「ちゃんとやっている」――では、その中身を見てみよう【第Ⅱ部】政府の「総合的対応策」を国民の目線で検証する

はじめに――「政府は何もしていない」は正確ではありません

第Ⅰ部では、政府が掲げる「秩序ある共生」という言葉を手掛かりに、国民が感じている不安に政府はどう向き合うべきなのかを考えました。
ここで、もう一度はっきりさせておきたいことがあります。
それは、「政府は何もしていない」という批判は正確ではないということです。
政府はすでに、「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を取りまとめ、外国人の受入れ、在留管理、犯罪への対応、不法滞在への対応、日本語や日本のルールの学習、関係機関の連携など、さまざまな施策・対策を打ち出しています。
また、「不法滞在者ゼロ」を理念として掲げる「不法滞在者ゼロプラン」も進めています。
したがって、ここで問いたいのは「政府は何もしていないのではないか」ということではありません。
むしろ、
「政府はどのような政策を掲げ、そのためにどのような施策・対策を講じ、それによって実際にどのような成果を上げているのか」
ということです。
政府が「秩序ある共生」を本気で実現しようとしているのであれば、その政策が具体的な施策・対策となり、それが実際の成果につながっているのかを、国民が確認できるようにすることが重要だと考えるからです。

「外国人犯罪への適切な対応」は、何を意味するのか

政府の総合的対応策には、「外国人犯罪への適切な対応」が盛り込まれています。
そこでは、外国人による犯罪への対策として、捜査・取締りの強化、関係機関の連携、外国の捜査機関との情報交換など、さまざまな取組が示されています。
これは必要な対策です。
日本人であれ外国人であれ、犯罪を犯した場合には、法に基づいて適切に対処されなければなりません。
ここで重要なのは、
「外国人だから犯罪をする」という考え方と、「外国人による犯罪にも適切に対処する」ということは、まったく別の話だ
ということです。
在留外国人の大多数が、法律や社会のルールを守って生活していることを前提としながら、犯罪を犯した者については、国籍にかかわらず適切に捜査・処罰する。
そして、外国人であることを理由に必要以上に疑うこともしなければ、外国人であることを理由に特別に甘く扱うこともしない。
この「法の下の平等」こそが、秩序ある社会の基本です。
だからこそ、犯罪対策についても、
「対策を実施します」
というだけではなく、
どのような犯罪を、どのような方法で、どこまで減らしていくのか。
その成果を国民が確認できることが重要になります。

「日本の法律やルールを学んでもらう」――教育という施策の意味

政府は、外国人に日本の法律や社会のルールを理解してもらうための施策も進めています。
これは非常に重要です。
日本に住む以上、日本の法令を知り、社会生活上の基本的なルールを理解することは、在留外国人にとっても大切なことです。
ごみ出し、交通ルール、騒音、地域社会との関わり方、税や社会保険など、生活に密着したルールを知らなければ、本人に悪意がなくても地域社会との摩擦が生じることがあります。
そのため、来日前・入国後を通じて、日本の法律や生活上のルールを分かりやすく伝えることには大きな意味があります。
ただし、
「教えること」と「守ってもらうこと」は同じではありません。
ルールを知っていても、守らない人はいます。
その場合には、必要に応じて指導・監督を行い、法令違反については法に基づいて適切に対処する。
つまり、
「ルールを理解してもらうための施策」と「ルール違反に対する対策」の両方があって、初めて秩序ある社会が維持される
のではないでしょうか。

通訳・相談体制の充実は必要です。しかし、それだけでは解決しません

外国人が増えれば、行政、医療、教育、警察、司法など、さまざまな場面で言葉の壁が問題になります。
そのため、通訳・相談体制を充実させることも重要な施策です。
言葉が通じないことによって、必要な行政サービスを受けられなかったり、本人の意図しないトラブルが発生したりすることを防ぐ意味があります。
しかし、通訳や相談窓口を整備することだけで、すべての問題が解決するわけではありません。
必要なのは、
問題を未然に防ぐ
日本のルールを理解してもらう
法令違反を適切に取り締まる
在留資格を適正に管理する
問題が繰り返される場合には、その原因を分析する
といった施策・対策を組み合わせることです。
「支援」と「管理・執行」は対立するものではありません。
適切な支援と適切なルール執行を組み合わせることこそ、秩序ある共生には必要です。

