提言書『人口ビジョン2100』の行間を読む その3:「目指すべきは8000万人での人口定常化」について

移民 出入国管理

この提言書が示す総合的・長期的な二つの戦略

定常化戦略
人口減少のスピードを緩和させ、最終的に人口を安定させること(人口定常化)を目標とする戦略
強靭化戦略
質的な強靭化を図り、現在より小さい人口規模であっても、多様性に富んだ成長力のある社会を構築することを目標とする戦略

定常化戦略が目指すべきシナリオは「総人口8000万人での人口定常化」

この提言書の15頁には次のように明記されています。
定常化戦略が目指すべきシナリオはBケースとし、2100年に総人口8000万人の規模で人口が定常化することを目標とすべきです。」
ただし、その前提として
「Bケースは、(出生率が)2060年までに2.07に到達することが条件となり、そのためには、2040年ごろに1.6、2050年ごろに1.8程度に到達することが望まれることになります。これは容易なことではないものの、総力をあげて少子化対策に取り組むならば、決して不可能なことではないと考えます。」
と記されています。

注目すべきは、総人口8000万人のうち外国人人口が800万人という試算

この提言書が目指すべきとするシナオリのBケースには、
2100年の総人口8000万人のうち「・外国人割合は10%と記されています。ただし、試算の根拠は示されていません
ところで、法務省出入国在留管理庁の公表する統計によれば、2023年6月末時点での在留外国人数は、322万3858人(前年末比14万8645人、4.8%増加)で、過去最高を更新)です。
ということは、
つまり、シナリオBケースでは、2023年6月末時点の約322万人が、76年6か月後の2100年末には
約800万人にまで増加する、という試算なのです。

私の杞憂に終わることを願っていますが、今後、日本の出生率が、2040年ごろに1.6、2050年ごろに1.8程度に、そして2060年までに2.07に到達することが困難な場合には、政府は、出生率向上の奥の手として、移民の受け入れ要件のハードルを下げてでも若い女性移民の受け入れ拡大に踏み切ろうとすることが、あり得る可能性の一つとして考えられます。

別の報道記事の内容から、「日本の総人口に占める外国人割合10%」という試算の根拠は、厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表している日本の将来推計人口のように思われます。

法律上の日本人とは

ここで忘れてはならないのは、日本人とは法的には「日本国籍を有する者」のことです。
よって、「2100年の外国人の人口800万人」には、今後、2100年までの七十数年の間に帰化の許可を受けて日本人になった元外国人の人数は含まれません。

よって、日本政府が今後、帰化の許可と、帰化の許可の事実上の前段階になっている永住許可のそれぞれの要件を、安易に緩和してしまうことがないよう、有権者は十分な関心を払い続けることが必要です。

移民の定義についての再確認

さて、国際移民の正式な法的定義はありませんが、世界の多くの移民専門家は「移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々」を国際移民とみなすことに同意している、とされています。このような定義づけの国際移民のことをこのブログ記事では「広義の移民」と呼ぶことにします。
一方、「広義の移民」との対比で、滞在期間の制限がない外国人、日本の場合は、「永住者」、「特別永住者」、「高度専門職2号」の外国人を合わせて狭義の移民」と呼ぶことにします。

「日本の総人口に占める外国人割合10%」の発端は?

今から十数年前、自由民主党の国会議員約80人が参加した「外国人材交流推進議員連盟」(中川秀直会長、中村博彦事務局長。いずれも当時)は2008年6月、移民立国で日本の活性化を図る立場から「移民50年間1000万人」を柱とする『日本型移民政策の提言』をとりまとめ、それを公表し、その提言を同党国家戦略本部「日本型移民国家への道プロジェクトチーム」が取り入れて、最終的には総人口の10%を移民が占める移民国家」へ変身すべきだとする『人材開国!日本型移民国家への道』という報告書が、当時の福田康夫首相に提出されました。

2007年2月9日の朝日新聞「三者三論」で、元法務官僚の坂中英徳氏曰く「今後50年間で人口が仮に4000万人減るとしよう。その間に1000万人の移民を受け入れ、人口1億人の社会へ移行することなら、努力して、やれないことはない。」
2006年10月1日現在の日本の総人口は推計で約1億2777万人。
同年12月末現在の在留外国人数は208万4919人。
つまり、2007年2月の時点で表明された坂中構想「今後50年間で1000万人の移民受け入れ」とは、50年後の日本の総人口を約1億人とみてその約1割を外国人で補おうというものになっています。
今から17年前のこのときから、「日本の総人口に占める外国人割合は10%」という数値設定?が始まったように思われます。

総人口の1割を広義の移民が占める移民国家日本は、いわば “陰の政策目標”?

2008年の時点で政権政党の自民党が既に提唱していた「総人口の10%を移民が占める移民国家・日本」。
当時は「総人口1億人の社会を目指して、今後50年間で1千万人の移民を受け入れる」でした。
一方、2024年1月に公表されたこの民間の提言書『人口ビジョン2100』では、
「2100年に総人口8千万人の規模で人口が定常化することを目標」とし、今から76年後の2100年の時点での広義の移民としての「外国人割合は10%」(800万人)
なのです。
両者を比較すると、総人口に占める移民人口の数値自体は1千万人から800万人に多少減っていますが、移民人口を目指すべき日本の総人口の1割としている点では、言い換えれば、日本の総人口の1割を広義の移民で賄うとする点では、何ら変わっていないのです。

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