はじめに:株価上昇だけでは、私たちは豊かになれない
2025年の日本。メディアでは「失われた30年からの脱却」が語られ、株価や企業の業績が一時的に好調なように見える場面もあります。しかし、私たち国民一人ひとりの実感はどうでしょうか?
物価は上がっても給料は上がらず、将来の生活に不安を感じている人は少なくありません。相対的貧困率は2022年時点で15.4%(厚生労働省『国民生活基礎調査』)、ひとり親世帯では48.3%と、先進国でも高い水準にあります。
企業の一部が成長しても、その果実が国民全体に行き渡っていないのが現実です。原因は偶然ではなく、政治と経済政策のあり方にこそあります。
中間層の消滅が、社会を不安定にする
かつての日本、すなわち高度経済成長期からバブル経済が崩壊するまでの時代には、「分厚い中間層」が社会と経済の安定を支えていました。
正社員として雇用され、安定した収入で家族を養い、住宅を購入し、教育に投資し、税を納める――こうした中間層の消費活動が日本の内需型経済を強力に支えていたのです。
しかし、1990年代以降の構造改革やグローバル化の進行、そして緊縮財政政策により、この中間層は徐々に解体されていきました。現在では「ワーキングプア」「非正規雇用」「若年層の生活困難」などが当たり前のように語られ、少数の富裕層と多数の低所得層という「格差社会」が現実となっています。
中小企業こそ、日本経済の屋台骨
ここで知っておくべき大切な事実があります。
日本の企業の99.7%は中小企業であり、就業者の約70%が中小企業で働いているのです(出典:中小企業庁『2023年版 中小企業白書』)。
つまり、どれほど大企業がグローバル市場で成功しても、大多数の国民にとっての豊かさは中小企業の健全さにかかっているということです。
ところが政策は、依然として大企業・輸出産業重視、大都市圏偏重の傾向が強く、地方や中小企業は置き去りにされがちです。これでは、地域の衰退や雇用の不安定化が進行し、格差と貧困の拡大を止めることはできません。
分厚い中間層を取り戻すために必要な3つの視点
多くの政党が「成長と分配」「賃上げ促進」「中小企業支援」を唱えます。しかし、そのほとんどが財政均衡主義(プライマリーバランス黒字化)という制約の中で語られており、現実にはほとんど実行されていません。
いまこそ、本質的な経済政策の転換が必要です。以下の3つの視点が不可欠です。
① 積極財政の発想:「国民を豊かにするために、まず国が使う」
景気が低迷しているときに政府が支出を絞れば、企業の売上も下がり、雇用も所得も減ってしまいます。
国が先にお金を使って需要を創出することで、民間の活力が生まれるのです。
この「積極財政」の考え方は、ケインズ経済学やMMT(現代貨幣理論)にも通じる、景気回復の基本的なロジックです。欧米の主要国では、コロナ禍以降に大規模な財政出動を行ってきました。
② 中小企業支援と賃上げ政策を、財政出動で裏付ける
最低賃金の引き上げや生産性の向上を中小企業に押しつけるだけでは、倒産や雇用減少を招くだけです。政府が減税・補助金・公的融資などで現場を支える必要があります。
また、国主導の賃上げ(公共調達企業に賃上げ要件を課すなど)も重要です。単なるスローガンではなく、財政的裏付けのある実効性ある支援こそが必要です。
③ プライマリーバランス目標からの脱却
「政府の借金=国民の借金」という説明は、誤りです。
日本の国債はほぼ全て円建てで発行されており、中央銀行(日銀)と国内金融機関が保有しています。つまり、政府の負債は、民間(国民)の資産でもあるのです。
にもかかわらず、PB黒字化を優先するあまり、国民生活を犠牲にして支出を削減し、増税に走る政策が続いています。
大切なのは、借金の額ではなく、「物価」「雇用」「所得」といった実体経済が健全かどうか。そこに立脚した財政運営が必要です。
絵に描いた餅ではなく、現実に効く政策を
「給料を上げます」「地方を元気にします」「中小企業を支援します」――
こうした言葉が公約に並んでも、それが財政出動をともなっていない限り、すべて絵に描いた餅にすぎません。
残念ながら、現在の与党だけでなく、多くの野党も財政均衡主義に縛られているため、選挙が終われば現状維持に終始し、改革は先送りされてきました。
国民が変われば、政治も変わる
本当に豊かな社会を実現するには、私たち国民自身の「財政リテラシー(理解力)」の向上が必要です。
「政府が支出を増やすと破綻する」「赤字は子や孫へのツケ」――
こうした刷り込まれたイメージを冷静に見直すことが、変化の第一歩です。
そして、積極財政と国民経済の再建に本気で取り組む政治勢力を見極め、選び取ること。
それが分厚い中間層の再生、ひいては国全体の豊かさと安定につながるのです。
おわりに:分厚い中間層の復活こそ、未来を切り拓く鍵
分厚い中間層の復活は、単なる経済戦略ではありません。
それは、すべての人が普通に働き、安心して暮らし、次世代に希望を託せる社会を取り戻すための基盤です。
未来を変えるのは、政府や政治家ではなく、私たち一人ひとりの意思と行動です。
今こそ問い直しましょう。
「本当に豊かになれる社会」とは何かを――。