「背乗り」は本当に存在するのか?──戸籍制度を守るために考えるべき本人確認と身分詐称の問題

時代の一歩先
不正アクセス 警視庁

はじめに

「背乗り(はいのり)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
近年、SNSでは、
・「震災で亡くなった人の戸籍が悪用されている」
・「他人になりすまして日本社会に潜り込んでいる人がいる」
・「戸籍制度そのものが危険だ」
といった主張を目にする機会が増えました。
一方で、こうした話題はすぐに、
・陰謀論扱いされる
・排外主義的な議論に流れる
・感情論だけが先行する
という状況にもなりがちです。
しかし、本当に重要なのはそこではありません。
デジタル化が進み、行政手続や金融サービスのオンライン化が進展する中で、本人確認の重要性はかつてなく高まっています。また、人や情報が国境を越えて移動する現代社会において、身分詐称やなりすましへの対策は、日本だけでなく各国共通の課題となっています。
必要なのは、「全部デマだ」「日本は危険だ」といった極端な議論ではなく、事実と憶測を区別しながら、戸籍制度や本人確認制度の課題を冷静に考えることではないでしょうか。
本稿では、「背乗り」という言葉に振り回されるのではなく、戸籍制度への信頼を守るために、現代社会に求められる制度のあり方について考えてみたいと思います。

「背乗り」とは何か──実在する身分詐称の問題

「背乗り」という言葉は、一般には、
 他人の身分を利用し、別人として社会に入り込む行為
を指します。
法律上の正式な犯罪名ではありませんが、公安・捜査関係の文脈などで使われてきた言葉として知られています。
SNSでは、
・死者の戸籍の悪用
・行方不明者の身分の悪用
・他人名義での生活
などと結び付けて語られることが多くあります。
実際、日本では過去に、
・戸籍謄本や住民票の不正取得
・他人名義による契約
・偽装婚姻
・身分詐称
・なりすまし犯罪
などが発生しています。
つまり、
 「他人の身分を悪用する犯罪」
そのものは決して架空の話ではありません。
なお、「背乗り」は法律上の正式な犯罪名ではありません。
犯罪白書』や『警察白書』でも独立した犯罪類型として整理されているわけではなく、実際には詐欺や文書偽造、身分詐称など複数の犯罪行為として処理されます。そのため、「背乗り」という言葉だけが独り歩きすると、実態以上に大きな問題であるかのような誤解や、逆に全く存在しない問題であるかのような誤解を招くおそれがあります。

「背乗り」はどこまで事実なのか──SNS時代の情報との向き合い方

ただし、
 実在する犯罪と、SNS上の拡大解釈
は分けて考える必要があります。
例えばSNSでは、
 「東日本大震災の犠牲者の戸籍が大量に悪用されている」
といった断定的な主張を目にすることがあります。
しかし現時点では、
・国家規模で
・組織的に
・大量発生している
ことを裏付ける公的統計や確定的な証拠は確認されていません。
したがって、
・身分盗用型犯罪は存在する
・死者情報悪用の可能性も否定できない
・しかし、日本社会全体で大量横行しているとは断定できない
というのが現時点での冷静な整理でしょう。
問題なのは、
「全部デマだ」
という見方と、
「全部事実だ」
という見方の両極端です。
制度を改善するためには、まず事実を正確に把握することが必要です。

戸籍制度を守るために考えるべきこと

この問題を語る際、
 「戸籍制度が危険なのだ」
という方向へ議論が進むことがあります。
しかし、本質はそこではありません。
戸籍制度とは本来、
 家族関係を公証する制度
です。
親子関係や婚姻関係、相続関係などを法的に証明することが主な目的です。
一方で現代社会では、
・金融取引
・医療
・通信
・保険
・オンライン行政サービス
など、本人確認を求められる場面が急速に増えています。
つまり問題の本質は、
 戸籍制度そのもの
ではなく、
 アナログ時代を前提に作られた本人確認制度
にあります。
戸籍制度を否定するのではなく、
 戸籍制度への信頼を守るために、本人確認制度を現代化する
ことこそが重要なのです。

なぜ死者情報の悪用が問題になるのか

死者は、自ら異議を申し立てることができません。
ここに大きな制度上の難しさがあります。
仮に、
・死亡後の情報管理
・身分証の再発行
・名義利用
などに制度上の隙があれば、
本人による訂正が不可能になります。
そのため、死亡者情報の悪用や死亡後の不正利用は、日本に限らず各国で制度課題として認識されています。
重要なのは、
 「外国人問題」
として語ることではなく、
 「死者情報管理と本人確認制度」
の問題として捉えることです。

問題は国籍ではなく制度の脆弱性にある

SNSでは、この問題がしばしば、
・外国人問題
・民族問題
・陰謀論
へと発展します。
しかし
仮に制度の穴が存在するなら、それを利用しようとするのは、国籍に関係なく、
・日本国内の犯罪者
・詐欺組織
・暴力団
・国際犯罪組織
かもしれません。
つまり、問題は
 「誰が利用するか」
ではなく、
 「利用できてしまう制度になっていないか」
という点にあります。
だからこそ必要なのは感情論ではなく、制度論です。

