毎年、通常国会では新年度予算の審議が長期間にわたって行われます。連日、予算委員会の質疑が報じられ、「予算審議は国会の最重要課題」と説明されることも少なくありません。
しかし、ここで一つの疑問が生じます。
そもそも国会は、新年度予算をどこまで修正できるのでしょうか。
実は、日本では政府が提出した当初予算が国会審議で修正される例は極めてまれです。戦後長い間、予算案が国会で修正された例はほとんどなく、当初予算の修正は1996年と2025年のわずか2回にとどまっています。
しかも2025年度予算の修正は、国家予算の骨格を書き換えるようなものではありませんでした。高校授業料無償化の拡充などを盛り込むために歳出配分を調整する、いわば限定的な組み替え型の修正が中心で、参議院ではさらに高額療養費制度の自己負担上限引き上げを見送る修正が加えられました。
この事実が示しているのは、日本の制度では、国会が予算案の内容を大きく書き換えることが非常に難しいという現実です。たとえば予算の増額修正には政府の同意が必要であり(財政法第29条)、予算案の提出権そのものも政府にしか認められていません。
もしそうだとすれば、現在のように長期間にわたって行われる予算審議は、本当に合理的なのでしょうか。本当に議論すべき政策論争は、もっと別の段階にあるのではないでしょうか。
法律案なら野党も修正できる――国会審議で起こり得る4つの結果
法律案については、野党にも次のような対応の可能性があります。
・法案の一部を修正させる
・附帯決議を付ける
・継続審議に持ち込む
・廃案に追い込む
このように、法律案については、野党が内容そのものに影響を与える余地が比較的大きく存在しています。
予算案ではできることが限られる――野党に可能な修正は減額と組み替え
これに対して、新年度予算案については事情が異なります。
予算は国家運営に不可欠なため、最終的には必ず成立させなければなりません。
そのため、国会で可能な修正は、主として次のようなものに限られます。
・歳出の減額修正
・一部項目を動かす限定的な組み替え修正
なお、日本では予算案の国会修正が起きにくい主な理由については、記事の最後の備考欄を参照してください。
政府予算案はこうして決まる――「骨太の方針」から始まる予算編成の流れ
通常、政府の予算編成は概ね次のような流れで進みます。
6月〜7月
政府が翌年度の基本方針を示す「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる「骨太の方針」)を閣議決定します。
これは
経済財政諮問会議
で議論された内容を基にしています。
8月下旬
各省庁が必要な予算額を見積もり、財務省に概算要求を提出します。
9月〜12月
財務省が査定を行い、各省庁との折衝を重ねながら予算案を調整します。途中で「復活折衝」と呼ばれる最終調整も行われます。
12月下旬
政府としての予算案が閣議決定されます。
1月〜3月
通常国会で審議が行われ、予算が成立します。
4月1日
新年度予算が執行されます。
このように、日本の予算は国会審議が始まる前の段階で、すでに政府内で大枠が固められています。とりわけ重要なのが、毎年6月から7月頃に示される政策の基本方針、いわゆる「骨太の方針」です。実は、国家の優先順位を決める本格的な政策論争は、この段階にこそあると言えるでしょう。
戦後80年でわずか2回――それでも長い国会予算審議は本当に必要なのか
特に注目すべきなのは、日本では当初予算が国会審議で修正される例が極めて少ないという事実です。
戦後約80年の間に、国会審議の過程で当初予算が修正されたのは、1996年と2025年のわずか2回にとどまっています。
つまり、日本の予算は国会審議が始まる前の段階で、すでに大枠が固められているのです。
そのため、予算委員会で新年度予算について最も力を入れて審議すべきことは、予算の細部ではなく、政府が示した政策方針そのものが妥当かどうかという点にあります。
新年度予算案が国会に提出されるのは通常1月ですが、この段階では、制度上可能な修正は減額修正や限定的な組み替え修正にとどまります。実際、戦後の長い期間を見ても、当初予算が国会審議で修正される例は極めてまれです。
もちろん、政府の政策について説明を求めたり、見解をただしたりすることは重要です。
しかし、修正の余地が限られている以上、従来のような長期間の審議が本当に必要なのかは大いに疑問です。
仮に審議日数を現在の半分程度に整理したとしても、制度上可能な修正や質疑を行うことは十分可能だと考えられます。
野党が1月から3月までの間、新年度予算の年度内成立をいわば人質扱いにし、予算委員会を政治的な駆け引きの場として利用するだけで、印象操作的な疑惑追及などに長時間を費やし、予算の減額修正や組み替え修正といった具体的な修正案を提出しないのであれば、審議をいたずらに長引かせる意味はあまりありません。
その場合、与党は年度内成立を確保するため、速やかに採決に踏み切るべきでしょう。
これはいわゆる「強行採決」と呼ばれるものではなく、国家財政の空白を避けるための「責任採決」と考えるべきものです。
国会が本当に問うべきなのは、予算の細部ではなく、日本という国がどこへ向かおうとしているのかという政策の方向そのものなのではないでしょうか。
もし本当の政策論争を求めるのなら、その舞台は予算の細部ではなく、毎年示される「骨太の方針」という政策の出発点にこそあるはずです。
備考:なぜ日本の国会では予算修正が起きにくいのか――制度的な3つの理由
第一に、日本は議院内閣制を採用しています。政府は国会の多数派によって構成されるため、政府が提出する予算案は基本的に与党多数によって支えられています。
第二に、予算案が国会に提出される前の段階で、すでに与党が深く関与しています。与党の部会や政務調査会などで各政策分野の調整が行われ、政府案は事実上、与党との合意のうえで作られているのが実態です。
第三に、予算の提出権は政府にしかありません。国会議員が独自に予算案を提出することはできません。
さらに、国家予算は数百ページにも及ぶ巨大で高度に技術的な構造を持っています。歳出・歳入の細かな仕組みを短期間で大きく組み替えることは、現実的には容易ではありません。
加えて、
財政法第29条
は、国会が予算を増額修正する場合には政府の同意を必要とすることを定めています。いわゆる「政府同意原則」です。
このような制度が組み合わさっているため、日本の国会は予算案を大幅に書き換えることが制度的に難しくなっているのです。

追記:関連する過去の投稿記事
〇2026年2月10日付け『予算委員会はなぜ機能不全に陥ったのか-不正追及と予算審議を両立させるための制度改革論』
〇2026年3月07日付け『予算審議は本来何を議論すべきなのか-国会予算委員会の「政治劇化」を見直す時ではないでしょうか』
〇2026年3月10日付け『国会の予算審議はなぜ長いのか?-日本で当初予算の国会修正がほとんど起きない制度構造』
