ある農家の方が、Xで炎上覚悟でこう発信していました。
「日本の野菜の大部分を生産しているのは慣行農家だ。肥料も使う、農薬も使う、最新の品種も使う。だからこそ農業人口が減っても、スーパーに野菜が届く」
「肥料を否定し、農薬を否定し、慣行農家を否定する。そんな人たちに踊らされないよう、愚直に生産に向き合っている慣行農家の事を忘れないで下さい」
そして、「応援したいと言うなら、近くのスーパーで国産野菜をもう一品買ってほしい」と。
私は、この訴えは極めて現実的で、誠実な言葉だと思います。
理想は否定しない。しかし現実も直視する
もちろん、環境負荷の低い農業、農薬や化学肥料への依存を減らした農業は、将来的な方向性として重要です。より安全で持続可能な農法を探る努力は、今後も続けていくべきでしょう。
一方で、日本では農薬や肥料は国の登録制度や安全基準に基づいて管理されており、科学的評価のもとで使用が認められています。リスクはゼロではないにせよ、無制限に使われているわけではありません。この制度的前提を踏まえた上で議論する必要があります。
そして何より、現在の日本農業は深刻な局面にあります。
農業人口は減少し、高齢化は進み、耕作放棄地は拡大しています。
そうした中で、国内流通している農産物の大部分を支えているのは、慣行農業です。農薬や化学肥料、改良品種などを活用し、生産性と安定供給を確保してきたからこそ、私たちの食卓は成り立っています。
理想を語ることと、現場を否定することは同じではありません。
現場を否定しながら理想だけを語ることは、農業の持続可能性をむしろ危うくします。
「ゼロか百か」の対立を超えて
有機か慣行かという二元論に陥ると、建設的な議論は難しくなります。
慣行農業は現在の食料安定供給の基盤です。
一方、有機農業は環境配慮型農業の可能性を広げる重要な挑戦です。
本来は対立ではなく、役割の違いとして整理すべきでしょう。
現実的な方向性は、「完全無農薬」か「現状維持」かではなく、
より少なく、より安全に、より効率的に
という改良型の進化ではないでしょうか。
慣行農業の “高度化” という道
すでに、慣行農業を高度化する取り組みは始まっています。
・ドローンやセンサーを活用した精密農業
・必要最小限に抑える農薬散布技術
・土壌診断に基づく施肥の最適化
・総合的病害虫管理(IPM)の普及
・データを活用した収量予測や作業効率化
これらは単なる理想論ではなく、現場で実装が進みつつある技術です。
慣行農業を否定するのではなく、環境負荷を下げながら進化させる。
それこそが、現実的で持続可能な道だと考えます。
政治・行政の責任は重い
ただし、こうした高度化は個々の農家の努力だけで実現できるものではありません。
精密農業機器の導入には初期投資が必要ですし、研究開発やデータ基盤整備には公的支援が欠かせません。
・スマート農業技術への補助拡充
・低農薬化技術・新品種開発への研究支援
・土壌データや気象データの共有基盤整備
・若手就農者への支援強化
・国産農産物の適正価格を支える制度設計
こうした政策的テコ入れを本気で進めることが、食料安全保障と環境配慮を両立させる鍵になります。
理想と現実を橋渡しするのは、市場の善意だけではありません。
国家としての明確な戦略が不可欠です。
消費者にできる最も現実的な支援
そのうえで、私たち消費者にできることは何でしょうか。
無農薬や有機を望むなら、価格差を受け入れて選ぶこと。
あるいは
家庭菜園に挑戦し、自ら生産の難しさを知ること。
しかし、もっとも多くの人にできる現実的な行動は、
国産野菜をもう一品、ついでに買うこと。
小さな行動かもしれませんが、確実に農家の支えになります。
結びに
理想は大切です。しかし、理想は現場を支えてこそ意味を持ちます。
慣行農家を否定するのではなく、支えながら進化させる。
政治はその環境を整え、消費者は現実的な選択で応える。
その積み重ねこそが、日本の農業を守る最も堅実な道ではないでしょうか。
