外国人労働者の受入れを企業任せにしてよいのか【後編(の後半)】「日本版・外国人雇用ルール」の提案――外国人の「質」と「量」を国家として管理する

移民 出入国管理
令和7年末現在における在留外国人数について 出入国在留管理庁

13 在留資格「特定技能」は「新たな上限規制」ではなく、「既存制度の検証」を強化する

ここで、在留資格「特定技能」についてもう一度整理します。
「特定技能」は、そもそも、
生産性向上や国内人材確保のための取組を行った上で、なお人材確保が困難な特定産業分野
を対象とする制度です。
また、分野ごとに受入れ見込数が設定されています。現在、「特定技能1号」については、2024年4月から2029年3月までの5年間で82万人という受入れ見込数が設定されています。
したがって、「特定技能」については、
「外国人労働者の量を国家が管理する制度が存在しない」
とは言えません。
むしろ問題は、
その「特定産業分野」の指定や受入れ見込数が、現実の労働市場の変化に応じて適切に見直されているか
という点です。
そこで私は、
特定産業分野の指定と受入れ見込数について、定期的な検証を法律・制度上明確に位置づける
ことを提案します。
例えば、
・本当に人手不足なのか
・国内人材の確保は進んだか
・賃金・処遇は改善したか
・生産性は向上したか
・省人化・自動化は進んだか
・外国人への依存度は高まっていないか
・地域社会への負担は許容範囲内か
を検証する。
そして必要であれば、
受入れ上限を引き下げる、維持する、あるいは引き上げる
という柔軟な調整を行う
のです。

14 在留資格「育成就労」についても「受入れありき」にしない

2027年4月1日から施行される育成就労制度についても、同じ考え方が必要です。
この新制度は、技能実習制度を発展的に解消し、人材育成と人材確保を目的とする制度として創設された制度です。そして、在留資格「育成就労」についても、分野ごとの受入れ見込数、すなわち受入れ上限数を設定する仕組みが予定されています。
したがって、「育成就労」についても、
「外国人を受け入れる制度を作ったから、受け入れる」
という発想にしてはいけません。
制度の目的に沿って、
「日本社会にとって、その分野でどの程度の人材育成・人材確保が必要なのか」
を不断に検証する
必要があります。

15 「受入れ上限」は一度決めたら終わりではない

外国人受入れ人数の上限を設けることに対して、
「経済状況が変わったら対応できないのではないか」
という批判もあるでしょう。
だからこそ、上限は固定的な数字ではなく、
「決定 → 実施 → 検証 → 修正」
という循環型の制度にする
べきです。
例えば5年程度を一つの区切りとして、
・人手不足の状況
・国内人材の供給
・賃金
・生産性
・外国人依存度
・地域社会への影響
を総合的に検証する。
そして、
 必要なら増やす。
 必要なら維持する。
 必要なら減らす。
という制度にするのです。
これなら、「外国人受入れ反対」という固定的な制度にもならず、「人手不足だから受け入れ続ける」という自動運転にもなりません。

