団法人 全国被害者支援ネットワーク
犯罪被害者等相談電話 0570-783-554(受付時間8:00~21:00)
犯罪被害としての側面が強い場合に有効です。
②支援団体を使うメリット
・似た事例の知見
・書面作成アドバイス
・弁護士紹介
・心理的支え
弁護士相談の「前段」として非常に有効です。
③任意団体についての注意点
任意団体は、法律上の強制力を持つ公的機関ではなく、メンバーの自主的な活動で運営される団体です。
いじめ被害の相談・解決のために民間の任意団体の利用を考える際には、
・どのような支援ができるか
・費用負担の有無
・担当者の専門性
・他の支援機関との連携
などを確認することが重要です。
地域別の相談ルート
各都道府県には
・教育相談センター
・人権相談窓口
・いじめ専用ホットライン
があります。
例:東京都「東京いじめ相談ホットライン」
0120-53-8288(24時間受付)
大阪府教育センター「さわやかホットライン」(保護者向け)
06-6607-7362(月〜金 9:30-17:30)
(※「各自治体名+いじめ相談」で検索可能)
相談を成功させる準備
相談前に整理すべきこと:
・事実経過タイムライン
・証拠一覧
・学校の対応履歴
・子どもの現在の安全状態
・具体的な要求事項
団体選びで注意すべきこと
学校外の支援団体や市民団体は、保護者にとって大きな力になり得ます。
しかし、団体によって活動方針や専門性には差があります。
子どもの安全と将来を守るためには、冷静な見極めが重要です。
【避けるべき団体の特徴】
①強い政治色が前面に出ている団体
特定の政党・政治思想・社会運動と強く結びついている団体の場合、
本来は子どもの問題であるはずの案件が、政治的主張の材料として扱われてしまうおそれがあります。
支援の目的が
「子どもの安全確保」ではなく
「社会的アピール」になっていないか、
活動内容や発信を慎重に確認することが必要です。
②感情的対立を煽る傾向がある団体
「徹底的に戦いましょう」「学校を追い込むべきだ」といった
対立構造を過度に強調する団体は、一時的に心強く感じられることがあります。
しかし、感情的対立が激化すると、
・子どもがさらに孤立する
・交渉の余地が狭まる
・解決までの時間が長期化する
といったリスクも生じます。
冷静さと戦略性を欠いた支援は、結果として不利益になることもあります。
③法的根拠や制度説明が曖昧な団体
法律や制度に関する説明が抽象的で、
条文や制度設計に基づく具体的説明が示されない場合は注意が必要です。
「大丈夫です」「何とかなります」といった断定的な言い回しだけでなく、
・どの法律のどの制度を使うのか
・どういう手続きになるのか
・想定されるリスクは何か
を丁寧に説明してくれるかどうかは、重要な判断材料です。
【選ぶべき団体の特徴】
①活動実績を公開している団体
過去の支援実績や活動内容を具体的に公開している団体は、
透明性の面で信頼性が高い傾向があります。
・どのような支援を行ってきたのか
・どのような成果や課題があったのか
を隠さず示しているかを確認しましょう。
②専門家と連携している団体
弁護士、心理職、元教員など、
専門家と連携している団体は、制度的・心理的双方の観点から助言を受けられる可能性があります。
特に、法的手続が視野に入る場合は、
専門家との適切な連携体制が整っているかは重要です。
③保護者主体の活動をしている団体
支援の中心が「団体の理念」ではなく、
あくまで「保護者と子どもの意思」に置かれている団体は信頼に値します。
・保護者の判断を尊重してくれるか
・方針を押し付けないか
・決定権を当事者側に置いているか
こうした姿勢は、長期的な解決にとって極めて重要です。
支援団体は「味方」ですが、「判断の主体」はあくまで保護者自身です。
支援ルートは「多層化」する
選択肢は一つではありません。
・学校
・教育委員会
・人権機関
・警察
・弁護士
・民間支援団体
・自助グループ
複数を同時並行で活用することも、戦略として有効です。
最後に
いじめ問題は、
家庭だけで抱え込むべき問題ではありません。
学校が動かないとき、
保護者が動くことは「対立」ではなく、
子どもの安全確保のための正当な行動です。
・孤立しないこと。
・記録すること。
・段階的に外部を活用すること。
それが「次の一手」です。
備考:いじめ問題に関する過去の記事
2026年1月19日付け『日本のいじめ対策はなぜ機能しないのか(第1回)――制度・学校・社会意識の三層構造を読み解く』
2026年1月20日付け『日本のいじめ対策はなぜ機能しないのか(第2回)――なぜ「隠蔽」は合理的になってしまうのか』
2026年1月21日付け『日本のいじめ対策はなぜ機能しないのか(第3回)――それでも、何をどう変えるべきなのか』
2026年2月14日付け『正義を叱る教室――「録音禁止」がいじめを守るとき』
2026年2月16日付け『いじめは重大な人権侵害なのに、なぜ中心課題にならないのか』
2026年2月17日付け『【前編】命の危険が伴ういじめと証拠保全の法的問題――校則と刑法、どちらが優先されるのか』
2026年2月18日付け『【後編】命の危険が伴ういじめと証拠保全の法的問題――学校の安全配慮義務といじめ防止対策推進法』
2026年2月19日付け『【保護者向け実践解説】命に関わるいじめに直面したとき、親はどう動くべきか――証拠の守り方と学校との向き合い方』