「不法滞在者ゼロプラン」は重要な一歩です

政府の取組の中でも、特に注目したいのが「不法滞在者ゼロプラン」です。
これは、不法滞在者ゼロを理念として掲げ、入国段階、在留・難民審査段階、出国・送還段階という、それぞれの段階で対策を強化していこうとするものです。
不法滞在の問題については、以前から、
「なぜ不法滞在状態が長期化するのか」
「退去強制が決まった者を、なぜ速やかに送還できないのか」
といった問題が指摘されてきました。
したがって、入国から在留、そして退去までを一連の流れとして見直そうとすることには意味があります。
また、不法滞在者を減らすことは、単に外国人を厳しく扱うという問題ではありません。
日本の在留制度を、制度として適正に機能させるための問題です。
ルールを守って適法に在留している外国人との公平性という観点からも、重要な問題だと思います。
ただし、ここでも冷静に見ておく必要があります。
「不法滞在者ゼロ」という理念を掲げることと、実際にゼロを実現することは別です。
政府の計画には具体的な中間目標も設定されています。
だからこそ重要なのは、その目標が実際に達成されたのかを、国民が継続的に確認できることです。

「目標を掲げた」だけでは、政策の成果とはいえません

ここが、今回の問題を考えるうえで最も重要なところです。
政府は「秩序ある共生」という政策目標を掲げ、その実現のためにさまざまな施策・対策を打ち出しています。
しかし、
政策を掲げることと、具体的な施策・対策を実施すること、そして社会の問題を実際に改善することは、それぞれ別の段階です。
例えば、
・いつまでに実施するのか
・どの程度まで改善することを目指すのか
・何をもって「達成」とするのか
・実際にどこまで達成したのか
・達成できなかった場合には、何を見直すのか
こうした点が明確になって初めて、政策は「検証できるもの」になります。
政府が「○○を推進する」「○○を強化する」「○○を充実させる」と掲げるだけでは、国民の側には、
「では、実際に何が変わったのですか?」
という疑問が残ります。
だからこそ、政策を掲げることだけでなく、施策・対策を実施した結果まで示すことが重要なのです。

国民が知りたいのは「政策があるか」だけではありません

ここまで見てくると、冒頭で紹介した、
「政府はちゃんとやっている」
という意見にも、一理あることが分かります。
実際、政府は政策を掲げ、その実現のためにさまざまな施策・対策を進めています。
しかし、だからといって、
「政府が対策を打ち出したのだから、国民は安心すべきだ」
ということにはなりません。
国民が知りたいのは、
「政策が存在するかどうか」だけではないからです。
知りたいのは、
その政策や施策・対策によって、私たちの暮らす地域や社会が、本当に良くなっているのか。
ということです。
例えば、ある地域で外国人住民が急速に増え、それに伴って生活上の摩擦が増えているとします。
その場合、
「日本語教育を実施しています」
「相談窓口を設置しています」
という説明だけでは、地域住民の不安が解消されないことがあります。
必要なのは、
「その地域で何が問題になっているのかを把握し、その原因に応じた施策・対策を講じ、その結果を住民に説明すること」
ではないでしょうか。
外国人の在留状況や地域社会への影響には地域差があります。
だからこそ、全国一律の施策だけでなく、地方自治体、警察、教育機関、医療機関、地域社会などとの連携も重要になります。

「不安」を数字と事実で検証できるようにする

国民の不安に向き合うためには、「不安を感じないでください」と呼びかけるだけでは不十分です。
むしろ政府には、
不安の原因をできるだけ客観的な数字と事実によって把握し、その変化を国民に示すこと
が求められると思います。
例えば、
・外国人による犯罪の発生状況
・不法滞在者数
・不法就労の状況
・退去強制・送還の状況
・税・社会保険料の未納などの状況
・医療制度などの不適切利用の実態
・地域社会で発生している生活上のトラブル
・日本語教育や生活ルール教育の実施状況
・自治体などから寄せられる相談・苦情の状況
などです。
もちろん、これらを単純に「外国人だから」という理由で一括りにすることには慎重でなければなりません。
しかし、問題が存在するのであれば、それを「偏見」として片付けるのでもなく、逆に必要以上に煽るのでもなく、事実として把握し、必要な施策・対策を講じることが大切です。
そして、その結果を国民に説明する。
これこそが、責任ある行政の基本ではないでしょうか。

