2025年11月下旬、香港の高層マンションで大規模な火災が発生し、多くの犠牲者が出ました。このニュースは日本でも大きく報道され、その中である番組の専門家が次のような趣旨のコメントをしていました。
「日本は香港よりも建築や防火の基準がしっかりしているので、同じようなタイプの火災の心配はない。」
日本の防火基準は確かに国際的に見ても厳しく、法律・制度が整っている部分が多いのは事実です。一方で、こうしたコメントが “過度の安心感” につながる危険性について、私は改めて問題提起したいと考えています。
日本の防火・建築基準は確かに厳しい
まず確認すべきは、日本の建築基準法や消防法が、世界的に見ても比較的厳格な防火性能を求めてきたという事実です。
耐火構造、防火区画、避難設備、スプリンクラー、自動火災報知設備など、高層住宅に求められる要件は多岐にわたります。
この点だけを切り取れば、「基準が整っている」と専門家が述べたことは、一定の根拠に基づくものです。
しかし、「だから同じような火災は起きない」とは言えない
ただし、専門家コメントの後半——
「香港のような火災の心配はない」
という部分には、十分な根拠があると言い切れません。
香港の火災では、防火基準を満たさない可能性のある資材が改修工事中に使われていたことが、後日の調査で判明しました。
これは、基準そのものよりも “その基準が現場で守られているかどうか” が、火災の規模を左右したことを示しています。
ここが、今回の論点の中心です。
日本でも「基準はあったのに起きた不正・手抜き」は多数ある
思い返せば、日本でも以下のような建築関連の不祥事が繰り返されてきました。
〇耐震偽装問題
〇杭データ改ざん問題
〇コンクリート強度不足
〇施工不良や不適合建材の使用 など
これらはすべて、
「基準は存在したが、遵守状況の検証が不十分だった」
ことが原因です。
つまり、日本も例外ではありません。
制度として基準が厳しく整っていても、運用の実効性が欠ければ、大きな構造的リスクが発生するのです。
“基準と運用はワンセット” で考える必要がある
今回の香港火災を報じる際、
「基準が厳しいから日本は安全」
というコメントは、制度の “表側” だけを見た判断と言えます。
しかし本当に重要なのは、
〇その基準がどれほど正確に現場へ落とし込まれているか
〇行政の検査・監督が現実的に機能しているか
〇不正や手抜きを発見できる仕組みがあるか
〇改修工事やメンテナンスにも十分な監理体制があるか
という、“運用の側” にあります。
特に、改修工事中の外装材・足場・防護ネットといった、法制度の盲点になりやすい領域では、不適切な資材や管理不足が火災を拡大させる危険があります。
基準がどれほど厳しくても、こうした部分の監理が甘ければ事故は起こり得ます。
過度な安心は、かえって危険である
今回の報道を受け、「日本は基準が厳しいから大丈夫」という安心感だけが強調されると、以下のような重要な論点がかすんでしまう危険があります。
〇日本でも不正・施工不良は繰り返されている
〇改修工事や資材の選定という “現場の実態” にこそリスクが潜む
〇 “制度の設計” と “現場の運用” に乖離が生じない保証はどこにもない
つまり、基準の厳しさだけで安全を語ることはできないのです。
まとめ:私たちが向き合うべき “安全の本質”
〇日本の基準が他国より厳しい部分があるのは事実
〇しかし、「だから香港のような火災は起きない」という断言は根拠不足
〇日本でも基準逸脱が現実に起きており、運用の実効性こそ本質
〇基準と運用はワンセットで成立し、どちらが欠けても安全は成り立たない
〇本来、専門家コメントも「基準」だけでなく「運用の現実」まで踏み込むべき
今回の報道は、私たちにもう一度考える機会を与えてくれました。
――『基準があるから安心』は、本当に正しいのか。
未来の事故を防ぐためには、この問いに正面から向き合う姿勢が不可欠だと私は考えています。
※必要十分な基準の存在とその運用の実効性がワンセットであるというポイントは、実は外国人受け入れ政策(移民政策や出入国管理政策)についても当てはまります。後日、別途記事を投稿する予定です。
