日本弁護士連合会は政策提言をどこまでしてよいのか――弁護士法45条と強制加入団体の限界

新常識
弁護士法(抜粋)

日本弁護士連合会(日弁連)が政府に対して各種の政策提言を行うこと自体は、決して珍しいことではありません。
日弁連は、弁護士法に基づいて設立された団体であり、同法45条2項は、弁護士の使命と職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士業務の改善進歩を図るため、弁護士や弁護士会に対する指導・連絡・監督に関する事務を行うことを目的とする団体であると定めています。また、同法1条は、弁護士の使命として「基本的人権の擁護」と「社会正義の実現」を掲げています。
このような規定を背景として、日弁連が社会問題について意見を述べてきた歴史があることは広く知られています。死刑制度や刑事司法改革、外国人の人権問題などに関する意見書の提出は、その典型例でしょう。

しかし近年、日弁連の政策提言の内容を見ていると、ふと立ち止まって考えたくなる場面もあります。人権問題や司法制度の改善といった分野にとどまらず、より具体的な政策手段にまで踏み込む提言が見られるからです。例えば気候変動問題に関する意見書の中で、太陽光パネルの設置義務化のような具体的政策手段を提案するケースなどがそれにあたります。

もちろん、気候変動問題が人権と無関係であるとは言えません。環境破壊や気候危機が人々の生命や生活に深刻な影響を与える以上、それを人権の問題として捉える考え方には一定の合理性があります。国際的にも、環境と人権の関係を重視する議論は広がっています。したがって、法律家がこの問題について意見を述べること自体を否定する理由はないでしょう。

しかし、問題はそこから先です。
気候変動対策の必要性を指摘することと、特定の政策手段を提案することとは、性格の異なる問題です。例えば「気候変動対策を強化すべきだ」という主張は理念や価値に関する議論ですが、「太陽光パネルの設置を義務化すべきだ」という提言は、エネルギー政策の具体的な設計に関わる政策選択の問題です。そこにはコスト、技術、エネルギー安全保障、地域環境など、多様な観点からの検討が必要になります。

このような政策手段の選択は、本来、政治と民主的意思決定の領域に属する問題です。
ここに、日弁連の役割をめぐる疑問が生まれます。
日弁連は任意団体ではなく、弁護士である以上必ず加入しなければならない強制加入団体です。そこには多様な思想や価値観を持つ弁護士が所属しています。
その団体の名称で、特定の政策手段を政府に提言することは、組織の執行部の政策的志向が団体全体の意見として示されているのではないか、という疑問を生みかねません。

もちろん、日弁連が社会問題について意見を述べること自体は、その使命の一部であるとも言えます。
しかし、強制加入団体であるという制度的性格を踏まえるならば、どこまで踏み込んだ政策提言を行うのかについては、より慎重な自制が求められるのではないでしょうか。人権や法制度に関する一般的な原則や問題提起にとどめるのか、それとも具体的政策手段まで提言するのか。その境界線をどこに引くのかは、決して小さな問題ではありません。

さらに率直に言えば、こうした疑問が繰り返し生まれる背景には、日弁連の執行部に対する不信感が一部に存在していることも否定できません。すなわち、強制加入団体である日弁連という組織の権威や発信力を、自らの政治的信条の実現のために利用しようとする、いわば「政治活動家的」な姿勢を持つ弁護士が一定数存在するのではないか、という疑念です。もちろん、そのような見方が常に正しいとは限りません。しかし、政策選択に深く踏み込んだ提言が続けば続くほど、「これは弁護士会としての意見なのか、それとも一部の執行部の政治的主張なのか」という疑問が生まれるのは避けがたいでしょう。

日弁連の社会的役割は重要です。しかしその権威と代表性が大きいからこそ、その名称が特定の政策主張のために利用されていると受け止められる事態は、組織自身の信頼を損なうことにもなりかねません。
日弁連は本来、政治的立場の違いを超えて弁護士全体を代表する団体です。その重みを自覚するのであれば、政策提言の範囲と方法について、これまで以上に慎重な検討と自制が求められているのではないでしょうか。

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