16 新制度を導入するなら、既存の在留者と新規入国者を区別して段階的に適用する

ここは、今回の制度改革を実際に導入する際に、特に慎重な設計が必要となる部分です。
新たに企業ごとの外国人雇用比率や、外国人採用に先立つ国内人材確保努力の確認制度を導入するとしても、それを施行時点で日本に適法に在留している外国人に、そのまま遡及的に適用することは適切ではありません。
もっとも、これは単に、
「経過措置を設けましょう」
という一般論を述べているのではありません。
重要なのは、
「誰に、いつから、どのように新しいルールを適用するのか」
をあらかじめ明確にしておく
ことです。
私なら、少なくとも次のような段階的な制度設計を提案します。
① 新規入国者には、原則として新制度を適用する
新制度の施行日以後に、新たに「技術・人文知識・国際業務」の在留資格によって入国しようとする外国人については、原則として新しい受入れルールの対象とします。
つまり、これから新しく外国人を受け入れる場合には、
「新しいルールを知った上で、そのルールに従って受け入れる」
という明確な線引きをします。
② 施行時点ですでに適法に在留している外国人については、現在の在留を直ちに否定しない
一方、新制度の施行時点ですでに適法に日本に在留し、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもって就労している外国人については、新たな企業別雇用比率を理由として、直ちに在留資格を失わせたり、現在の在留を否定したりすることは避けるべきです。
これは「外国人だから特別扱いをする」ということではありません。
すでに適法な制度の下で入国・在留している者について、後から制度を変更したことだけを理由として、直ちに従前の法的地位を否定することには慎重であるべきだという、法制度の安定性の問題です。
③ ただし、既存企業についても「永久に旧制度のまま」とはしない
ここが重要です。
既存の在留者を保護することと、既存企業をいつまでも新制度の対象外にすることは別問題です。
例えば、新制度施行時点で、ある企業が外国人従業員を全従業員の30%雇用しており、新制度では原則として20%を上限とすることになったとします。
この企業について、
「既存の外国人従業員がいるから、今後も30%のままでよい」
としてしまえば、新制度そのものが形骸化します。
そこで、
施行時点の外国人雇用比率を直ちに違法とはせず、一定の移行期間を設け、その間に段階的に新しい基準へ近づける
という方法が考えられます。
例えば、
施行時30% → 第1段階25% → 第2段階22% → 最終的に20%
というように、一定期間をかけて新しい基準へ移行させるのです。
もちろん、具体的な期間や数値は、業種・企業規模等を踏まえて立法時に検討する必要があります。
④ 既存在留者の「転職」については、過度な制約を設けない
さらに難しいのが転職です。
既存の外国人が、現在の勤務先を離れて別の企業に転職する場合、新制度をどこまで適用するのかという問題があります。
ここで、新制度を理由として既存在留者の転職を過度に制限すれば、外国人本人の就業の自由を不当に制約するおそれがあります。
したがって、
既存の適法な在留者については、一定の要件を満たす限り、転職によって直ちに新規入国者と同じ扱いにするのではなく、在留の継続性に配慮した経過措置を設ける
ことが適切でしょう。
その一方で、転職先企業については、新制度の企業別外国人雇用比率等の対象とするなど、
「外国人本人の在留の安定」と「新制度による企業側の受入れ管理」を切り分ける
ことが重要です。
⑤ 在留期間更新時には、段階的に新制度との整合性を図る
さらに、経過措置を一度設けたら、それを永久に続けるのではなく、
在留期間の更新等を一つの節目として、段階的に新制度との整合性を図る
という方法も考えられます。
ただし、既存在留者の在留期間更新を、新制度導入後の企業別雇用比率だけを理由として一律に拒否するような仕組みにするのは適切ではありません。
既存在留者の在留状況、雇用関係、法令遵守状況などを踏まえつつ、十分な移行期間を設ける必要があります。
このように考えると、今回提案する経過措置の基本原則は、次の四つに整理できます。
「新規入国者には新ルールを原則適用する。」
「既存の適法な在留者については、突然その在留を否定しない。」
「既存企業については、一定の移行期間を設けて新しい雇用比率等へ段階的に移行させる。」
「在留者の転職・在留更新については、在留の安定性にも配慮しながら、企業側の新制度への適応を段階的に進める。」

私は、このような経過措置こそが、今回の制度改革を現実の法制度として導入するために必要だと考えます。
新しいルールを作ることと、すでに適法に形成されている在留関係を突然否定することは、別の問題です。
新しい制度を実効性あるものにするためにも、同時に、法制度への信頼を損なわないためにも、
「新しいルールは明確に示す。しかし、その適用は一律・突然ではなく、対象者と企業の置かれた状況に応じて段階的に行う。」
という考え方が重要なのです。

17 「外国人雇用比率」の規制にも、法的な歯止めを設ける

企業ごとの外国人雇用比率を規制する場合にも、当然ながら法的な限界があります。
企業には営業・職業選択等に関わる自由があり、外国人の採用についても、企業の経済活動を一定程度制約する制度となるからです。
だからこそ、
なぜ規制するのか
という立法目的を明確にしなければなりません。
例えば、
・国内人材の雇用機会の確保
・労働条件の維持・改善
・外国人労働者への過度な依存の防止
・地域社会への急激な負荷の防止
・適正な在留管理の確保
などです。
その上で、
目的を達成するために必要かつ合理的な範囲で規制する
ことが必要になります。
一律に過大な制限を設けるのではなく、
規制目的、必要性、相当性を説明できる制度
にする
ことが重要です。

18 行政裁量を広げるのではなく、「ルール」を明確にする

ここまで読んで、
「結局、入管当局が企業を細かく審査する制度になるのではないか」
と感じる方もいるでしょう。
その懸念はもっともです。
だからこそ、私が提案しているのは、
行政の裁量を無制限に広げることではありません。
むしろ逆です。
現在「企業任せ」になっている部分を、法律によって一定のルールとして明確化する。
その上で、
・審査基準
・上限
・例外
・認定要件
・更新要件
・不服申立て
・経過措置
をできるだけ明確にする。
つまり、
「企業任せ」から「行政任せ」に変えるのではなく、「企業任せ」から「法律に基づく国家的ルール」に変える
のです。
ここは、今回の提案の核心です。

19 目指すべきは「外国人排除」ではなく「日本版ルール主義」

ここまでの提案を整理すると、私が目指しているのは、
外国人を排除する制度ではありません。
また、
外国人を日本人より下位に置く制度でもありません。
目指しているのは、
外国人を受け入れる場合の条件を、日本社会としてあらかじめ明確なルールとして定めること
です。
そのルールの柱は、
「質」
どのような人材を受け入れるのか。
「量」
どの程度受け入れるのか。
「分野」
どの産業・職種で受け入れるのか。
「企業責任」
企業は何をしなければならないのか。
「国内人材」
国内人材の確保・処遇改善をどう位置づけるのか。
「社会的責任」
地域社会や行政への影響をどう考えるのか。
「検証」
受入れ後に政策をどう評価し、修正するのか。
という七つです。

