はじめに
三重県知事が、県職員採用における「国籍条項(日本国籍であること)」の扱いを見直すにあたり、
県民アンケートの結果を参考にする方針を示したことに対し、
東京大学大学院の教授ら6名が連名で「再考を求める意見書」を提出しました。
意見書では、
「人権にかかわる問題を多数決で決めるべきではない」
「アンケートが外国人差別を助長するおそれがある」
といった主張が展開されています。
一見すると、もっともらしく、道徳的にも正しそうに聞こえます。
しかし、本当にそうでしょうか。
この問題は、感情やイメージで語るべきものではありません。
冷静に、制度の話として整理する必要があります。
「人権だから議論してはいけない」は、論点のすり替えである
意見書の中心的な主張は、
「国籍条項は人権の問題であり、その是非を多数決で決めるべきではない」
というものです。
しかし、ここには大きな飛躍があります。
地方公務員になることは、
生存権や信教の自由のような、誰にでも無条件に保障される普遍的人権とは性質が異なります。
公務員は、
・公権力を行使する
・行政判断に関わる
・住民全体に影響を与える業務を担う
立場にあります。
だからこそ、
「誰に、どこまで任せるのか」は、
人権論ではなく、統治制度の設計の問題なのです。
「人権」という言葉を持ち出した瞬間に議論を止めてしまうのは、
真面目な制度論から目を背ける行為と言わざるをえません。
国籍要件は「差別」ではなく、制度の設計の問題である
国籍要件を設けると聞くと、
「外国人差別ではないか」と感じる人もいるでしょう。
しかし、ここでも整理が必要です。
国連の自由権規約でも、
選挙権や被選挙権、公職への就任といった政治的な権利は、
「市民(citizens)」を主体として規定されています。
この「シチズン(市民)」とは、
大阪市民・横浜市民といった意味ではありません。
「その国の国籍を持つ国民」という意味です。
つまり、
公職に国籍要件を設けること自体は、
国際的にも珍しい考え方ではありません。
また、意見書が引用する国連人種差別撤廃委員会の「総括所見」も、
日本の制度に対して「懸念」を示した勧告的意見にとどまっています。
これは、
日本の制度を違法と断定したものでも、
直ちに変更を義務づけるものでもありません。
どう受け止め、どこまで反映させるかは、
日本自身が、民主的に判断すべき問題です。
「少数者を守ること」と「県民の声を聞かないこと」は別の話である
意見書は、
「少数者の人権を守るためには、多数者の意思に歯止めをかける必要がある」
と述べています。
その考え方自体は理解できます。
少数者の権利が重要であることに異論はありません。
しかし、
少数者を守ることと、県民の声を一切聞かないことは、同じ意味ではありません。
アンケートを行うことは、
少数者を排除する行為ではなく、
県民が何に不安を感じ、どこに疑問を持っているのかを把握するための手段です。
もし不安の多くが誤解に基づくものであれば、
行政は説明や情報提供で対応すべきでしょう。
逆に、制度上きちんと考えるべき点があれば、
それを無視せず検討すべきです。
最初から
「聞くこと自体が危険だ」
「民意を問うな」
とする姿勢こそ、民主主義から遠ざかります。
アンケート批判も「政策的異論」にすぎない
意見書では、
アンケートの設問が外国人への不安をあおる構成になっている、
という批判もなされています。
設問の表現について改善の余地がある、
という指摘自体はあり得るでしょう。
しかし、それはあくまで
「このやり方は望ましくない」という政策的な意見の一つです。
アンケートを実施すること自体が、
人権侵害や差別行為になるわけではありません。
反対意見があることと、
その手法が不当であることは別です。
アンケート批判も、
数ある政策的異論の一つにすぎない
という位置づけで、冷静に受け止めるべきでしょう。
肩書や学歴は、議論の正しさを保証しない
今回の意見書が注目されている理由の一つに、
「東京大学大学院の教授が6人も連名で出している」
という点があります。
しかし、
主張の正しさは、肩書では決まりません。
東大教授であっても、
地方大学の教員であっても、
無名の市民であっても、
意見はすべて内容で判断されるべきです。
「誰が言ったか」で議論が決まる社会は、
健全とは言えません。
おわりに
この問題は、
「外国人に冷たいか、優しいか」
という話ではありません。
どの職務を、どこまで、誰に任せるのが適切なのか
という、極めて現実的な制度の話です。
人権という言葉で思考を止めるのではなく、
権威にひれ伏すのでもなく、
一つひとつ、冷静に考える。
それこそが、
民主主義社会に生きる私たちに求められている姿勢ではないでしょうか。
補足Q&A(誤解を避けるために)
Q1.この記事は外国人差別を肯定していますか?
A.いいえ。制度設計の話をしているだけです。
Q2.国籍要件は必ず必要ですか?
A.どの職種まで必要かは政策判断の問題です。
Q3.国連の勧告は無視していいのですか?
A.無視ではなく、どう反映させるかを自国で考える問題です。
Q4.アンケートは危険では?
A.設計次第です。実施そのものが悪とは言えません。

