「日本人は誰でも殺せ」は差別ではないのか?――ヘイトスピーチ解消法と“差別”の決定的な違い

「法律に当たらない」と「差別ではない」は同じではありません

インターネット上で、ある弁護士が次のような趣旨の発信をしていました。
「日本国内における『日本人は誰でも殺せ』という趣旨の発言は、日本人という優位ある集団に対するものであり、差別には当たらないと思います。
『日本人女性をレイプしろ』という内容の発言は、日本人に対する差別には当たりませんが、女性差別であると考えます。」

この見解は、一定の法的整理を踏まえたものなのでしょう。
しかし私は、ここに重要な論点の混同があると感じています。

法律の射程と、差別という概念は違います

ヘイトスピーチ解消法(正式名称『「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」』)は、特定の歴史的・社会的背景を踏まえ、「本邦外出身者」に対する不当な差別的言動を対象とする法律です。
そのため、日本人に向けられた言動が条文上の対象外になるという説明は、法解釈としては理解できます。
しかし、それはあくまで法律の適用範囲の問題です。

「この法律に当たらない」ということと、
「差別ではない」ということは、本来イコールではありません。

属性に基づく暴力煽動は、原理的に差別です

「日本人は誰でも殺せ」という言葉は、
国籍・民族という属性を理由に暴力を煽動する表現です。
「日本人女性をレイプしろ」という言葉は、
性別という属性を理由に暴力を煽動する表現です。
後者が女性差別であることは、多くの人が理解できるでしょう。
であれば前者もまた、民族属性に基づく差別的扇動と評価するのが、論理として自然ではないでしょうか。

差別の核心は、「属性によって人をひとまとめにし、排除や暴力の対象とすること」にあります。
対象が多数派か少数派かは、本質的な基準ではありません。
多数派に向けられたものであっても、
属性を理由に「殺せ」と煽る言動が、健全な社会にとって許容されるはずがありません。

この点について、私たちはもっと自信を持って確認すべきです。

マスコミは警鐘を鳴らすべきです

仮に対象が外国人であれば、こうした発言は大きく報じられ、強い批判がなされるでしょう。
しかし対象が日本人である場合、十分な問題提起がなされているとは言い難い現状があります。

メディアの重要な役割の一つは、社会に対して危険な兆候を示すことです。
属性に基づく暴力扇動は、対象が誰であれ危険です。
沈黙や曖昧な扱いは、結果として社会の不信や分断を深めかねません。
だからこそ、明確な警鐘が必要だと考えます。

さらに言えば、対象が外国人であれば問題発言として大きく取り上げる一方で、対象が日本人である場合には警鐘を鳴らさないという姿勢が続けば、国民のマスコミに対する信頼は確実に損なわれていくでしょう。
報道における基準が一貫していないと受け止められれば、「何を守ろうとしているのか」「誰の側に立っているのか」という疑念を招きかねません。
信頼は一度失われれば、取り戻すのに長い時間を要します。
だからこそ、対象によって態度を変えるのではなく、原則に基づいた報道が求められているのではないでしょうか。

行政の責任も問われます

政府は「外国人との秩序ある共生社会」の実現を掲げています。
この理念自体は、極めて重要なものです。
だからこそ、実質的に差別的言動や暴力扇動に当たる発信を行う者に対しては、
それが日本人であれ外国人であれ、適切な指導や教育が必要
ではないでしょうか。
共生とは、一方的な我慢ではありません。
互いの尊厳を守るという共通ルールの上にこそ、成り立つものです。

私たち自身の認識が問われています

私は立法改正の議論をここでしたいのではありません。
また、特定の個人を批判することが目的でもありません。
ただ、はっきりさせたいのです。
「ヘイトスピーチ解消法に当たらない」ことと、
「差別ではない」ことは違います。

日本人に向けられたものであっても、
属性に基づく「殺せ」「レイプしろ」という扇動は、
明らかに差別的言動であり、社会にとって有害なものです。

この当たり前の認識を、私たち日本人自身が自信を持って共有できる社会であってほしい。
それこそが、真に秩序ある共生社会への第一歩だと、私は考えています。

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