「労働力不足を補うには外国人材の受け入れが必要だ」
そんな言葉を、新聞やテレビで耳にすることが多くなってきました。少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少していく中、外国人労働者を活用するのは “避けられない選択肢” だ――政府関係者や経済界からは、そんな声も聞こえてきます。
2025年(令和7年)1月8日、鈴木馨祐法務大臣も法務省内の年頭所感の中で、以下のように述べました。
「労働生産人口が更に減少するという我が国が直面している大きな問題に対して、高度外国人材を含む優秀な外国人材の方々を受け入れることで労働生産性を高めていくことが極めて大事なことです。」
この発言は一見、理にかなったもののように思えます。しかし実際には、こうした方針が長年続けられてきたことで、日本社会にいま、新たなひずみと不安が生まれつつあります。
本記事では、日本の外国人受け入れ政策の本質とその問題点、そして本当に取り組むべき課題とは何かについて、改めて考えてみたいと思います。
「優秀な外国人材の受け入れ」の前提にある矛盾
鈴木法務大臣が述べたように、労働力人口の減少は確かに深刻な問題です。しかし、「優秀な外国人材の受け入れ」がそれを解決する “特効薬” かといえば、話はそう単純ではありません。
まず確認すべきは、「誰が」「どのような基準で」優秀と判断しているのか、という点です。
さらに、外国人を受け入れる社会的な準備や制度は本当に整っているのか。ここにこそ、大きなギャップが存在しているのです。
国内人材の活用は「やり尽くした」のか?
実際、日本政府はこれまで、労働力不足に対応するために様々な国内施策を講じてきました。
○若年層への職業訓練やリスキリング支援
○高齢者の継続雇用制度
○女性の就業促進(保育環境の整備や育休制度)
○働き方改革による労働環境の改善
これらは一定の成果を挙げてきたとはいえ、社会全体に広がる「もう国内人材には限界がある」との空気に押される形で、外国人頼みの政策がますます強化されているのが実態です。
しかし、このような政策転換には注意が必要です。なぜなら、「外国人に頼るしかない」という前提自体が、経済や社会の根幹を見直す努力を放棄する危険を孕んでいるからです。
優秀な外国人材は本当に日本を選ぶのか?
政府は「優秀な外国人材を積極的に呼び込みたい」と繰り返していますが、果たしてその実現性はあるのでしょうか?
日本はバブル崩壊以降、実質賃金がほぼ横ばいで推移し、国際比較でも一人当たりGDP成長率は先進国の下位に位置しています。その一方で、年功序列や終身雇用といった古い雇用慣行に加え、多くの企業で日本語が業務の前提とされるため、優秀な外国人にとって魅力ある労働市場とは言い難い環境です。
▼経済の長期停滞が最大の障壁
日本はバブル崩壊以降、実質賃金が上昇しない状態が続いており、経済成長率も先進国の中で最低水準にあります。
経済協力開発機構(OECD)の統計でも、日本の一人当たりGDP成長率は他国に大きく後れを取っており、生活コストに対して所得が見合わないという「貧しさ」が目立つようになっています。
また、古い雇用慣行やキャリアの柔軟性のなさも、優秀な人材にとってはネックです。グローバルな舞台でスキルを活かし、昇進や転職を繰り返してキャリアを築く人々にとって、日本の労働市場は依然として閉鎖的に映ります。
▼言語・文化・制度の壁も依然として高い
英語や多言語で就業可能な職場環境が限られ、日本語能力が必須という条件が多いことも、外国人にとってはハードルです。さらに、住居の確保、子どもの教育、行政手続きなど、日常生活全般において “外国人に不親切” な構造が残っています。
現実には “優秀ではない” 外国人の受け入れが増加
ここで注目すべきは、日本政府が繰り返し「外国人受け入れは移民政策ではない」と強調してきた点です。
しかしその実態は、長期滞在を認める制度、家族帯同の許容、在留資格の緩和など、実質的には移民の受け入れに等しい施策が継続的に進められているのです。
にもかかわらず「移民ではない」という建前を崩さないために、外国人の社会統合(統合政策)は後手に回りがちで、必要な予算措置も不十分です。
日本政府は「共生社会の実現」を掲げつつも、実際の外国人統合政策は主に地方自治体や民間団体に委ねられています。
特に外国人住民が多い自治体では、相談窓口設置や日本語教育、多言語防災対応などを独自に整備していますが、国からの体系的・財政的支援は不十分です。
結果として、教育現場、福祉・相談機能、地域インフラが過度に負担され、自治体財政の圧迫、現場の疲弊、さらには一般市民の間で「外国人を受け入れすぎではないか」といった批判や不満が噴出しています。
経済の再生こそ、最大の “人材確保策”
こうした状況を変えるために必要なのは、外国人の待遇を改善することではなく、日本社会そのものを根本から立て直すことです。
○持続的に上昇する賃金構造
○成長産業への投資と人材育成
○柔軟なキャリア形成と転職の自由
○社会保障の充実と生活コストの抑制
こうした取り組みによって、日本人自身が「この国で生きることに誇りを持てる」社会を築くことが、結果的に外国人にとっても「魅力的な国」となる近道です。
これはつまり、日本人と外国人の双方にとっての “Win-Winの未来” なのです。
まとめ:外国人頼みから脱却し、「選ばれる日本」へ
日本はこれまで、「外国人材の受け入れは移民ではない」と言いながらも、実質的には移民に近い政策を続けてきました。
その一方で、統合政策は後手に回り、地方や民間に過大な負担を押しつける形となり、国民からの不満と社会的分断が顕在化しています。
このような綻びをこれ以上広げないためには、「労働力不足=外国人で埋める」という短絡的な方程式を見直し、日本という国の再構築に本気で取り組むことが求められています。
外国人に “選ばれる国” になるためにも、まず日本人自身が “住みたい・働きたいと思える国” を取り戻すこと。
それが、真に優秀な外国人材が自然と集まる国への道でもあり、日本の未来を支える最も確かな一歩となるのです。