日弁連の外国籍者採用声明は「憲法解釈」なのか、それとも「価値提言」なのか

新常識

日弁連声明が投げかけた論点

地方自治体における外国籍者の職員採用をめぐり、日本弁護士連合会(略称「日弁連」) は会長声明を発表し、国籍のみを理由として採用機会を一律に制限することには強い懸念があると表明しました。
声明では、平等原則や職業選択の自由を理由に、こうした制限は憲法の趣旨に反する可能性があると指摘されています。また、国際人権法や国連文書などにも言及し、外国籍者の公的分野への参加を広げるべきだという立場が示されています。

しかし、この声明を読んだとき、ある疑問を抱く人もいるでしょう。
それは、この文章が
「憲法の解釈を説明しているのか」
それとも
「社会のあるべき姿を提案しているのか」

という点です。
この二つは似ているようで、実はまったく性格の異なる議論です。

憲法解釈とは何か

憲法解釈とは、すでに存在している憲法の条文をどのように理解するかという議論です。
その際に重視されるのは、
・憲法の条文
・これまでの最高裁判所判例
・法制度全体との整合性
などです。
とくに日本では、最高裁判例が憲法解釈の重要な指針になります。

例えば、公務員の国籍要件については、東京都管理職選考受験資格事件判決 が重要な判断を示しています。
この判決では、公権力の行使や公の意思形成に関与する職について、日本国籍を持つ者に限る制度を採ることが許されると述べました。
つまり、現行の憲法解釈の下では、
公務員の職務内容によって国籍要件を設けることは一定程度認められる
という考え方が存在しているのです。

声明は「憲法解釈」なのか、それとも政策提言なのか

ここで改めて日弁連声明を読み直すと、やや気になる点があります。
声明は、平等原則や職業選択の自由を理由に、外国籍者の採用制限は憲法の趣旨に反すると強く示唆しています。
しかし、前述のように、最高裁判例は公務員の職務の性質に応じて国籍要件を設けることを一定程度認めています。
このため、声明の主張は、
現行の憲法解釈をそのまま説明しているというよりも、
制度のあり方についての政策提言に近い性格

を持っているようにも見えます。
もしそうであるならば、本来は
「憲法が当然にこう要求している」
という形ではなく、
「社会のあり方としてこの方向を目指すべきである」
という形で提示される方が、議論としては分かりやすかったかもしれません。

日弁連の声明は「弁護士全体の意思」なのか

さらにもう一つ重要な点があります。
日弁連の声明は、しばしば「弁護士会の公式見解」として発表されます。
しかし、制度的に見ると、こうした声明が必ずしも全国の弁護士の統一的意思をそのまま表しているとは限りません。
弁護士会は、弁護士法第45条 に基づき設立された団体であり、弁護士は原則として強制加入とされています。そのため、弁護士会が政策的・政治的な意見表明を行う場合には、構造的な問題が生じます。
それは、団体の執行部が発した声明が、あたかも弁護士全体の統一的意思であるかのように受け取られてしまうという点です。
実際には、弁護士の間でも政治的・政策的な意見は多様であり、すべての弁護士が同じ立場を取っているわけではありません。
そのため、日弁連の政策提言の類は、
「弁護士全体の意思表示」として受け取るのではなく、
一定の政策的・政治的性格を帯びた意見表明として慎重に評価する必要がある

と考えることもできるでしょう。

憲法議論の透明性のために

今回の声明をめぐる議論から見えてくるのは、憲法問題における議論の透明性の重要性です。
もし、ある制度改革を提案するのであれば、
・現行の憲法解釈はどうなっているのか
・それを変更する必要があると考える理由は何か
を丁寧に説明することが、建設的な議論につながります。
また、弁護士会の声明についても、
「弁護士会としての公式見解なのか」
「執行部の政策的提言なのか」
という性格を冷静に見極めることが必要でしょう。
憲法問題は社会の基本的なルールに関わるテーマです。だからこそ、結論だけでなく、その議論の前提や位置づけを明確にすることが、健全な公共的議論のために重要なのではないでしょうか。

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