はじめに――人口減少を、労働力不足だけで考えていないか
日本の人口減少が進むなか、外国人労働者の受入れをめぐる議論が活発になっています。
人手不足をどう補うのか。外国人材をどの分野で、どれだけ受け入れるのか。受入れに伴う社会的な課題にどう対応するのか。いずれも避けて通ることのできない問題です。
しかし、私は、こうした議論に入る前に、もう一段広い視点から考えておくべきことがあると思っています。
それは、人口が減少していく日本社会において、何を維持し、何を変え、どのような社会を次の世代に引き継いでいくのかという問題です。
人口減少は、単に働き手が減るということではありません。
人間は働き手であると同時に、商品やサービスを購入する消費者であり、地域に暮らす生活者であり、道路や上下水道、公共交通、医療・福祉などの社会基盤を利用する人でもあります。
人口が減れば、労働力の供給だけでなく、消費市場の規模や構成、地域の居住者、公共サービスやインフラの利用者にも変化が生じます。
この問題を見落としたまま、外国人労働者の受入れによって人手不足を補うことだけを考えても、人口減少社会が抱える問題の全体像は見えてきません。
人口減少の影響は、供給側だけでなく需要側にも及ぶ
人口減少による影響として、まず注目されるのは労働力人口の減少です。
働き手が減れば、企業は必要な人材を確保しにくくなります。介護、建設、物流、農業、宿泊・飲食など、さまざまな分野で人手不足が問題になっています。
こうした状況を受けて、外国人労働者の受入れ拡大が一つの対応策として進められてきました。
しかし、人口減少の影響は、働き手の減少だけにとどまりません。
人が減れば、商品やサービスを購入する人も減る方向に作用します。地域に暮らす人が減れば、商店、飲食店、公共交通などの利用者にも変化が生じます。学校、病院、介護施設などについても、利用者やそれらを支える地域の担い手の構成が変わっていきます。
もちろん、人口が1割減れば消費需要も一律に1割減る、という単純な関係ではありません。所得水準、年齢構成、世帯構成、消費行動、地域の産業構造などによって影響は異なります。高齢者向けサービスのように、人口が減少するなかでも需要が増える分野もあります。
それでも、人口減少は、労働力の供給だけでなく、消費市場の規模や構成、地域の生活サービスに対する需要にも影響を及ぼします。人口の減少率と需要の縮小率がそのまま一致するわけではありませんが、人口構造や地域の人口分布が変化すれば、産業や地域経済のあり方にも変化が生じます。この需要側の変化を見落としてはならないと思います。
ここで重要なのは、人間は単なる労働力ではないということです。
外国人労働者を受け入れれば、働き手が増えるだけではありません。その人たちも商品やサービスを購入し、住居を必要とし、交通機関や公共サービスを利用する生活者です。
したがって、外国人の受入れによって生じる効果を考える際にも、労働力の増加だけでなく、消費需要や地域社会への影響、行政サービスや生活基盤への需要などを併せて考える必要があります。
外国人の受入れは、労働力不足への対応であると同時に、受け入れた人々が暮らす社会をどのように維持するのかという問題でもあるのです。
人口が減っても、社会の維持費は同じようには減らない
人口減少を考えるうえで、もう一つ見落とされがちな問題があります。
それは、これまでの人口規模を前提に整備されてきた社会基盤を、今後どのように維持していくのかという問題です。
道路、橋梁、上下水道、公共交通、学校、病院などは、人口が減ったからといって、すぐに不要になるわけではありません。
利用者が減少しても、施設や設備の点検、修繕、更新には一定の費用がかかります。人口が減れば税収や利用料収入が減る可能性がある一方で、施設や設備の維持管理費が同じ割合で減るとは限りません。
特に、上下水道や道路などの社会基盤は、利用者数が減ったからといって、設備の維持管理に必要な費用が同じ割合で減るわけではありません。一定のネットワークや施設を維持するための費用が残る一方、利用者や料金収入が減少すれば、住民一人当たりの負担は重くなりかねません。
さらに、こうした問題の背景には、人口減少だけでなく、高度経済成長期などに整備された施設の老朽化、更新時期の集中、維持管理を担う技術者の不足、資材価格の上昇などもあります。人口減少は、こうした既存の課題を一層深刻にする要因の一つと考えるべきでしょう。
特に、人口が広い地域に分散している地方では、少ない住民のために道路や上下水道などの生活基盤を維持し続けなければならないという問題が生じます。
これは、単純に行政の努力や予算の配分だけで解決できる問題ではありません。
例えば、利用者が減少した地域の公共交通をどう維持するのか。学校や医療機関などの施設をどのように配置するのか。上下水道などの設備を、どの範囲で、どの水準で維持するのか。
こうした問題は、人口構造や地域の将来像と一体で考えなければなりません。
もちろん、人口が減ったからといって、地方の生活基盤を機械的に縮小すればよいという話ではありません。住民の生活、地域の歴史、地理的条件、災害への備えなどを考慮する必要があります。
