人工甘味料と天然由来成分を同列に語る危うさ――日本の食品安全行政の問題点

はじめに

私たちが日々口にする食品には、「人工甘味料」「合成保存料」といった化学的に合成された添加物から、自然由来の成分まで、さまざまな物質が含まれています。2022年4月、内閣府令である「食品表示基準」が一部改正され、「人工甘味料」「合成保存料」という用語の使用は禁止されました。理由は、「天然にも有害なものは存在するのだから、人工・合成という区別そのものが意味を持たない」というものです。

一見もっともらしく聞こえるこの説明ですが、実はここに大きな問題があります。なぜなら、この議論は天然由来の有害物質」と「人工的に合成された化学添加物」を、同じ土俵で比較しているからです。しかし両者は本質的に異なり、さらに日本の規制のあり方には、国際的な視点から見ても深刻な問題が潜んでいるのです。

本記事では、この点をわかりやすく解きほぐしながら、日本の食品行政の歪みと、私たちが自ら身を守るためにできることを考えていきます。

天然由来の毒性物質と人工化学添加物は同列ではない

天然の食品にも有害物質が含まれることは事実です。たとえば、ビワの種に含まれるアミグダリンは分解されると青酸を生じ、中毒死の事例もあります。しかし、こうした「天然の毒」は人類が長い歴史の中で経験的に知り、避ける術を身につけてきました。毒性があるかどうか、またどの程度の摂取量で危険かが文化や伝承、さらには科学的研究によって明らかになっています。

一方、人工甘味料や合成保存料といった人工化学添加物は、誕生してからせいぜい数十年、多くても百年程度の歴史しかありません。安全性評価が行われているといっても、それは基本的に動物実験や短期的な臨床試験に基づいたものです。つまり、中長期的に人体にどのような影響を及ぼすかについては未解明の部分が多いのです。

したがって、「天然にも危険はあるのだから人工物と変わらない」という理屈は、消費者をミスリードする詭弁にすぎません。

国際的に禁止されている添加物が日本では使われている

さらに深刻なのは、日本の規制のあり方です。人工甘味料や保存料の中には、欧州連合(EU)や米国などでは使用が禁止されているにもかかわらず、日本では今も使用が許可されている物質が少なくありません。

たとえば、アスパルテームやアセスルファムKといった人工甘味料は、発がん性や代謝への影響が疑問視され、国際的に議論が続いています。パラオキシ安息香酸エステル類(いわゆるパラベン)についても、使用制限を強化する国が増えている一方、日本では依然として広く使用されています。

この背景には、欧米では消費者保護の立場から「疑わしいものは規制する」という予防原則が採用されているのに対し、日本では生産者や業界団体の利便性を優先して規制が緩やかになる傾向があるという違いがあります。ここにこそ、日本の食品安全行政の大きな問題が潜んでいるのです。

「短期的な安全性」と「長期的な安全性」は別物

食品添加物の安全性評価は、通常ラットやマウスを使った毒性試験に基づいて行われます。これによって急性毒性や短期的な影響はある程度把握できます。しかし、人間が数十年にわたって摂取し続けたときに何が起こるのかは、ほとんど検証されていません。

実際、過去には「当時は安全とされた添加物」が後になって発がん性や内分泌かく乱作用を持つことが判明し、使用禁止となった例も数多くあります。人工甘味料の一部については、腸内細菌叢への影響や糖代謝異常との関連が近年指摘され始めています。

つまり「現時点で危険は確認されていない」というだけで「安全」と断言することはできないのです。

食品表示基準改正の落とし穴

2022年の改正で「人工」「合成」という表示が禁止された背景には、「消費者が誤解するから」という説明がなされました。しかし、誤解を防ぐどころか、むしろ消費者の判断材料を奪い、不透明さを増してしまっています。

「天然由来か人工か」という区別は、単なるイメージの問題ではなく、食品のリスクを理解する上で重要な手がかりです。人工的に作られたものは中長期的な安全性が未知数であり、消費者にはその情報を知る権利があります。

行政の信頼性はどこまで担保されるのか

ここで改めて指摘すべきなのは、日本の行政機関の食品安全情報は必ずしも「消費者保護」の立場に立っていないという事実です。
欧州連合(EU)のEFSA(欧州食品安全機関)や米国FDA(食品医薬品局)は、消費者の健康を最優先に規制や情報提供を行う姿勢が比較的明確です。
これに対し日本の行政機関は、農林水産業や食品産業の利便性・経済性を重視する傾向が強く、規制も緩やかで、情報公開の姿勢も限定的です。
そのため、「行政が言っているから安心」と鵜呑みにするのは危険です。

賢い食品選びのポイント

では、私たちはどうすればいいのでしょうか。以下の三つを心がけることが重要です。

①原材料表示をよく確認する
パッケージの裏面に小さく書かれた原材料欄は、健康を守るための重要な情報源です。知らないカタカナ名や不自然に長い添加物名が並んでいる食品は避けるのが無難です。
②信頼できる情報源を利用する
ただし、ここで注意すべきなのは「どの情報源を信頼するか」です。日本の行政機関は業界寄りの規制が多いため、必ずしも中立・消費者保護の立場に立っているとは限りません。したがって、海外の規制動向(欧州連合(EU)や米国の食品医薬品局(FDA)の公式情報)、信頼できる独立系研究機関、医師や専門家のレビューなどを組み合わせて判断することが望ましいのです。
③「無添加=安全」ではないと理解する
無添加食品が必ずしも安全とは限りません。保存料を使わない代わりに日持ちしない食品も多く、取り扱いを誤れば食中毒の危険性も高まります。重要なのは「何を使っているか」を知り、自分でバランスをとる姿勢です。

まとめ

「天然にも毒があるのだから人工と同じだ」という理屈は、消費者を安心させるための方便にすぎません。天然の毒性は長い歴史の中で証明済みであり、人工化学添加物は長期的な安全性が未解明のまま使われ続けています。しかも、諸外国では禁止されている物質が日本では許されているという現実があり、日本の行政機関が必ずしも消費者保護を最優先にしていないことは重大な問題です。

だからこそ、私たち消費者自身が主体的に学び、賢く食品を選ぶ力を持つことが何より重要です。行政や業界に「任せきり」にせず、情報を比較し、自分と家族の健康を守る行動を取っていきましょう。

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