はじめに
第一部では、日本政府が外国人受入れについて「移民政策は採らない」と説明する一方で、経済・産業政策として外国人材受入れ制度を整備していることを確認しました。
第二部では、外国人研修制度から技能実習制度、さらに育成就労制度へと制度目的が変化してきた過程を整理しました。
本稿第三部では、その延長線上にあるもう一つの重要な制度領域として、永住許可制度と帰化許可制度を取り上げます。
これらは外国人の「長期在留」と「国籍取得」に関わる制度であり、在留資格制度とは異なる法的構造を持っています。
第一章 外国人の長期在留制度の全体構造
外国人が日本に在留するためには、出入国管理及び難民認定法(略称「入管法」)に基づき、在留資格を有することが必要です(入管法第2条の2)。
在留資格は大きく分けると、以下のように整理できます。
活動資格(就労資格・非就労資格)
居住資格
居住資格には、日本社会における身分関係や地位に基づいて付与される在留資格が含まれていて、具体的には次の4つです。
在留資格「永住者」
在留資格「日本人の配偶者等」
在留資格「永住者の配偶者等」
在留資格「定住者」
これらは、就労活動の内容について入管法上の制限が設けられていない点に特徴があります。
ただし重要なのは、これらの在留資格はいずれも「在留資格」であり、永住や国籍そのものを意味するものではないという点です。
外国人が永住者となるためには、在留資格とは別に、入管法に基づく永住許可を受ける必要があります。
また、日本国籍の取得には、国籍法に基づく帰化の許可が必要です。
このように、日本の制度は次のような階層構造を持っています。
在留資格(在留の許可)
永住許可(在留資格「永住者」の付与)
帰化の許可(日本国籍の取得)
第二章 永住許可制度とは何か
在留資格「永住者」は、在留期間の定めがなく、日本で長期間生活する外国人にとって重要な在留資格です。
もっとも、永住許可は一定期間日本に住めば自動的に認められるものではありません。
入管法第22条第2項では、永住許可について次のように定めています。
素行が善良であること
独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
これら二つの要件に適合し、かつ、その者の永住が日本国の利益に合すると認められるときに限り、法務大臣は永住許可をすることができるとされています。
この「日本国の利益に合すると認められること」は、法律上の要件ではあるものの、その内容は抽象的です。
そこで、出入国在留管理庁は、その判断の考え方を示すものとして「永住許可に関するガイドライン」を公表しています。
同ガイドラインでは、例えば、一定期間継続して適法に在留していること、公租公課を適正に履行していること、公的義務を誠実に果たしていること、現在の在留状況が良好であることなど、「日本国の利益に合すると認められるかどうか」を判断する際の代表的な考慮事項が示されています。
もっとも、このガイドラインは新たな法定要件を追加するものではありません。
あくまで、入管法第22条第2項に規定された「その者の永住が日本国の利益に合すると認められること」という法定要件について、行政運用上の判断基準を公表したものと位置付けられます。
永住許可制度は、このような法定要件と行政運用の双方によって運用されている制度なのです。
第三章 永住者の地位と法的安定性
永住許可を受けると、外国人には在留資格「永住者」が付与されます。
この在留資格は在留期間の更新を必要とせず、就労活動についても入管法上の制限を受けないため、日本で長期的な生活基盤を築く上で最も安定した在留資格の一つといえます。
もっとも、「永住者」という地位は、無条件・無制限に保障されるものではありません。
永住者であっても、入管法に定める退去強制事由に該当した場合には、退去強制の対象となり得ます。
ただし、長期間日本に生活基盤を有する者については、人道上の配慮や家族関係など個別事情を総合的に考慮した結果、在留特別許可が認められ、在留資格「定住者」などによる在留が許可される場合があります。
さらに、2024年6月に成立した改正入管法では、一定の場合に永住許可を取り消すことができる制度が新設されました(施行予定日:2027年4月1日)。
この制度は、永住者であっても一定の場合には在留資格「永住者」(永住者としての法的地位)を失うことがあり得ることを明確にしたものです。
このように、在留資格「永住者」は日本の在留資格制度の中でも最も安定性の高い制度ですが、その地位は法制度の下で適切に維持されることを前提として成り立っています。
第四章 帰化許可制度とは何か
帰化の許可の制度とは、国籍法に基づき、外国人に日本国籍の取得を認める制度です。
永住許可制度が「在留資格」を付与する制度であるのに対し、帰化許可制度は国籍そのものを変更する制度であり、その法的効果は根本的に異なります。