「秩序ある共生」には、検証可能性が必要です

ここまで政府の施策や対策を見てきて、私が特に強調したいのは、
「政策があるか」から「その政策を具体化した施策・対策が、どの程度機能しているか」へ、議論の段階を進める必要がある
ということです。
政府が「秩序ある共生」を掲げるのであれば、国民がその進捗を確認できなければなりません。
そのためには、少なくとも、
① 何を目指すのか
② いつまでに実現するのか
③ 何を指標として評価するのか
④ 実際にどこまで達成したのか
⑤ 達成できなかった場合、何を見直すのか
という五つの点を、できるだけ明確にしていくことが必要だと思います。
これは、政府を困らせるための注文ではありません。
むしろ、「秩序ある共生」という政策目標を国民の信頼につなげるために必要なことです。
国民が、
「政府は、この問題をこう認識している。
こういう政策目標を立てている。
そのためにこういう施策・対策を実施している。
そして、ここまで改善した」
と確認できれば、政策に対する信頼も生まれます。
逆に、施策・対策がいくら並べられていても、その成果が分からなければ、
「結局、何が変わったのか」
という疑問が残ってしまいます。

「ちゃんとやっている」からこそ、次に求めたいこと

私は、政府が現在進めている政策のすべてを否定するつもりはありません。
むしろ、ここまで見てきたように、評価できる施策・対策もあります。
不法滞在対策の強化も、日本の法律や生活上のルールを外国人に理解してもらう施策も、犯罪への対策も、通訳・相談体制の充実も、それぞれ必要なものです。
しかし、
「必要な施策・対策を実施している」ことと、「国民が安心できる社会が実現している」ことは同じではありません。
だからこそ、政府に求めたいのは、
「ちゃんとやっています」
という説明だけではなく、
「これだけの問題があり、これだけの政策目標を立て、この施策・対策を実施した結果、ここまで改善しました」
という説明
です。
これは、外国人を排除するための議論ではありません。
外国人を一律に疑うための議論でもありません。
むしろ、法令を守って日本で暮らしている多くの外国人にとっても、重要な議論です。
ルールを守る人と守らない人を同じように扱わない。
適法に暮らす外国人と、不法滞在・不法就労などの問題を抱える者を混同しない。
そして、日本人も外国人も、共通するルールの下で安心して生活できる社会をつくる。
そのためにこそ、
政府には、政策を掲げるだけでなく、その政策を具体化した施策・対策を着実に実施し、その成果を国民に示すことが求められているのです。

第Ⅱ部のまとめ――「政策がある」から「成果が見える」へ

ここまで見てきたように、政府は「秩序ある共生」に向けて、決して何もしていないわけではありません。
政府は政策目標を掲げ、その実現のためにさまざまな施策・対策を進めています。
しかし、だからといって、そこで議論を終わらせてよいわけでもありません。
むしろ政府が「秩序ある共生」を重要な政策目標として掲げた今だからこそ、
「その秩序とは何なのか」
「何をもって共生が実現したと判断するのか」
「国民が感じている不安の原因は、実際にどこまで改善されたのか」
を、具体的に検証していく必要があります。
私は、外国人の受入れそのものに反対しているわけではありません。
必要な分野で外国人の力を借りることも、日本社会にとって意味のあることだと思います。
ただし、そのためには、受入れの拡大だけを先に進めるのではなく、
「受け入れた後、どのような日本社会をつくるのか」
を同時に考えなければなりません。
そのとき重要になるのが、私は「多文化共生」という言葉よりも、
「外国人の日本社会への秩序ある参加」
という考え方
だと思っています。
では、それは具体的にどのような社会を意味するのでしょうか。
次の第Ⅲ部では、ここまでの議論を踏まえて、私なりに「秩序ある共生」を実現するための基本的な考え方と、政府に求めたい具体的な政策のあり方について、もう一歩踏み込んで考えてみたいと思います。

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