「人口1億2,000万人」を守ることが目標なのか――人口減少時代に考えたい、日本の「人口のかたち」

時代の一歩先
人口統計資料集2026 国立社会保障・人口問題研究所

日本では今、「人口減少」が大きな問題になっています。
出生数は減り続け、高齢者は増え、地方では過疎化が進む。
働く人が足りない。
社会保障を支える現役世代の負担が重くなる。
学校や公共交通、医療、介護など、地域社会を維持することも難しくなる。
こうした問題を考えれば、人口減少への対策が必要であることは間違いありません。
ただ、ここで一つ、立ち止まって考えてみたいことがあります。
私たちが本当に目指すべきなのは、「日本の人口を何人にするか」なのでしょうか。
それとも、
どのような人口構造の日本をつくるのか
ということではないでしょうか。
私は、後者の視点がもっとあってもよいと思っています。

日本の人口が1億人を超えたのは、1967年

少し意外な数字があります。
日本の人口が1億人を突破したのは、1967年です。
今から約60年前のことです。
つまり、それ以前の日本は、人口1億人未満の国でした。
もちろん、その当時の日本は今より人口が少なかった。
しかし、
「人口1億人未満だったから、日本は国として成り立たなかった」
などということは、もちろんありません。
むしろ1960年代後半の日本は、高度経済成長の真っただ中にありました。
その後、日本の人口は増え続け、1億2,000万人台にまで達しました。
この歴史を考えると、少し不思議なことに気がつきます。
現在の人口問題では、
「1億2,000万人を維持できるか」
ということが、しばしば大きな問題として語られます。
しかし、1億人だった時代の日本が、その後さらに発展していったことを考えれば、
1億人なのか、1億1,000万人なのか、1億2,000万人なのかという人口の絶対数だけで、日本という国の豊かさや繁栄を測ることはできません。
そもそも、「日本の適正人口は1億2,000万人である」という数字が、自然法則のように決まっているわけでもありません。
もちろん、人口規模には大きな意味があります。
人口が減れば、労働力人口も減ります。
国内市場も縮小します。
社会保障制度の支え手も少なくなります。
国防や安全保障という観点でも、人口規模は無視できません。
ですから、「人口が減っても何の問題もない」と言っているのではありません。
ただし、
「1億2,000万人を維持すること」そのものを、日本の人口政策の絶対的な目標にする必要があるのか。
そこは、もう一度考えてみてもよいのではないでしょうか。

問題は「何人いるか」だけではない

人口について考えるとき、もう一つ重要なものがあります。
それが「人口構造」です。
いわゆる人口ピラミッドです。
子どもがどれくらいいるのか。
若い世代がどれくらいいるのか。
働く世代がどれくらいいるのか。
そして高齢者がどれくらいいるのか。
人口ピラミッドを見ると、その国の人口がどのような構造になっているのかが、おおよそ分かります。
人口が増えていた時代の日本では、若い世代が多い「富士山型」に近い形でした。
ところが、出生数が減り、長寿化が進むにつれて、その形は変わってきました。
そして現在、日本の人口ピラミッドは、若い世代の裾野が細くなった「つぼ型」に近づいています。
ここが、私は日本の人口問題を考えるうえで非常に重要なポイントだと思います。
問題は、人口が減ることだけではない。
若い世代が極端に少ない人口構造になってしまうことなのです。

「人口減少を止める」より「人口のかたちを変える」

では、どうすればよいのでしょうか。
私は、目標の置き方を少し変えてみることが必要だと思います。
これまでの人口問題では、
「人口減少を止める」
という言い方が多く使われてきました。
しかし、人口減少が始まった現在の日本で、すぐに人口を増加に転じさせることは簡単ではありません。
仮に今日から出生率が大きく改善したとしても、生まれた子どもが社会の担い手になるまでには長い時間がかかります。
したがって、
「人口減少を止める」という目標だけを掲げると、現実とのギャップが大きくなってしまいます。
そこで、発想を変えてみる。
目標を、
「人口減少を止めること」
だけに置くのではなく、
「人口減少のかたちを変えること」
に置いてみるのです。
つまり、
「つぼ型」から「釣り鐘型」へ。
これを、日本の人口政策における一つの長期的な目標として考えてみてはどうでしょうか。
もちろん、釣り鐘型になれば、それだけですべての人口問題が解決するわけではありません。
人口の地域偏在、労働生産性、社会保障制度、産業構造など、考えなければならない問題はほかにもあります。
それでも、若い世代が極端に少ない「つぼ型」から、各世代がよりバランスした「釣り鐘型」に近づけていくことは、持続可能な社会をつくるための重要な条件の一つだと思います。

