救急安心センター事業(#7119)とは? なぜ日本では十分に知られていないのか

新常識
救急安心センター事業

夜中に急に体調が悪くなる。
胸が痛い。めまいがする。息が苦しい。
そんなとき、多くの人が迷います。
救急車を呼ぶべきなのか、それとも様子を見るべきなのか。
この判断は、専門知識のない一般の人にとって決して簡単ではありません。

実は日本には、そのようなときに相談できる電話番号があります。
「#7119」――救急相談窓口です。
この番号に電話すると、看護師などの医療スタッフが症状を聞き取り、
救急車を呼ぶべきか、すぐに病院へ行くべきか、あるいは様子を見てもよいのかを助言してくれます。

しかし、この制度は日本社会で驚くほど知られていません。
「119番」は子どもでも知っています。
けれども、「#7119」を知っている人は多くありません。
なぜ、日本にはすでに存在しているこの制度が、社会の中で十分に認知されていないのでしょうか。
そこには、日本の救急医療の制度設計に関わる興味深い問題が見えてきます。

救急安心センター事業(#7119)とはどのような制度か

救急安心センター事業(#7119)は、急な病気やけがをしたときに、救急車を呼ぶべきかどうか迷った場合に相談できる電話窓口です。
電話をかけると、看護師などの医療専門スタッフが症状を聞き取り、
・すぐに救急車を呼ぶべきか
・医療機関を受診するべきか
・しばらく様子を見てもよいか
といった助言を行います。
必要に応じて、近くの医療機関の案内を受けることもできます。

総務省(消防庁)は、この仕組みを「救急安心センター事業」として全国に広げています。
自治体によっては「救急安心センター」や「救急相談センター」といった名称で運営されていますが、いずれも同じ趣旨の制度です。
現在では、47都道府県のうち約41の都道府県で導入されており、日本の救急医療の入口を支える仕組みとして徐々に広がりつつあります。

それでも制度はあまり知られていない

しかし、制度の普及状況に比べて、社会での認知度は決して高いとは言えません。
「119番」はほぼすべての人が知っています。
一方で、「#7119」という番号を知っている人はまだ限られています。
つまり、日本では
制度は広がっているのに、社会の中で十分に共有されていない
という状況が生まれているのです。

なぜ#7119はここまで知られていないのか

では、なぜこの制度は十分に知られていないのでしょうか。
制度の仕組みを見ていくと、いくつかの理由が見えてきます。
第一に、制度の運営主体が自治体であることです。
救急安心センター事業は国が推進していますが、実際の運営は都道府県や自治体が担っています。そのため、広報の方法や運用の仕組みが地域ごとに異なり、全国的な統一イメージが生まれにくい面があります。
第二に、名称や運用方法が地域によって異なることです。
「救急安心センター」「救急相談センター」など呼び方が統一されておらず、対応時間や対象地域にも違いがあります。このような分散的な運用は地域の実情に合わせるという利点がある一方で、制度の認知を広げにくくする側面もあります。
第三に、医療制度の「入口」としての位置づけがまだ弱いことです。
日本では長い間、「救急のときは119番」という仕組みが中心でした。そのため、「救急車を呼ぶ前に相談する」という制度の存在が、社会の中でまだ十分に定着していないのです。

海外では「医療相談」が制度の入口になっている

海外では、この点で日本とは少し違う制度設計が見られます。
例えばイギリスでは、「NHS111」という電話相談サービスがあります。
この番号に電話すると、まず訓練された相談員が症状を聞き取り、必要に応じて看護師や医師などの医療専門職が対応します。
そのうえで、救急車、救急外来、かかりつけ医、薬局など、適切な医療機関へ振り分ける仕組みになっています。
フランスでも、救急番号に電話をすると医師が症状を聞き取り、救急車の必要性を判断する仕組みが整えられています。
これらの制度に共通しているのは、
迷っている人の最初の相談相手が医療相談システムである
という点です。
つまり、医療制度の入口の段階で専門的な判断が入るように設計されているのです。

救急車問題の鍵は「入口」にある

日本では近年、「救急車の有料化」などの議論が行われています。
しかし、その議論の多くは
・軽症者の問題
・不適切利用
・有料化の是非
といった、救急車が出動した後の問題に集中しています。

一方で、
救急車を呼ぶかどうか迷ったときの相談制度
については、あまり注目されていません。
しかし、本当に重要なのはこの部分かもしれません。
人は、体調が急に悪くなったとき、不安になります。
そのとき、専門家にすぐ相談できる仕組みがあれば、救急車が必要なケースとそうでないケースをより適切に分けることができるでしょう。
救急安心センター事業(#7119)は、そのための制度です。

しかし、その存在が十分に知られていなければ、制度は十分に機能しません。
救急医療の問題は、
「救急車を呼びすぎているのではないか」という問いだけではありません。
むしろ重要なのは、
人が迷ったときに、社会がどのような「最初の相談窓口」を用意しているのかという問いです。
救急車を呼ぶか迷う夜。
そのとき私たちが思い出す番号が、119番だけなのか、
それとももう一つの番号「#7119」なのか。
その違いは小さなことのように見えて、
日本の救急医療の姿を静かに変えていくのかもしれません。

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