日本には約18万の宗教法人があります。寺院、神社、教会など、多くが地域に根差し、誠実に宗教活動を続けておられます。
一方で、文化庁の把握によれば、2024年末時点で活動実態が確認できない「不活動宗教法人」が約5,000件存在します。前年より増加しています。さらに、単立宗教法人※の中にも一定数の不活動法人が含まれています。
ここで強調しておきたいのは、信仰を持つ人々と制度を悪用する人々を同列に論じることは決してできないということです。問題は宗教そのものではなく、「法人格の管理制度」にあります。
※単立宗教法人
特定の包括宗教団体(宗派、本山、神社本庁など)の傘下に属さず、独立して運営されている単位宗教法人(寺院、神社、教会など)のこと。
宗教法人の税制優遇はなぜ存在するのか
宗教法人の税制上の優遇は、
・信教の自由(日本国憲法20条1項前段)
・政教分離原則(日本国憲法20条1項後段、20条3項、89条)
との関係の中で設計されています。
宗教活動それ自体を国家が萎縮させないために、一定の税制配慮がなされているのです。これは宗教団体に対する「特権」というより、自由権保障の制度的帰結といえます。
したがって、優遇制度を直ちに否定する議論は妥当ではありません。
問題の本質は「活動実態のない法人格の放置」
しかしながら、不活動状態にある法人が長期間整理されない場合、
・法人格だけが存続する
・代表者変更により事実上の “移転” が起きる可能性がある
・税制上の地位が形式的に残る
といった構造的リスクが生じます。
2021年8月の FATF(金融活動作業部会)の第4次対日相互審査報告書で、日本の非営利団体について資金悪用リスクの評価と透明性向上を求めました。ただし、これは「日本が資金洗浄の温床である」と断定したものではなく、リスク管理の強化を促す趣旨でした。
重要なのは、リスクの指摘と、現実に大規模な犯罪が横行しているという断定は別であるという点です。
制度改正は「宗教規制」ではなく「法人管理の高度化」
議論の方向性は明確です。
宗教を規制するのではなく、
法人格の透明性と継続的管理を強化することです。
具体的には、次のような制度設計が考えられます。
① 不活動状態の明確化と段階的整理制度
一定期間(例:3年以上)宗教活動の実態確認ができない場合、
・所轄庁による確認通知
・改善報告義務
・なお実態がなければ裁判所への解散請求
という段階的手続を法律上明文化することが考えられます。
現在も解散命令制度はありますが、極めて慎重に運用されています。基準を明確化することで、恣意的運用を防ぎつつ整理を進めることができます。
② 最低限の活動報告制度の導入
信教の自由を侵害しない範囲で、
・年1回の活動有無の簡易申告
・代表者・所在地の確認
など、形式的・限定的な報告義務を課すことは検討に値します。
これは内容への介入ではなく、「実在確認」にとどめる設計が必要です。
③ 単立宗教法人の透明性強化
単立法人は宗派の内部統制が働きにくいため、
・代表役員変更時の確認強化
・実質的支配者の確認(マネロン対策的視点)
など、金融分野で導入されているリスクベース・アプローチを応用することも一案です。
④ 財務の完全公開ではなく「限定的開示」
すべての宗教法人に財務公開を義務づけることは、信教の自由との緊張関係が大きいでしょう。
しかし、
・収益事業を行う場合
・外部から多額の資金移動がある場合
など、一定の条件下で限定的な報告制度を設けることは検討可能です。
守るべきは「信仰」であり、「抜け道」ではない
制度の穴を塞ぐことは、宗教を疑うことではありません。
むしろ、
誠実に活動している宗教団体を守るための制度整備
です。
もし法人格が悪用される構造を放置すれば、
最終的に社会的信頼が損なわれ、
真面目に活動する団体が不利益を受けかねません。
結論
私は次の立場を取ります。
・宗教法人制度の優遇そのものは否定しません。
・しかし、不活動法人の放置は制度的脆弱性です。
・議論の軸は「宗教かどうか」ではなく「法人管理の透明性」です。
・信仰と悪用を明確に切り分けたうえで、制度を精緻化すべきです。
感情的な宗教批判ではなく、冷静な制度設計の議論こそが必要です。
信仰の自由を守りながら、制度の抜け道を塞ぐ――その両立は可能です。
いま求められているのは、そのための具体的な立法技術の検討だと考えます。
