「外国人に税金を使うな」の前に考えたいこと――「これ以上受け入れるか」と「今いる外国人をどう扱うか」は別問題です

移民 出入国管理

産経新聞によると、自由民主党外国人政策本部は、高市首相に対し、日本語・生活学習プログラムの創設や外国人児童への支援、外国人が多く暮らす自治体への交付金などを提言しました。
これに対し、SNSでは、
「外国人より日本人に税金を使え」
「日本語くらい自分で勉強させろ」
といった批判が数多く投稿されたそうです。
確かに、物価高や社会保障への不安が続く中で、「まず日本人を優先してほしい」という感情が生まれること自体は理解できます。
しかし、この議論には、いくつか異なる論点が混ざっています。

「外国人をこれ以上受け入れるな」と「今いる外国人」は別問題

まず区別して考えたいのは、
「これ以上、外国人を増やすべきではない」
という意見と、
「今、日本で暮らしている外国人への支援は不要だ」
という意見は、同じではないということです。
前者は、将来の外国人受け入れ政策に関する議論です。
一方、後者が対象としている人たちの多くは、すでに日本の法律に基づいて在留資格を取得し、日本で働き、納税し、子どもを育てながら生活しています。

もちろん、多くの在留資格には在留期間が定められているため、在留期間が満了する前に更新の手続が必要です。
しかし、その更新を認めるかどうか、つまり、その人の在留を打ち切って帰国を求めることになるかどうかは、「外国人が増えたから」「世論が変わったから」といった理由だけで自由に決められるものではありません。
出入国管理及び難民認定法(略称「入管法」)は法務大臣に広い裁量権を認めています。しかし、それは「行政が好きなように決めてよい」という意味ではありません。裁判所も、行政の判断が合理性を欠き、裁量権の範囲を逸脱・濫用した場合には違法となることを認めています。
さらに、在留資格の種類や日本での生活状況、家族関係、日本社会への定着の程度などによって、判断のあり方も異なります。
例えば、日本人の配偶者や定住者として生活している人と、一定の就労活動を目的とする在留資格の人とでは、考慮される事情は同じではありません。また、同じ就労資格でも、日本で長年生活している人と、来日してまだ数年の人とでは、日本社会との結び付きは大きく異なります。
つまり、出入国在留管理行政は、以上のような事情を総合的に考慮しながら運用されています。在留期間更新許可は法務大臣の裁量に委ねられていますが、それは「行政が好きなときに、好きな理由で在留を打ち切れる」という意味ではありません。

だからこそ、
「日本に
外国人をこれ以上受け入れるかどうか」
という将来の政策判断と、
「現在、適法に日本で生活している外国人をどう扱うか」
という行政判断は、本来まったく別の問題として考えなければなりません。

社会統合政策とは何か

今回、自民党が提言したのは、「外国人をもっと増やそう」という政策ではありません。
目的は、日本語や日本の生活ルールを学んでもらい、日本社会との摩擦を減らすことです。
例えば、
・ごみの分別
・騒音など近隣とのルール
・税金や社会保険の仕組み
・学校生活での基本的なルール
こうしたことが十分に理解されていなければ、地域住民とのトラブルは増えてしまいます。
つまり、社会統合政策とは、
外国人のためだけではなく、日本社会全体の負担を減らすための政策でもあります

「支援」と「優遇」は同じではない

SNSでは、
「外国人を支援する=外国人を優遇する」
という受け止め方も少なくありません。
しかし、行政の現場では必ずしもそうではありません。
例えば、日本語教育や生活ルールの周知によって、
・自治体への相談が減る
・学校現場の負担が軽くなる
・税や社会保険制度への理解が進む
・地域トラブルが減る
のであれば、その恩恵を受けるのは外国人だけではなく、日本人住民でもあります。
行政の世界では、このような支出を、「将来のより大きな社会的コストを防ぐための投資」と考えることも少なくありません。

財源は「日本人の税金」だけではない

今回の報道でもう一つ見落とされがちなのが、財源です。
政府は、在留資格の変更・
在留期間の更新の手数料や永住許可の手数料を大幅に引き上げる方針を示しています。
その結果、年間数百億円規模の歳入増が見込まれています。
もちろん、これらの手数料収入は一般財源であり、「そのまま社会統合政策に充てられる」と法律で決まっているわけではありません。
しかし、自民党の提言では、外国人本人や受け入れ企業にも相応の負担を求める考え方が示されています。
少なくとも、
「すべて日本人の税金で賄おうとしている」
という単純な話ではありません。

なぜこれほど反発が起きたのか

では、なぜ今回これほど強い反発が起きたのでしょうか。
私は、その背景には30年以上積み重なってきた外国人受け入れ政策への不信感があると思います。
日本では長年、
「日本は移民政策を採っていない」
と説明されてきました。
一方で、現実には在留外国人は増え続け、今では400万人を超えています。
その間、
「なぜ増えているのか」
「どこまで受け入れるのか」
「受け入れた後、社会統合をどう進めるのか」
という説明は、国民に十分伝えられてきたとは言えません。
地域で外国人とのトラブルを経験した人もいるでしょう。
SNSでは短い言葉だけが拡散され、制度の背景まで共有されることはほとんどありません。
その結果、
日本に外国人をこれ以上受け入れるべきか」
という将来の政策論と、
「今、日本で適法に生活している外国人をどう扱うか」
という現在の行政課題が、一つの議論として混ざってしまっているのではないでしょうか。

おわりに

社会統合政策は、「外国人を優遇する政策」でも、「移民を推進する政策」でもありません。
本来は、
受け入れた以上、日本の法律や生活ルールを理解してもらい、日本社会の秩序と安心を守るための政策です。
もちろん、その内容や範囲、財源については、国民の間で十分に議論されるべきでしょう。
しかし、その議論は、
「これからどれだけ外国人を受け入れるか」
という政治の判断と、
「すでに法律に基づいて日本で適法に暮らしている人たちをどう扱うか」
という法治国家としての責任を、分けて考えるところから始める必要があります。

制度を知らないまま感情だけで賛否をぶつけ合っても、建設的な議論にはつながりません。
いま必要なのは、「賛成か反対か」を急ぐことではなく、まず制度と現実を正しく理解することではないでしょうか。

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