しかし、人口が減少していくにもかかわらず、これまでと同じ施設配置やサービス水準を全国一律に維持しようとすれば、いずれ財政的にも人的にも無理が生じるでしょう。
大切なのは、何もかも現状のまま維持することではありません。
維持すべきものと、時代に合わせて再編すべきものを見極めることです。
AIやロボットで補えるものと、補えないもの
人口減少への対応策として、AIやロボット、デジタル技術の活用が期待されています。
私も、これらの技術を積極的に活用することには賛成です。
人手不足が深刻な分野では、自動化や省力化によって、少ない人員で従来のサービスを維持できる可能性があります。事務作業の効率化、物流の自動化、介護現場の負担軽減、遠隔医療やオンライン行政サービスなど、技術によって改善できる領域は少なくありません。
むしろ、人口減少社会では、技術革新によって、従来と同じ人数の働き手を確保しなくても、必要な生産やサービスを維持できる仕組みをつくることが重要になります。人手不足を埋めることだけを考えるのではなく、そもそも必要な労働力を減らす方向へ、産業や行政サービスの仕組みを変えていくという発想です。
ただし、技術の進歩によって人口減少の問題そのものが解消されるわけではありません。
AIやロボットは、一定の労働力を代替したり、仕事の生産性を高めたりすることはできます。しかし、それらが商品やサービスを購入する消費者になったり、地域に暮らす住民になったり、学校や病院、公共交通の利用者になったりするわけではありません。
つまり、技術によって補えるのは、主として労働力や業務遂行の一部です。人口減少によって生じる需要の変化や地域の居住者の減少まで、同じように補えるわけではないのです。
また、技術を導入すれば必ず費用が下がるとも限りません。導入費用、設備更新、保守管理、電力や通信環境、人材育成など、新たな負担も生じます。
したがって、AIやロボットを導入するかどうかは、単に人手不足を補えるかという観点だけでなく、地域の規模や需要、費用対効果、将来の維持可能性を踏まえて判断する必要があります。
技術は人口減少社会を支える重要な手段ですが、それ自体が国家や地域の将来設計に代わるものではありません。
外国人受入れは、人口減少社会の将来設計の中に位置付ける
ここまで述べてきたことを踏まえると、外国人受入れの問題も、これまでとは少し違った角度から考える必要があります。
外国人労働者の受入れをめぐる議論では、しばしば「人手不足を解消するために、どれだけの外国人が必要か」という問いが先に立ちます。
しかし、本来はその前に、次のような問いを検討すべきではないでしょうか。
その分野の人手不足は、国内の労働力活用や待遇改善、業務の効率化によって、どこまで対応できるのか。
企業の経営や産業構造を見直すことで、従来の人員配置や事業のあり方を変えられないのか。
その仕事やサービスは、将来の人口規模や需要を考えても、現在と同じ形で維持する必要があるのか。
外国人を受け入れる場合、住宅、教育、医療、交通、行政サービスなど、地域の生活基盤は対応できるのか。
受入れ後の日本社会への参加を支える制度や仕組みを、国と地方自治体がどのように整えるのか。
こうした検討を踏まえ、国内改革を進めながら、それでも必要と判断される分野について、適切な規模と条件で外国人を受け入れることが重要だと考えます。
大切なのは、外国人受入れを国内改革の代替にするのではなく、国内改革と適正な受入れを組み合わせて進めることです。
私は、外国人受入れを全面的に否定する立場ではありません。必要な分野では、外国人の能力や意欲を生かすことは、日本社会にとって有益な選択肢になり得ます。
ただし、外国人の受入れを、国内の構造改革を先送りするための手段にしてはなりません。
企業が人手不足を理由に従来の経営や雇用のあり方を変えず、外国人労働者の受入れによってそれを補い続けるならば、生産性の向上や産業構造の転換が遅れるおそれがあります。
もちろん、外国人の受入れは、地域の負担を増やすだけのものではありません。外国人も、働き、消費し、納税し、地域社会を支える担い手になり得ます。
重要なのは、受入れによって得られる効果と、住宅や公共サービスなどに生じる需要・負担の双方を見極め、地域社会全体にとって持続可能な受入れのあり方を考えることです。
また、外国人を受け入れた地域では、その人たちも生活者として社会に参加します。受入れ人数だけを決めて、住宅や教育、医療、交通、地域の行政サービスなどを後から整えるという発想では、地域の需要や行政の対応能力を十分に考慮できません。
外国人の受入れは、労働力の確保だけでなく、地域社会の将来像と一体で考えるべき政策なのです。
人口減少社会では、維持することと変えることを同時に考える
人口減少社会の将来を考えるとき、私は、次の五つの視点が必要だと考えています。
第一に、人口構造の将来設計です。
少子化の進行を当然の前提として受け入れるのではなく、子どもを産み育てやすい社会をつくるための政策を継続する必要があります。同時に、人口構成や地域別の人口分布がどのように変化するのかを見通し、将来の社会の姿を考えなければなりません。
