SNSなどで、「外国人も日本で税金を払っているのだから、日本人と同じ権利を持つのは当然だ」という意見を目にすることがあります。
一見すると、とても公平な考え方のように聞こえます。
しかし、法律や憲法の考え方は、実は少し違います。
税金は「権利を買うお金」ではない
まず知っておきたいのは、税金は商品やサービスの代金ではないということです。
例えば、映画館の入場料を払えば映画を見ることができます。スポーツジムの会費を払えば施設を利用できます。これらは、お金を払うことで特定のサービスを受ける契約です。
一方、税金はそうではありません。
税金は、道路や橋を整備したり、警察や消防を維持したり、教育や福祉など社会全体を支えるために、法律に基づいて国民や住民が負担するお金です。
つまり、税金は「このサービスを受けたいから払う」というお金ではありません。
だから、「税金を払ったのだから、この権利をもらえる」という関係にはならないのです。
基本的人権は、お金で買うものではない
では、人権はどうでしょうか。
命や身体の安全、裁判を受ける権利、思想・信条の自由、信教の自由など、人間として保障される基本的人権は、納税しているかどうかとは関係ありません。
もし「税金を払った人だけが人権を持てる」という考え方なら、収入のない子どもや学生、生活に困って税金をほとんど納めていない人は、人権が保障されないことになってしまいます。
もちろん、そのような考え方は憲法の理念とは相容れません。
基本的人権は、「税金を払ったから認められる権利」ではなく、「人間だから保障される権利」なのです。
参政権は、別の理由で認められる
では、選挙で投票する権利はどうでしょうか。
これも、「税金を払っているかどうか」で決まるものではありません。
参政権は、その国の政治の担い手、つまり主権者として誰を位置付けるかという問題です。
日本では、国政選挙の選挙権や被選挙権は、日本国民に認められる権利です。
外国人が日本人以上に多額の税金を納めていたとしても、それだけで国政選挙の投票権が与えられるわけではありません。
逆に、日本国民であれば、所得が少なく税金をほとんど納めていない人であっても、選挙権を失うことはありません。
つまり、参政権の根拠は納税ではなく、「その国の主権者として認められているかどうか」なのです。
行政サービスも「税金を払ったから同じ」ではない
「外国人も税金を払っているのだから、日本人と全く同じ行政サービスを受ける権利がある」という意見もあります。
しかし、これも法律上は少し違います。
行政サービスは、会費を払えば同じサービスが受けられるスポーツクラブとは違います。
どの制度を誰が利用できるかは、憲法や法律、条例などによって決められています。
例えば、警察や消防のサービス、道路や公園の利用、義務教育、多くの行政手続などは、日本に住む外国人にも広く利用が認められています。
しかし、それは「税金を払っているから」ではありません。
法律が、その制度を外国人にも適用すると定めているからです。
一方で、国民だけを対象とする制度もあります。
そのような制度は、外国人が日本人と同じように納税していても、当然に利用できるわけではありません。
つまり、行政サービスを受けられるかどうかも、「税金を払ったかどうか」ではなく、「法律が誰を対象としているか」で決まるのです。
「納税なくして代表なし」とは違う話
ここで、「納税なくして代表なし(No taxation without representation)」という有名な言葉を思い出す人もいるかもしれません。
これは、18世紀のアメリカ独立運動で掲げられた政治的スローガンです。
「政治に参加させないのに課税するのはおかしい」という、自国民と政府との関係をめぐる主張でした。
この言葉は、「外国人は税金を払っているのだから、当然に参政権がある」という法原則を意味するものではありません。
歴史的な背景も、現在の外国人の権利の問題とは異なるのです。
大切なのは、「権利の根拠」を考えること
私たちは、つい「税金を払っているのだから」という言葉で、さまざまな権利を一括して考えてしまいがちです。
しかし、法律はもっと丁寧に整理しています。
人間として保障される基本的人権は、「人間だから」保障されます。
参政権は、「その国の主権者として認められているから」保障されます。
行政サービスは、「法律がその人を対象としているから」利用できます。
この三つは、それぞれ根拠が異なります。
税金は社会全体を支えるための重要な負担ですが、それ自体が権利を買う代金ではありません。
だからこそ、「税金を払っているのだから当然だ」という一言だけで結論を出すのではなく、「その権利は何を根拠として認められているのか」という視点から考えることが、憲法や法律を理解する第一歩なのです。

