日本は本当に「移民国家」へ向かっているのか:日本の外国人政策を考える【第二部・後半】技能実習制度から育成就労制度へ――制度目的はなぜ再び変わったのか

第六章 技能実習制度の創設――「研修」から「技能実習」へ

前半で見てきたように、平成元(1989)年入管法改正に伴う法令整備によって、在留資格「研修」では「実務研修」が法制度上認められました。
「実務研修」とは、当時の上陸審査基準を定める法務省令において、
「商品を生産し若しくは販売する業務又は対価を得て役務の提供を行う業務に従事することにより技能,技術又は知識を修得する研修」
と定義され、業務に従事しながら技能・技術・知識を修得する研修として制度化されました。
その後、この制度は運用を重ねる中で見直しが進められ、平成5(1993)年には在留資格「技能実習」が創設されます。
技能実習制度は、外国人研修制度の延長線上に位置付けられる制度であり、研修制度の仕組みを引き継ぎながら、技能等の修得をより体系的に行う制度として整備されました。
企業が単独で受け入れる方式と、中小企業団体等が監理団体となって受け入れる方式の双方が制度として位置付けられ、多くの中小企業が制度を利用するようになります。

第七章 制度目的は「技能移転」と「国際貢献」

技能実習制度が創設された目的について、日本政府は一貫して、
開発途上地域等への技能・技術・知識の移転を通じた国際貢献
であると説明してきました。
すなわち、日本で修得した技能等を母国へ持ち帰り、その国の経済発展や産業振興に役立ててもらうことを制度目的としたのです。
この考え方は、技能実習法にも受け継がれています。
技能実習制度は、外国人労働者を受け入れる制度ではなく、あくまでも人材育成を目的とする制度であるという説明が、長年にわたり政府の基本的立場でした。
もっとも、この制度は、日本国内の事業者において実際の生産活動やサービス提供に従事しながら技能等を修得する制度でもありました。
そのため、制度目的と実際の運用との関係については、制度創設当初から様々な議論が行われることになります。

第八章 制度運用の中で明らかになった課題

技能実習制度は、その後約30年間にわたり運用されました。
その間、日本経済の人手不足は次第に深刻化し、多くの産業分野で技能実習生が重要な役割を担うようになります。
一方で、制度運用の面では様々な課題も指摘されました。
例えば、
・技能実習計画どおりの実習が行われていない事例
・法令違反を行う
実習実施者(受け入れ企業)や監理団体
・技能実習生に対する人権侵害や労働関係法令違反
・実習先からの失踪
・悪質な送り出し機関による高額な手数料徴収
などです。
もちろん、多くの実習実施者(受入れ企業)や監理団体は制度を適正に運営していました。
しかし、一部の不適切な運用が国内外から強く問題視されるようになり、制度そのものの見直しが求められるようになりました。
こうした状況を受け、日本政府は技能実習制度を維持したまま部分的な改善を繰り返してきました。
しかし、制度運用上の課題は根本的には解消されず、政府は制度そのものの在り方について抜本的な検討を行うことになります。

第九章 制度目的の転換――育成就労制度の創設

こうした状況を受け、政府は技能実習制度そのものの在り方について抜本的な見直しを進めました。
令和5(2023)年、有識者会議は最終報告書を公表し、技能実習制度について、
「技能実習制度は発展的に解消し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度を創設することが適当である」
と提言しました。
この提言を踏まえ、政府は育成就労制度を創設する法案を国会へ提出し、成立した改正法により、新たな制度が整備されることになりました。
ここで注目すべきなのは、制度目的そのものが変更されたことです。
技能実習制度では、政府は一貫して「技能・技術・知識の移転による国際貢献」を制度目的として説明してきました。
これに対し、育成就労制度では、
 人材育成
だけではなく、
 人材確保
が制度目的として明確に位置付けられました。
政府は制度説明資料において、
「人手不足への対応の一つとして外国人の受入れも欠かせない状況にある中、外国人にとって魅力ある制度を構築することで、我が国が外国人から『選ばれる国』となり、我が国の産業を支える人材を適切に確保する」
ことを制度創設の目的として掲げています。
この点は、外国人受入れ制度の目的を理解する上で、大きな転換点といえるでしょう。

第十章 政府の外国人労働政策はどのように変わってきたのか

制度目的の変遷を振り返ると、政府の説明には一つの流れが見えてきます。
平成元(1989)年の入管法改正では、それまで「高度な専門的知識・技術又は熟練した技能」を前提としていた就労資格制度が、「一定水準以上の専門的知識・技術・技能」を有する外国人へと門戸が広げられました。
その一方で、その基準に達しない分野については、「いわゆる単純労働」と整理され、その受入れについては慎重に検討を続けるという政府方針が維持されました。
しかし、その後の制度の発展と社会経済情勢の変化の中で、政府の用語も変化していきます。
特に平成30(2018)年の特定技能制度創設以降、政府の公文書や国会答弁では、「いわゆる単純労働」という表現はほとんど用いられなくなりました。
代わって用いられるようになったのが、
「生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材」
という表現です。
この表現からも分かるように、政府は、外国人材の受入れを「高度人材」と「いわゆる単純労働」という二分法で説明するのではなく、それぞれの在留資格の制度目的や求められる専門性・技能に応じて整理する考え方へと移行しています。
この変化は、日本の外国人受入れ政策を理解する上で重要な視点の一つといえるでしょう。

終章 本稿で整理した制度変遷の意味

本稿(第二部)では、外国人研修制度から技能実習制度、そして育成就労制度へと至る一連の制度変遷について、その政策目的の変化に着目して整理しました。
具体的には、当初は企業の海外展開に伴う人材育成支援という位置づけから出発し、その後、途上国への技能移転や国際貢献という政策目的が強調されるようになり、さらに人手不足への対応という実質的な政策目的が明確化されていく過程を確認しました。
このような変遷は、単一の制度の改廃というよりも、経済環境の変化や労働市場の構造変化、さらには政策的要請の変化に応じて、制度の目的と設計が段階的に再構成されてきた過程であると整理することができます。
その意味で、外国人研修制度から技能実習制度、育成就労制度への流れは、単なる制度名称の変更ではなく、「外国人の受入れをどのような政策目的で正当化するのか」という問題の変遷でもありました。

そして、この問題は第二部で扱った技能系制度にとどまるものではありません。
外国人政策全体を俯瞰すると、こうした制度設計の変遷は、就労制度のみならず、在留資格制度全体、さらには長期在留制度や社会統合政策にも連続している構造を持っています。
この点については、続く第三部において、永住許可制度および帰化許可制度という観点から、外国人の長期在留と社会的統合の仕組みを整理することとします。
本稿で見てきた技能制度の変遷は、そのまま外国人政策全体の一部分であり、より広い制度構造の中に位置づけられるものといえます。
したがって、第二部で確認した制度目的の変化は、第三部で扱う長期在留制度や国籍取得制度と連続的に理解することによって、はじめて外国人政策全体の構造として把握することが可能になります。

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