第二に、産業・雇用構造の改革です。
人手不足を外国人労働者の受入れだけで補うのではなく、賃金や労働環境の改善、女性や高齢者を含む国内人材の活用、業務の効率化、AI・ロボットの導入、生産性の向上などを組み合わせる必要があります。企業や産業のあり方そのものを見直すことも避けて通れません。
第三に、都市機能と社会基盤の再編です。
人口が減少する地域で、道路、上下水道、公共交通、医療、教育などをどのように維持するのか。すべてを従来どおり維持するのではなく、地域の実情に応じた施設配置やサービス提供のあり方を検討する必要があります。単なる縮小ではなく、限られた人材や財源で必要な機能を維持するための再設計が求められます。
第四に、外国人の適正な受入れです。
国内改革を進めてもなお必要な分野について、受入れの必要性、規模、対象、条件を国が判断する必要があります。企業の個別の人手不足への対応だけでなく、地域の受入れ能力や社会全体への影響を考慮した制度設計が求められます。
第五に、社会統合と政策評価です。
外国人を受け入れるのであれば、日本社会の法秩序と基本的な社会のルールを前提として、外国人が日本社会に秩序ある形で参加できる環境を整える必要があります。そのためには、国と地方自治体の役割を明確にし、必要な制度や施策を整備するとともに、実施後の効果や地域社会への影響を検証し、必要に応じて見直していくことが重要です。
これらは、互いに独立した政策ではありません。人口構造、産業、地域の生活基盤、外国人受入れ、社会統合を一体として考えることが重要です。
「人口を維持する」ことと「社会を維持する」ことは同じではない
ここで、もう一つ考えておきたいことがあります。
それは、人口減少社会において、何をもって「日本を維持する」と考えるのかという問題です。
人口が減少すること自体は、望ましいことではありません。少子化の改善に向けた努力は、今後も続けるべきです。
しかし、人口の絶対数を維持することだけを国家目標にしてしまうと、そのために何を行い、どのような社会的負担が生じるのかという検討が後回しになりかねません。
仮に、外国人の受入れによって人口規模を一定程度維持できたとしても、それだけで地域の生活基盤や社会保障制度、産業構造が持続可能になるわけではありません。
反対に、人口が減少しても、産業や行政サービスの仕組みを見直し、地域の生活基盤を適切に再編し、必要な機能を維持できるならば、人口規模が小さくなった社会でも、一定の生活水準と社会の安定を保つことは可能でしょう。
もちろん、人口が減ることによる経済規模や国際的な影響など、無視できない問題はあります。人口が減っても構わないという意味ではありません。
大切なのは、人口の数だけを追いかけるのではなく、どのような人口構造のもとで、どのような社会を維持するのかを考えることです。
人口を維持するために社会の仕組みを変えるのか。それとも、人口構造の変化を見据えて社会の仕組みを再構築するのか。
実際には、この二つを対立させる必要はありません。少子化の改善に取り組みながら、人口減少が進んでも社会を維持できる仕組みを整える。その両方を進めることが現実的な国家戦略だと思います。
おわりに――外国人受入れの前に、国家としての将来設計を
外国人を受け入れるべきか、受け入れるべきでないか。
この問いは重要ですが、それだけでは人口減少社会の将来を考えることはできません。
人手不足をどう補うのかという供給側の問題だけでなく、消費需要や地域の居住者がどう変化するのかという需要側の問題。そして、人口が減っても必要となる社会基盤を、どのように維持し、再編していくのかという問題。
これらを一体として考える必要があります。
これまで私は、外国人受入れを国内改革の代替にするのではなく、国内改革を進めたうえで、なお必要な部分を補う「外国人補完型」の考え方を提唱してきました。
今回、改めて考えたいのは、その「補完」の対象を、労働力だけに限定してはならないということです。
外国人受入れを検討する際には、受入れによって維持できる産業やサービスがある一方で、住宅、教育、医療、交通、上下水道など、地域の生活基盤にどのような影響が生じるのかも考えなければなりません。
そして、そもそも人口減少社会において、何を維持し、何を変え、何を次の世代に引き継いでいくのか。その国家としての将来設計がなければ、外国人受入れの適正な規模や条件も判断できないはずです。
人口減少を前にして、現状を維持するために何を付け足すかだけを考えるのではなく、限られた人材、財源、社会基盤をどのように組み合わせ、次の世代に引き継ぐべき社会をつくるのか。そこにこそ、国家としての政策判断が問われているのだと思います。
外国人受入れは、国家の将来設計の出発点ではありません。その設計の中に位置付けられる、一つの政策手段です。
外国人を何人受け入れるかを考える前に、私たちは、どのような日本社会を維持し、どのような日本社会へと変えていくのかを考えなければならないのではないでしょうか。
