法律の現状とその限界
2016年に施行された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(通称「ヘイトスピーチ解消法」)は、特定の国や地域の出身者に対する差別的言動の解消を目的としています。
しかし、この法律には罰則規定がなく、実効性に疑問が呈されています。
さらに、対象が「本邦外出身者」に限定されており、日本国民に対する差別的言動は保護の対象外となっています。この点は、日本国憲法第14条が定める「法の下の平等」に反する可能性があり、法改正の必要性が指摘されています。
法適用の偏りと具体的事例
ヘイトスピーチ解消法の適用範囲が限定的であるため、日本人に対する差別的言動が法的に問題視されないケースがあります。例えば、SNS上で「日本人は誰でも殺せ」といった過激な発言が行われた場合でも、「日本国内で『日本人は誰でも殺せ』という発言は、日本人という優位にある集団に対するものであり、差別には当たらないと思います。」とSNS上で述べる弁護士がいるほどです。このような状況は、法の適用における偏りを生み出し、社会的な不公平感を助長する可能性があります。
『日本人は誰でも殺せ』という発言に対する法的・社会的な考察
ヘイトスピーチ解消法では、日本人に対するヘイトスピーチは含まれていないことに加えて、「日本人という優位にある集団に対するものであり、差別には当たらない」という解釈が法的に正しいとしても………、 まず、一般的に「○○人は誰でも殺せ」といった発言は、たとえそれが特定の集団に対するものであっても、脅迫や扇動に該当する可能性があります。日本の刑法においても、脅迫罪(刑法第222条)や殺人予告とみなされる場合には刑事責任が問われることがあります。
次に、公序良俗(民法第90条)に反するかどうかという観点では、極端な差別的・暴力的発言は社会秩序を乱し、許容される範囲を超えていると考えられるでしょう。倫理的・社会的に許容されるものではなく、多くの人々に不安や不快感を与える発言であることは否定できません。
法改正に向けた提言
ヘイトスピーチ解消法の実効性を高め、すべての人々を平等に保護するためには、以下の点での法改正が求められます:
①保護対象の拡大
「本邦外出身者」に限定せず、国籍や民族に関係なく、日本国民を含めたすべての人々を保護する法律とするべきです。
②具体的な定義の明確化
差別的言動の範囲や内容を明確に定義し、法の適用における曖昧さを排除することが重要です。
③罰則規定の導入
①及び②を前提としたうえで、差別的言動に対する抑止力を高めるため、罰則を設けることが必要です。
これらの改正を通じて、真に多様性を尊重し、すべての人々が安心して生活できる社会の実現が期待されます。