目指すのは「人口の多さ」ではなく「人口のバランス」

人口問題を「人口の絶対数」だけで考えると、どうしても、
「何人まで減ってしまうのか」
という話になります。
しかし、人口構造に目を向けると、問いが変わります。
「どの世代が、どれくらいいる社会なのか」
という問いです。
たとえば、
子どもがほとんどいない。
若者も少ない。
その一方で、高齢者が非常に多い。
このような人口構造になれば、人口が1億人であろうと1億2,000万人であろうと、社会を維持することは難しくなります。
反対に、人口が多少減っていたとしても、
子どもが一定数いる。
若い世代が一定数いる。
働く世代が一定数いる。
高齢者も一定数いる。
という構造になっていれば、社会はずっと安定しやすくなります。
もちろん、現実にはそれほど単純ではありません。
それでも、
「何人いるか」だけではなく、「何歳の人が、どれくらいいるのか」
を見ることは、人口問題を考えるうえで大切な視点だと思います。

だからこそ、出生数・出生率の回復が重要になる

そう考えると、少子化対策の意味も変わってきます。
出生数・出生率の回復は、
「日本の人口を1億2,000万人に戻すため」
だけに必要なのではありません。
もっと本質的な意味があります。
若い世代の人口を厚くし、人口構造そのものをより健全な形に戻していくためです。
もちろん、これは一朝一夕にはできません。
「子どもを産みましょう」と呼びかけるだけで出生率が上がるわけでもありません。
結婚や子育てを希望する若い世代が、その希望を実現できる社会にしなければなりません。
安定した雇用。
十分な所得。
住宅環境。
教育費への不安の軽減。
仕事と子育てを両立できる環境。
そして、「子どもを持つことが社会にとっても喜ばしいことだ」と自然に思える社会の雰囲気。
こうしたものを総合的に整えていく必要があります。
だから少子化対策とは、単に「出生数を増やす政策」ではありません。
次の世代が生まれ、育ち、社会の担い手になっていける環境をつくる政策なのです。

「1億2,000万人」という数字から、少し自由になってみる

日本の人口は、これからしばらく減少していくでしょう。
そのこと自体を、無理に否定する必要はないと思います。
大切なのは、
減少する人口を、どのような人口構造にしていくのか。
ということです。
1億2,000万人を維持することだけを目標にするのではなく、
1億1,000万人になったとしても、
1億人になったとしても、
その人口の中に子どもや若者がきちんと存在し、各世代がある程度バランスしている。
そんな社会を目指す。
もちろん、人口規模が小さくなりすぎれば、別の問題が生じます。
だから「人口は何人でもいい」という話ではありません。
しかし、
「1億2,000万人」という数字そのものを神聖視する必要もない。
私は、そう考えます。

「人口を増やす」から「人口を整える」へ

人口減少時代の日本に必要なのは、
「どうすれば人口を増やせるか」
という問いだけではありません。
むしろ、
「どのような人口構造なら、日本社会を持続可能なものにできるのか」
という問いではないでしょうか。
その意味で、私たちが目指すべきなのは、
「人口1億2,000万人を守ること」ではなく、「持続可能な人口構造を取り戻すこと」
そのために、
つぼ型から釣り鐘型へ。
そして、そのための大切な条件の一つが、
出生数・出生率の回復です。
人口問題というと、私たちはつい「何人いるのか」という数字に目を奪われます。
でも、本当に考えなければならないのは、その数字の中身なのかもしれません。
何人の日本を残すのか。
それだけではなく、
どんな人口構造の日本を、次の世代に残すのか。
その問いから人口問題を考え直してみる。
そこに、少子化対策の本当の意味も見えてくるのではないでしょうか。
人口を「増やす」ことだけを考えるのではなく、次の世代がきちんと生まれ、育ち、社会を引き継いでいける人口のかたちを取り戻す
私は、それこそが人口減少時代の日本が目指すべき、もう一つの「人口政策」なのではないかと思います。

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