橋本がく衆院議員(自民党)の5月16日付けのブログ記事『LGBT法案をめぐる私見』を読んで気づいた、LGBTをめぐる憲法(解釈)上の“重大争点”

「性的指向」も「性自認」も「性別」を構成する要素であるという見解

同ブログで橋本議員は
法案にあわせて性同一性という言葉を遣っていますが、Gender Identityの訳語という意味以上に何かがあるわけではありませんので、性自認という言葉で読み替えていただいても差し支えはありません。
「今回の法案で……あくまでも、「性別」を構成する要素である「性的指向」および「性同一性」が多様であることという「知識」に関する国民の理解の増進を図るよう政府に求めている」
とおっしゃっています。

私が注目したのは、
「性的指向」も(「性同一性」を読み替えて差し支えない)「性自認」(注1)も日本国憲法第14条第1項後段列挙の「性別」を構成する要素である
としている点
です。

(注1)5月15日のNHKニュースによれば、超党派議連の法案中の「性自認を理由とする差別は許されない」を自民党の修正案では「性同一性を理由とする不当な差別はあってはならない」に修正していますが、「性同一性には性自認が含まれる」という条文解釈が可能です。

憲法の「法の下の平等(平等原則)」に違反しない「合理的区別」か否かを判断する合理的基準について

日本国憲法第14条第1項「法の下の平等(平等原則)」について、最高裁判所判例(注2)は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく取り扱い(「合理的区別」)に限り、合憲であって許される、としています。
この「事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく」か否かのより具体的な審査基準について、通説及びそれに従う近時の下級審判決は、次のように使い分けている、と考えられているそうです。

①精神的自由権に関連した差別か「合理的区別」かの判断については、「厳格な審査基準」(注3)を適用する。
②経済的自由権に関連した差別か「合理的区別」かの判断については、「合理性の基準」(注4)を適用する。
③そのどちらにも属さない一般的な差別か「合理的区別」かの判断については、その合理性が問題になる場合には、「厳格な合理性の基準」(注5)を適用する。

(注2)最高裁判所の判例は、「憲法14条1項は、国民に対し、法の下の平等を保障したものであり、同項後段の列挙事由は例示的なものであって、必ずしもそれに限るものではないと解するのが相当である」。また、「この平等の要請は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべき」としています。
(注3)「厳格な審査基準」
区別する目的が必要不可欠であり、その区別の手段が必要最小限のものであること。
(注4)「合理性の基準」
区別する目的が正当であり、その区別の手段が目的との合理的関連性を有していること。
(注5)「厳格な合理性の基準」
区別する目的が重要であり、その区別の目的と手段の間に実質的関連性(事実上の関連性)を有していること。

私がLGBT法案については十分かつ慎重な検討・議論が必要だと考える最大の理由

ず、前述しましたように、通説及びそれに従う近時の下級審判決は、精神的自由権に関連した差別か「合理的区別」かの判断については、「厳格な審査基準」が最有力のようなのです。
次に、日本国憲法第14条第1項に定められたいわゆる後段列挙事由(「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」)に関しては、憲法の平等原則に反しない合理的区別であると言えるためには、「厳格な審査基準」を充たしていなければならないとする学説(注6)の存在です。
以上から、
「性的指向」とりわけ詐称や濫用の立証が難しい「性自認」までも日本国憲法第14条第1項後段列挙の「性別」に含まれるという憲法解釈(注7)が正しいとされる場合には、
性自認の詐称、濫用に対する実効的な規制が極めて難しくなるおそれが高い
と考えられるのです。

(注6)(注7)この学説とこの憲法解釈は、おそらくリベラル派の野党やマスコミが強く支持するにちがいない、と考えられます。

橋本がく代議士のブログでの主張に則るならばむしろ………

同議員曰く
〇「今回の法案で国等に課している役割は………あくまでも、………「性的指向」および「性同一性」が多様であることという「知識」に関する国民の理解の増進を図るよう政府に求めている………、その対応として政府等に正しい知識の普及啓発を行うよう求めるのが、本法案の趣旨です。」

法案の趣旨が「正しい知識の普及啓発」「国民の理解の増進を図る」ことであるならば、法制化は必須ではなく、同趣旨を政策方針として決定して公表すれば十分のはずです。

このブログの2023年2月14日付け投稿記事『女性必見:性自認を悪用する自称女性の男に女性が性被害に遭わないために』の中で私は既に訴えましたが、
単にLGBTの権利を擁護するだけでなく、“エセLGBT” による性自認の詐称や濫用への対策を伴う内容に法案の条文を作り上げてこそ、主権者たる国民に対する真っ当な政治家としての責任ある態度
だと考えます。

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