20 外国人労働者は「代替」ではなく「補完」として位置づける

私は、外国人労働者を日本人労働者の「代替」として捉えるべきではないと考えます。
外国人を受け入れることで、
「日本人の賃金を上げなくても人材を確保できる」
という構造が生まれてしまえば、企業が本来行うべき、
・賃金改善
・労働環境改善
・人材育成
・生産性向上
・自動化・省人化
が遅れる可能性があります。
したがって、
外国人労働者は、国内人材への投資を代替する存在ではなく、それでもなお不足する部分を補完する存在として位置づける。
この原則を、外国人政策の中に明確に組み込むべきです。

21 「外国人依存型」の経済から「外国人補完型」の経済へ

日本が目指すべきなのは、
 外国人がいなければ維持できない経済
ではありません。
まず、
 少子化対策
 国内人材の活用
 賃金・処遇改善
 女性・高齢者等の就業促進
 職業訓練
 生産性向上
 AI・自動化・省人化
に取り組む。
その上で、
それでもなお日本社会に必要な人材について、外国人の力を借りる。
この順序です。
つまり、
「外国人が日本経済を支える」のではなく、「強い日本経済を外国人が補完する」
という関係を目指すべきです。

22 「受入れの停止」ではなく「受入れの統治」

ここまでの提案を一言で表現するなら、
「受入れの停止」ではなく「受入れの統治」
です。
外国人を受け入れるか、受け入れないかという二択だけで議論するのではありません。
国家として、
 誰を受け入れるのか。
 どの程度受け入れるのか。
 どの分野で受け入れるのか。
 どの企業に受け入れを認めるのか。
 企業に何を求めるのか。
 受入れによって生じた影響をどう検証するのか。
を決めるのです。
これは、外国人を排除する考え方ではありません。
むしろ、
外国人を受け入れるからこそ、受入れについて国家が責任を持つ
という考え方です。

おわりに――「企業が必要だから」から「日本国が必要と判断したから」へ

外国人労働者を受け入れること自体を、私は否定しません。
日本社会にとって必要な人材を外国から受け入れることには、合理的な理由があります。
問題は、
「誰が、その必要性を判断するのか」
です。
企業は、
「自社にとって必要か」
を判断します。
しかし国家は、
「日本社会全体にとって必要か」
を判断しなければなりません。
この二つは同じではありません。
企業にとって人手不足が深刻であっても、それだけで国家として外国人を受け入れることが必要だとは限りません。
逆に、国内では確保が困難な高度な専門人材について、外国人を受け入れることが日本社会にとって大きな利益となる場合もあります。
だからこそ、
企業の採用判断を国家の政策判断に置き換えるのではなく、企業の採用判断の上に、国家としてのルールを重ねる。
これが必要なのです。
私は、そのために、
① 外国人の受入れを国家政策として明確に位置づける。
② 「質」だけでなく「量」についても国家として管理する。
③ 特に在留資格「技術・人文知識・国際業務」について、中長期的な受入れ規模を検証・調整する。
④ 一定の場合には企業ごとの外国人雇用比率について上限を設けることを検討する。
⑤ 外国人を採用する企業に、国内人材確保・処遇改善・生産性向上等の取組を求める。
⑥ その認定基準を客観化し、行政の恣意的な裁量を防ぐ。
⑦ 在留資格「特定技能」については、既存の受入れ上限制度を前提として、「特定産業分野」の指定と受入れ見込数を定期的に検証する。
⑧ 在留資格「育成就労」についても、制度趣旨に沿った受入れとなっているかを不断に検証する。
⑨ 新たな規制を既存の在留者に安易に遡及させず、適切な経過措置を設ける。
⑩ 受入れ政策を「決めて終わり」にせず、「決定→実施→検証→修正」という循環型の制度にする。
という制度改革
を提案します。
これは「外国人を受け入れるな」という提案ではありません。
むしろ、
「外国人を受け入れるのであれば、責任を持って受け入れよう」
という提案です。
外国人の受入れは、企業の採用活動だけで完結する問題ではありません。
一人の外国人が日本に来れば、その人は企業だけでなく、日本の法律の下で生活し、地域社会の中で暮らし、場合によっては家族を形成し、長期間日本に定着していくことになります。
だからこそ、
「企業が必要としているから受け入れる」
だけでは足りないのです。
問われるべきなのは、
「日本社会として、なぜ受け入れるのか。」
「誰を、どの程度、どのような条件で受け入れるのか。」
「受け入れた結果、どのような社会的影響が生じるのか。」
「その結果について、誰が責任を負うのか。」
というところまで含めた制度設計です。
そして、その制度設計を決定するのは、個々の企業ではありません。
主権者である国民の意思を民主的な手続きを通じて反映させた国家の意思と責任によって、日本が外国人をどのように受け入れるのかを決定する。
私は、それがこれからの日本に必要な外国人政策の基本姿勢だと考えます。
「外国人を受け入れる国」から、
「国家として責任を持って外国人を受け入れる国」へ。
そして、
「人手不足だから外国人を入れる」のではなく、「日本社会にとって必要であると判断したから、明確なルールの下で外国人を受け入れる」へ。
これこそが、これからの日本の外国人政策が目指すべき方向ではないでしょうか。

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