帰化が許可された場合、その者は日本国民としての地位を取得し、日本国憲法の下で日本国民と同等の権利・義務を有することになります。
国籍法では、帰化の一般的な最低限の条件として、同法第5条で次のような事項が定められています。
住所条件(帰化の申請をする時まで、引き続き5年以上日本に適法に住んでいること)
能力条件(成年齢が18歳以上であって、かつ、本国の法律によっても成人の年齢に達していること)
素行条件(素行が善良であること)
生計条件(生計を一つにする親族単位で判断して、生活に困るようなことがなく、日本で暮らしていけること)
重国籍防止条件(帰化しようとする人は、無国籍であるか、原則として帰化によってそれまでの国籍を喪失することが必要)
憲法遵守条件(日本の政府を暴力で破壊することを企てたり、主張するような者、あるいはそのような団体を結成したり、加入しているような者は帰化が許可されません。)
なお、日本と特別な関係を有する外国人(日本で生まれた者、日本人の配偶者、日本人の子、かつて日本人であった者等で、一定の者)については、上記の帰化の条件を一部緩和しています。
これらの法定条件に加え、帰化許可の実務では、日常生活を営むのに十分な日本語能力(会話及び読み書き)を有することや10年以上在留していることなど、日本社会に融和していることが必要です。
これらの条件を満たすかどうかは、法務大臣が個別具体的に審査し、最終的に許可の可否が決定されます。
このように帰化許可制度は、単なる在留の延長ではなく、国籍という国家との法的結合そのものを変更する制度である点に特徴があります。
第五章 統計と制度の関係
本シリーズ全体を通じて、外国人政策を考える際には、少なくとも次の三つの視点が重要であると考えられます。
第一に、永住許可制度と帰化許可制度の制度設計や運用の在り方によって、社会統合政策の内容と実効性が大きく左右されるという視点です。
第二に、長期在留者が増加していく中では、永住許可制度や帰化許可制度の運用だけでなく、日本社会への社会統合政策をどのように進めていくかという視点です。
第三に、外国人政策を議論する際には、在留資格制度、永住許可制度、帰化許可制度を、それぞれ独立した制度としてではなく、相互に関連する制度として全体的に捉える視点です。
また、外国人政策を議論する際には、公表されている統計資料の範囲と限界についても理解しておく必要があります。
例えば、法務省・出入国在留管理庁は、不法残留者については、不法残留となる前にどの在留資格で在留していたのかを毎年公表しています。
一方で、永住許可については、永住許可を受ける直前にどの在留資格で在留していたのかという統計は、現在のところ公表されていません。
そのため、永住許可制度の実態や、どのような在留資格から永住へ移行しているのかを分析する際には、公表統計だけでは把握できない部分があることにも留意する必要があります。
外国人政策を冷静に考えるためには、制度だけでなく、統計によって何が分かり、何が分からないのかという点についても正しく理解することが重要です。
終章 本シリーズを通じて確認したこと
本シリーズでは、日本の外国人政策について、在留資格制度を基礎として、その制度構造と変遷を三部に分けて整理してきました。
第一部では、日本の在留資格制度の基本的な仕組みと、「移民政策を採らない」という政府方針との関係について確認しました。
第二部では、外国人研修制度から技能実習制度、そして育成就労制度へと至る制度変遷をたどり、制度目的がどのように変化してきたのかを整理しました。
第三部では、永住許可制度と帰化許可制度という、日本で長期に生活する外国人に関わる制度について、その法的性格や制度の位置づけを確認しました。
こうして三部を通して見ると、日本の外国人政策は、一つの制度だけで語ることのできるものではないことが分かります。
日本の外国人政策については、様々な評価があります。
「移民政策を進めている」と評価する人もいれば、「そのようには評価できない」と考える人もいます。
しかし、どのような立場に立つとしても、議論の出発点となるべきなのは、制度と統計という客観的事実です。
技能実習制度だけを見ても、日本の外国人政策全体を理解することはできません。
在留資格制度、永住許可制度、帰化許可制度、不法残留対策など、それぞれ異なる制度目的を持つ仕組みを区別し、その相互の関係を踏まえて考えることが重要です。
その上で、社会統合政策をどのように進めるのか、また、長期在留につながる活動資格の在り方について、永住許可制度や帰化許可制度との関係を踏まえながら、制度全体としてどのように考えるべきなのか――こうした課題について事実に基づく冷静な議論を深めていくことが、日本の外国人政策を考える上で重要な視点になると考えます。
本シリーズが、日本の外国人政策について、感情やイメージではなく、制度と事実に基づいて考えるための一助となり、建設的な議論につながることを願っています。
