法人税と賃上げをめぐる現場と制度のズレ

【誤読・炎上防止のための注意書き】

本稿は、特定の政党・政府・経営者・日本人労働者・外国人労働者を非難することを目的としたものではありません。また、法人税や外国人労働者政策を一律に否定する主張でもありません。
中小企業経営の現場感覚を出発点に、賃金が上がりにくい日本の制度的・構造的要因を整理し、建設的な政策議論につなげることを目的としています。

はじめに

「法人税を上げれば賃金は上がるのか?」。
この問いは、日本の賃上げ政策をめぐる議論で繰り返し登場します。
本稿では、中小企業経営者の現場感覚を起点にしつつ、感情論やレッテル貼りを避け、制度と経済構造の観点から学術的に整理します。
目的は、誰かを断罪することではなく、日本で賃金が上がりにくい理由を冷静に理解することです。

法人税と賃金の関係はなぜ単純でないのか?

法人税は、企業が利益を上げた場合にのみ課される税であり、いわば「変動的な支出」です。
一方、賃金は一度引き上げれば簡単に下げられない「固定費」です。
この性質の違いは、企業行動に大きな影響を与えます。
不確実性が高い経済環境では、企業、とりわけ体力に乏しい中小企業ほど、固定費の増加を慎重に避けようとします。
その結果、法人税の引き上げが直ちに賃上げにつながるとは限らず、むしろ採用抑制や昇給の先送りとして表れる場合が少なくありません。

重要なのは、「法人税増税=賃下げ」という単純な因果ではなく、リスク回避行動として賃上げが見送られるというメカニズムです。

社会保険料が持つ賃上げ抑制効果

日本の賃金構造を考える際、見落とされがちなのが社会保険料です。
賃金が上がると、企業負担分・労働者負担分の双方が増加します。
この結果、
・企業にとっては人件費の実質的増加幅が大きくなる
・労働者にとっては手取りの増加が限定される
という現象が起きます。
賃上げ努力が「実感」に結びつきにくい構造は、賃上げのインセンティブを弱める要因となっています。

労働供給政策と賃金水準の関係

賃金は労働需要と供給のバランスによって決まります。人手不足を理由に労働供給を急速に拡大すれば、理論上、賃金上昇圧力は弱まります。

外国人労働者の受け入れ政策そのものを否定する必要はありませんが、
・低賃金労働を前提とした制度設計
・労働者の交渉力の差
が存在する場合、結果として国内全体の賃金水準を押し下げる効果を持ちうることは、経済学的に否定できません。

内部留保をめぐる誤解

企業の内部留保増加は、しばしば「企業の強欲さ」と結び付けて語られます。
しかし、内部留保の背景には複数の要因があります。
・将来の景気不安
・政策変更の頻発による不確実性
・国内市場の成長鈍化
・投資先の不足

守りを固める行動は、必ずしも非倫理的ではなく、合理的なリスク管理の一環と捉えることもできます。

問題の本質:政策の「同時逆方向性」

賃金が上がらない最大の理由は、単一の政策ではありません。
・増税や社会保険料負担の増加による可処分所得の抑制
・労働供給拡大による賃金上昇圧力の低下
・不確実性を高める政策運営
これらが同時に作用している点に、本質的な問題があります。

賃上げを促す掛け声と賃上げを抑制する制度が並存しているのです。

想定される反論とその整理(Q&A)

Q1.大企業では賃上げできているのだから、法人税や政策の問題ではないのでは?
A.大企業と中小企業では、価格決定力・資本力・内部留保の厚みが大きく異なります。大企業の一部で賃上げが可能だからといって、その構造を中小企業に一般化することはできません。本稿は、特に中小企業が受けやすい制度的制約に焦点を当てています。

Q2.法人税を下げれば企業は賃上げや投資をするはずでは?
A.法人税の引き下げだけで賃上げが自動的に起きるわけではありません。不確実性が高く、将来見通しが立たない状況では、減税分が内部留保に回る可能性もあります。重要なのは税率単体ではなく、政策全体の一貫性と予見可能性です。

Q3.外国人労働者を入れなければ、人手不足で経済が回らないのでは?
A.外国人労働者の受け入れ自体を否定するものではありません。ただし、低賃金を前提とした制度設計のまま受け入れを拡大すれば、賃金上昇圧力を弱める効果を持つことは経済学的に説明可能です。賃金・労働条件の底上げと同時に設計する必要があります。

Q4.内部留保が増えるのは、企業の利益独占ではないのか?
A.内部留保には、設備投資・雇用維持・景気変動への備えといった側面があります。短期的に賃金や配当として還元されないからといって、一概に非難するのは適切ではありません。問題は、投資や賃上げにつながる環境が整っていない点にあります。

Q5.結局、誰が悪いのか?
A.本稿の結論は「特定の誰かが悪い」というものではありません。税制、社会保障、労働政策が部分最適のまま運用され、結果として賃上げを阻害している構造こそが問題です。

おわりに

本稿の結論は単純です。
法人税を上げるか下げるかという二元論では、日本の賃金問題は解決しません。
必要なのは、
・税制
・社会保障
・労働政策
・成長戦略

を一体として再設計すること
です。
現場の声を「感情論」として切り捨てるのではなく、制度の歪みを映す重要なシグナルとして受け止めることが、建設的な賃上げ議論への第一歩ではないでしょうか。

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