特別職国家公務員である首相、国務大臣等が 「改憲を主張すること」は憲法違反なのか?――日本国憲法の96条と99条を落ち着いて読む

憲法改正をめぐる議論の中で、
「公務員には憲法尊重擁護義務があるのだから、改憲を主張すること自体が憲法違反ではないか」
という趣旨の意見を耳にすることがあります。
一見するともっともらしく感じられるかもしれません。
しかし、この問題は条文を体系として読めば、比較的すっきり整理できます。
今回は、日本の憲法の基本構造を、落ち着いて確認してみたいと思います。

国家公務員は、一般職と特別職とに大別される。特別職国家公務員は、国家公務員法第2条に列挙されており、大まかに分類すれば、政務を担当するもの(内閣総理大臣、国務大臣等)、権力分立の憲法原則に基づき、その人事制度の設計を立法部、司法部に委ねることに合理性があるもの(裁判官及び裁判所職員、国会職員等)、職務の性質上、別個の身分取扱いの基準によることが適当であるもの(防衛省職員)、その他職務の特殊性により、採用試験や身分保障等の一般の公務員にかかる原則を適用することが不適当なもの(宮内庁職員、各種審議会委員等)に分けることができる。

憲法は「改正できる」と書いてある

まず、日本国憲法第96条は、憲法改正の手続を定めています。
国会で総議員の3分の2以上の賛成を得たうえで、国民投票で過半数の承認を得る。
この厳格な手続を経れば、憲法は改正できると明記されています。
つまり憲法自身が、
「将来、国民の意思によって変更され得るもの」
であることを前提にしているのです。

公務員には「守る義務」がある

一方、第99条は、天皇や国務大臣、国会議員、裁判官などの公務員に対して、
「この憲法を尊重し擁護する義務」
を課しています。
これは、
・現在有効な憲法を無視してはならない
・憲法に反する行政や立法をしてはならない
という意味です。
ここまでは、多くの方にとって自然な理解だと思います。

二つの条文を合わせて読む

大切なのは、これら二つの条文はどちらも同じ憲法の中にある、という点です。
憲法は同時に、
・今は守らなければならない
・しかし定められた手続で改正することはできる
と規定しています。
この構造を踏まえると、次の三点が導かれます。

第一に、改憲を主張すること自体は違憲ではありません

これは一般国民に限られた話ではありません。
国会議員、政党、そして議院内閣制のもとで行政府を担う内閣総理大臣や国務大臣、副大臣、大臣政務官などの公務員についても同様です。
第96条は、国会による発議を制度として予定しています。
したがって、改憲の提案や主張それ自体が直ちに第99条違反になるわけではありません。
改憲に賛成することも、反対することも、憲法秩序の内部にある政治的議論です。

第二に、現行憲法を無視して運用すれば違憲です

例えば、
・改正手続を経ずに事実上憲法の内容を変えてしまう
・明らかに憲法に反する政策を強行する
といった場合には問題が生じます。
「改憲を目指すこと」と「今の憲法を守らなくてよいこと」は、まったく別の問題です。

第三に、改憲の方向性に対する政治的批判は当然に自由です

改憲に反対すること、
改憲の内容に強い懸念を示すこと、
あるいは改憲勢力を政治的に批判すること
は、民主主義社会における正当な行為です。
賛否いずれも、憲法が保障する政治的自由の範囲内にあります。

条文を体系として読むという姿勢

「改憲を主張することは99条違反だ」という説明は、第96条を十分に踏まえていない理解です。
しかし同時に、「改憲を目指しているのだから現行憲法に縛られない」という発想も、第99条の趣旨に反します。
憲法は、特定の条文だけを切り取って読むものではありません。
全体の構造の中で理解することで、はじめて意味が見えてきます。

おわりに

憲法は、政治的対立の道具である前に、国の基本ルールです。
・今は守る
・変えるなら定められた手続で
・賛成も反対も自由

この三点を冷静に確認することが、無用な誤解を避け、建設的な議論を可能にします。

まずは条文をそのまま読むこと。
そこから始めるだけでも、条文の一部だけを切り取った議論や不正確な説明に惑わされることなく、憲法論議はより冷静で建設的なものになるはずです。

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