日本はどう制度を更新すべきか──現実的な改善提言

では、何をすべきなのでしょうか。
ここで必要なのは、
陰謀論でも排外主義でもなく、
 「現代社会に合わせた本人確認制度の更新」
です。

① 「死亡情報連携プラットフォーム」の整備
現在、日本では死亡届が提出されても、
・行政
・金融
・保険
・通信
・年金
・医療
などで、情報反映に時間差や分断があります。
そこで、
・医師の死亡診断書
・自治体
・法務
・年金
・金融機関
・保険
・マイナンバー基盤
などを、一定範囲で安全に連携する仕組みが検討に値します。
例えば、
・死亡後の大量送金
・不自然な住所変更
・SIM
再発行
・契約の継続
などを警告対象にできれば、不正検知能力は向上するでしょう。
もちろん、
・誤登録
・個人情報の保護
・行政権限の濫用
への慎重な配慮は不可欠です。

② 「戸籍」と「本人認証」分離
戸籍は本来、
 「親族関係を証明する制度」
です。
一方で現代社会では、
 「本人そのものを認証する仕組み」
も必要になっています。
そのため今後は、
戸籍 → 家族関係・婚姻・相続管理
本人認証 →  ICカード+暗証番号+生体認証
という役割分担を明確化していく必要があります。
例えば、
・マイナンバーカード
・ICチップ
・顔認証
・多要素認証
などを、重要手続に限定して段階導入することは検討に値するでしょう。
重要なのは、
 「戸籍制度を壊す」のではなく、
 “戸籍に本人認証機能を過剰依存しない”
という発想です。

③ 戸籍・住民票取得の監査強化
現在でも本人確認は強化されています。
しかし依然として、
 「取得後の追跡」
には課題があります。
そこで検討に値するのが、
取得履歴の本人通知制度
です。
例えば、
・誰が
・いつ
・どの自治体で
・どの理由で
戸籍・住民票を取得したかを、本人へ通知する仕組みです。
また、
・短期間の大量取得
・特定士業への集中
・遠隔地からの大量請求
などをAIや統計で検知する仕組みも考えられます。
もちろん、
・正当な士業活動
・行政実務
を妨げない慎重設計は必要ですが、
 「不正取得には痕跡が残る」
状態を作るだけでも、一定の抑止効果が期待できます。

④ 「死者情報悪用」の重点犯罪化
現在でも、
・詐欺
・私文書偽造
・電磁的記録不正作出
などで処罰は可能です。
しかし、
・「死者身分の悪用」
という実態が、制度上・統計上、独立把握されにくい側面があります。
そこで、
・死亡者名義の
使用
・死亡者情報による契約
・死亡者IDの悪用
などを重点類型として整理し、
・実態把握
・統計整備
・捜査集中
を進めることは検討に値します。
また、死者本人が被害申告できない以上、
 「発覚が遅れやすい犯罪」
として、追跡体制強化を検討する余地もあるでしょう。

制度更新と自由の保護を両立できるか

ただし、ここで非常に重要な問題があります。
本人確認を強化すればするほど、
・国家による情報集中
・監視社会化
・行政権限の肥大化
・個人情報の流出
のリスクも高まるからです。
つまり、
 「不正防止」

 「自由の保護」
は、時に緊張関係にあります。
だからこそ必要なのは、
「セキュリティ強化」と
「自由権保護」を
同時に議論すること

です。
例えば、
・利用目的の限定
・第三者による監査
・国会による監視
・データ保存の制限
・行政アクセス記録の公開
など、“権限濫用を防ぐ仕組み”も同時に整備されなければなりません。
もしそこを欠けば、
・陰謀論
・過剰監視
・国家への不信
を逆に拡大しかねません。
制度更新とは、
単なる管理強化ではなく、
 「自由社会を維持するための信頼設計」
であるべきなのです。

おわりに

もし戸籍制度への信頼が揺らげば、
困るのは特定の政治勢力でも、
特定の国籍の人々でもありません。
私たち一人ひとりです。
だからこそ必要なのは、
恐怖や怒りに流されることではなく、
制度の長所を守りながら、
時代に合わせて更新していく知恵です。
「背乗りは本当に存在するのか」
という問いの先にあるのは、
日本社会がこれからも安心して互いを信頼できる社会であり続けるために、どのような制度を築くべきかという問題です。
戸籍制度を守ることと、
自由な社会を守ることは、
本来、対立するものではありません。
私たちが考えるべきなのは、
 「誰を疑うか」
ではなく、
 「どうすれば信頼できる制度を維持できるか」
なのではないでしょうか。

\ 最新情報をチェック /

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました