「お客様は神様です」は、いつから“免罪符”になったのか?

「お客様は神様です」——この言葉ほど、本来の意味と真逆に使われている日本語も珍しいでしょう。
演歌歌手・三波春夫さん(故人
のこの言葉は、客が神だから偉いという話ではありません。演じる側が、自らを律するための覚悟を語った言葉でした。

三波さんは、「雑念を払い、神前に立つような心で舞台に立つ」ために、聴衆を神様のように見立てたのです。つまりこれは、芸を尽くす側の内面的な姿勢の話であり、客側の権利拡張宣言ではありません。

にもかかわらず、言葉だけが独り歩きしました。
「客なんだから」「金を払っているんだから」「神様なんだぞ」——こうした意識が、理不尽な要求や恫喝、いわゆるカスタマー・ハラスメントを正当化する空気を生んでいます。

しかし、ここで冷静に考えるべきです。
神とは、畏れ敬う存在であって、怒鳴り散らす存在ではありません。
神前で横柄に振る舞う人間がいないように、本来この言葉は、傲慢さを戒めるための比喩でした。

「お客様は神様です」を盾に他者を踏みにじる行為は、三波春夫さんの思想とも、日本語の倫理とも、真逆の位置にあります。
この言葉が招いたのは “サービス精神の美徳” ではなく、“立場を利用した暴力” でした。

いま必要なのは、言葉を捨てることではありません。
誤解を正し、元の意味に立ち返ることです。
客も店も、同じ社会を生きる対等な人間同士なのだ——その当たり前を、私たちはそろそろ取り戻すべきではないでしょうか。

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2023年1月9日付け投稿記事『あなたは本当の意味をご存じですか? 真意が知られていないか誤解されて、真意と離れて使われがちな名言』

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