外国籍者の公務員採用をめぐる議論
近年、地方自治体における外国籍者の職員採用のあり方が議論になっています。
とくに、機密情報の管理などの観点から、外国籍者の採用を見直すべきではないかという議論が一部の自治体で起きています。
これに対して、日本弁護士連合会(略称「日弁連」)は会長声明を発表し、外国籍者の採用機会を国籍のみを理由として制限することは、平等原則や職業選択の自由に反する可能性があると懸念を示しました。
しかし、この問題を考える際には、日本国憲法の人権保障の仕組みと、公務員制度の性格を冷静に整理する必要があります。
憲法は外国人の権利をどこまで保障しているのか
日本国憲法の基本的人権は、日本国民だけでなく外国人にも広く及ぶと一般に理解されています。
しかし、同時に重要な原則があります。それは、
「権利の性質上、日本国民のみを対象とするものは外国人には保障されない」
という考え方です。
この原則は、最高裁判所の判例でも示されています。たとえば、マクリーン事件判決(昭和53年10月4日付け最高裁判所大法廷判決)では、外国人にも基本的人権は及ぶものの、権利の性質によっては国民に限られるものがあると明確に述べられました。
つまり、日本の憲法は「外国人にも人権を保障する」一方で、「すべての権利が同じように保障されるわけではない」という構造を持っています。
公務員という仕事の特殊性
この点が特に重要になるのが、公務員という職務です。
公務員は単なる雇用関係の職業ではありません。
税の徴収、許認可、行政処分など、住民に対して公権力を行使する立場にあります。
この問題について、最高裁は 東京都管理職選考受験資格事件判決(平成17年1月26日)において重要な判断を示しました。
この判決では、
公権力の行使や公の意思形成に関与する公務員については、日本国籍を有する者に限る制度を採ることができる
と述べています。
これは一般に「公務員の国籍条項を認める判例」として知られています。
つまり、公務員の職務の中でも、とくに国家や自治体の意思決定や権力行使に関わる職務については、国籍要件を設けることが憲法上許されると判断されているのです。
地方公務員でも事情は変わらない
地方自治体の職員であれば事情が違うのではないか、という意見もあります。
しかし、地方自治体もまた公権力の主体です。
地方自治体は、住民に対して
・課税
・許認可
・規制
・行政処分
などの権限を行使しています。
そのため、地方公務員の多くの職務は行政権力の行使と深く関わっています。
このため日本では長年、
外国籍職員の採用は、公権力の行使を伴わない職務に限る
という運用が行われてきました。
これは差別ではなく、国民主権の原則と行政権の正統性を守るための制度的な線引きと理解されています。
必要なのは冷静な制度論
もちろん、日本社会に暮らす外国籍住民が地域社会に参加することは重要です。
しかし、そのことと、公権力を担う公務員の資格の問題は、慎重に区別して考える必要があります。
憲法や最高裁判例を踏まえれば、現実的な制度設計としては
・公権力を行使しない職務は採用可能
・行政権の行使や意思形成に関わる職務は国籍要件を維持
という整理が、もっとも法制度と整合的と言えるでしょう。
外国籍住民の社会参加を尊重しながらも、国民主権の原則を守る。
この二つの価値のバランスをどのように取るかが、今後の議論の重要な課題ではないでしょうか。
国籍の壁をどこまで越えるのか――その問いに対する答えは、単なる制度論ではなく、私たちがどのような国家と社会を選び取るのかという意思そのものに委ねられているのではないでしょうか。

