中華人民共和国は第2次世界大戦の「戦勝国」なのか?――日本のメディアが触れない歴史的矛盾の背景

中華人民共和国(People’s Republic of China=PRC)が成立したのは、第2次世界大戦後の1949年です。にもかかわらず、近年の中国政府は、まるで自らが戦時中から連合国(United Nations)の一員であったかのように、“抗日戦争の主役” “戦勝国” という立場を主張することが多いのです。

しかし、これは明白な歴史的事実との齟齬であり、PRC自身の政治的レトリックにすぎません。ところが、日本のマスコミでは、この点をはっきりと指摘する報道がほとんど見られません。本稿では、まず歴史的事実を整理したうえで、なぜ日本のメディアはこの問題を積極的に扱わないのか、その背景事情を多角的に考察してみました。

前提事実―「戦時中の中国」は中華民国であり、中華人民共和国ではない

まず確認しておくべき、基本的かつ重要な事実がある。
●1942年「連合国共同宣言」(United Nations Declaration)
この宣言に署名した “China” は、当時の中華民国政府(Republic of China=ROC)である。
●1945年の国際連合の創設時
安全保障理事会の常任理事国(Permanent 5)として参加したのも、中華民国である。
●1949年の建国
第2次世界大戦で日本(当時の日本の国号は「大日本帝国」)が敗れると中国国民党中国共産党の対立が再燃し、1946年6月から内戦が再開された。当初は国民党が兵力で優勢だったが、共産党は農民の支持を背景に、特に満州(東北部)で勢力を拡大し、ソビエト社会主義共和国連邦(略称「ソ連」)の支援を受けつつ、国民党軍を圧迫。1949年10月には毛沢東が北京で中華人民共和国(PRC)の建国を宣言。一方、国民党政府は台湾に撤退し、中華民国として存続した。この中華人民共和国(PRC)は、それ以前の中華民国政府を単純に「継承」したものではなく、別の政府による国家権力の掌握である。

●1971年の国連総会決議2758号
ここで行われたのは、「国際連合における “China” の代表権を中華民国から中華人民共和国へ切り替えた」という政治的決定であって、PRCを「1945年から存在していた中国の継承国家である」と認定したわけではない。

つまり、中華人民共和国(PRC)は1949年以前の連合国の構成国ではなく、「抗日戦争を指導した当事者」でもない。その時期の中国国家は、明確に中華民国(ROC)であった。

では、なぜ日本のメディアはこの矛盾をはっきり指摘しないのか?

この疑問には、外交・政治・経済・メディア構造が複雑に絡み合っている。主な理由を以下に整理する。

① 外交的・政治的に「取り扱いにくい問題」である
1972年の日中共同声明以来、日本政府は「中国を代表する唯一の政府は中華人民共和国」としている。このため、
〇中華人民共和国(PRC)の歴史的正統性の矛盾
〇1945年当時の代表は中華民国(ROC)であること
を明確に報じることは、政府の外交姿勢と微妙なズレを生む可能性がある。
特に中国関連報道では、外交上の摩擦を避ける配慮が働きやすい。

② 戦後長期間にわたる「中国=一国」の刷り込み
戦後の教育・メディアは、長く「中国は一つ」「中国の政府は北京」という単線的理解を社会に定着させてきた。そのため、
〇中華民国(ROC)と中華人民共和国(PRC)が別の国家である
〇戦時の中国は中華民国(ROC)である

という事実は一般認知としては浸透しにくく、報道側も説明の労力を割きにくい。

③ メディア企業の中国ビジネス利害
大手メディアは、
〇中華人民共和国国内での取材許可
〇系列企業・スポンサー企業の中国市場
〇中国ビジネスに依存する広告収入
といった利害関係を抱えている。
そのため、中華人民共和国政府の政治的主張を正面から否定する報道は、企業活動全体へのリスク要因となり得る。
これは露骨な “圧力” というより、構造的な「自粛」の性質が強い。

④ 中国の対外的反応の強さを、メディアが知っている
中国は歴史問題にきわめて敏感であり、政治的・外交的に強硬な反応を示すことが多い。日本のメディアにとって、
「PRCは戦勝国ではなかった」
「PRCは連合国ではなかった」

という歴史的指摘は、中国の反発を招きやすく、報道リスクが大きい。

⑤ 日本メディアが「国際法的な議論」に弱い
欧米メディアと比べて、
国家承継(succession)
・代表権の法的地位
・国際機構における地位の連続性
などの概念を深く扱う文化が乏しい。
よって、
PRCの歴史的連続性の矛盾という国際法領域の問題は、そもそも報道の“守備範囲”に入りにくい。

⑥ 歴史問題=“右派的主張” との誤解を避ける自己規制
戦後の日本メディアは、歴史問題について慎重すぎるほど注意深くなり、
〇歴史修正主義と誤解されるのを避ける
〇国内イデオロギー論争に巻き込まれるのを嫌う
という心理的ハードルがある。
結果として、単純な事実の指摘であっても、「触れない」という消極的姿勢が採られがちだ。

⑦ 複雑な事実関係を説明するコストが高い
中華民国・中華人民共和国・代表権・国際連合・承認の問題は複雑で、紙面・時間を多く使う。
一般向け報道としては、十分な説明を行うハードルが高く、担当記者自身も理解が浅いまま扱うケースがある。

まとめ―“PRC=戦勝国” という誤解が流通する理由

本稿で見てきたように、
中華人民共和国(PRC)は1949年に成立した別の政権であり、戦時の連合国中国は中華民国(ROC)であった。PRCが当時の「戦勝国としての実績」を主張するのは、
史実ではなく政治的レトリックである。

にもかかわらず、日本のメディアがこの点を鋭く指摘しないのは、
〇外交上の配慮
〇経済関係
〇報道の構造的制約
〇国際法議論への弱さ
〇イデオロギー論争を避ける傾向
など、複数の要因が積み重なっているためである。

その結果、「PRC=戦勝国」というイメージが、事実とは異なるにもかかわらず、日本国内では半ば自動的に流通してしまっていると言える。

最近のPRCによる「サンフランシスコ平和条約無効」論は、米国・日本・台湾などの対中戦略次第で「逆用」されて “ブーメラン” となるリスクがあるように考えられます。後日、別途ブログ記事にする予定です。

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