なぜ今、あらためて日本の外国人受入れ政策を論じるのか【第18部】研修制度から技能実習制度へ①――「制度の運用」で対応した時代

移民 出入国管理

はじめに

前回、第17部では、制度設計・制度運用・制度評価という三つの視点から、日本の外国人受入れ政策をどのように捉えるべきかを整理しました。
制度は、一度設計すれば終わりではありません。
社会の変化に応じて制度運用を見直し、それでも対応できなくなれば制度そのものを改める――。
日本の外国人受入れ政策は、その繰り返しの歴史でもありました。
今回から取り上げる「研修制度」「技能実習制度」「育成就労制度」の変遷は、そのことを最もよく示している事例です。
まず今回は、在留資格「研修」の制度と、その限界に対して行政運営によって対応した時代を振り返ります。

在留資格「研修」とは何だったのか

平成元年(1989年)の入管法改正によって、在留資格は現在の別表方式へと全面的に整理されました。
その中で新たに位置付けられた活動資格の一つが「研修」です。
もっとも、「研修」という制度そのものは、この法改正によって初めて生まれたわけではありません。
それ以前から、旧入管法及びその関係法令に基づき、外国人が日本で研修を受けるための在留は認められていました。
平成元年改正では、在留資格制度全体が法律本文から別表方式へ整理・再構成される中で、「研修」という在留資格が、より明確な形で位置付けられたのです。
ここで重要なのは、「研修」は就労資格ではなく、非就労資格であったという点です。
つまり、「研修」の目的は、日本で働くことではありません。
日本の企業や団体で行われる研修を通じて、
・技術
・技能
・知識
を修得することが制度目的でした。
ここでいう「修得」とは、単に知識として学ぶことではなく、実際に身に付けることを意味しています。
入管法上、実務研修とは、
「商品を生産し若しくは販売する業務又は対価を得て役務の提供を行う業務に従事することにより技術、技能又は知識を修得する活動」
と整理されていました。
したがって、実務研修も制度の中に含まれていました。
しかし、それでもなお、「研修」は就労ではありません。
この点は、後の技能実習制度との違いを理解するうえで極めて重要です。

実務研修でも「労働者」ではなかった

実務研修では、実際に企業の現場で作業を行うことがあります。
しかし、それはあくまで「修得」のためです。
企業へ労働力を提供することが目的ではありません。
そのため、研修生は企業との雇用契約を結ぶことはなく、労働者として賃金(報酬)を受け取ることも認められていませんでした。
認められていたのは、
・渡航費
・滞在費
・食費
・宿泊費
などの実費や、
その範囲を超えない「研修手当」のみでした。
実質的に労働の対価となるような支払は制度趣旨に反すると考えられていたのです。
ここにも、「研修」は教育・人材育成制度であり、就労制度ではないという当初の制度思想が表れています。

国際貢献という制度目的

当時、日本政府が掲げていた制度目的は明確でした。
それは、
日本が有する技術・技能・知識を開発途上国へ移転し、その国の経済発展を担う人材育成に貢献すること
です。
今日では「外国人労働者受入れ制度」という印象で語られることも少なくありません。
しかし、制度創設当初の理念は、あくまで国際協力・国際貢献でした。
したがって、制度の中心にあったのは、
「人材を育てること」
であり、
「労働力を確保すること」
ではありませんでした。

現実は制度設計だけでは対応できなかった

しかし、制度が実際に運用され始めると、新たな課題が見えてきます。
企業の現場では、
「研修だけでは十分な技術移転ができない」
という声が次第に大きくなっていきました。
一定期間、教育を受けただけでは、本当に技術や技能を身に付けることは難しい。
実際の仕事を継続して経験する期間が必要ではないか。
こうした考え方が広がっていったのです。
ところが、「研修」は非就労資格です。
雇用契約を結ぶこともできません。
したがって、この課題は、在留資格「研修」の運用だけでは解決できませんでした。

行政の運用による最初の対応

この課題に対して、行政は直ちに法律改正を選んだわけではありません。
まず活用されたのが、在留資格「特定活動」でした。
平成5年(1993年)、
「技能実習制度に係る出入国管理上の取扱いに関する指針」
(平成5年法務省告示第141号)
によって、在留資格「特定活動」の一類型として技能実習制度が創設されます。
これは法律改正ではありません。
入管法が法務大臣に認めていた裁量権限を活用し、運用によって対応した制度でした。
具体的には、
在留資格「研修」により一定水準以上の技術・技能・知識を修得した外国人について、その成果をさらに実践の中で磨くため、在留資格「特定活動(技能実習)」への変更を認め、企業との雇用契約の下で実践的な技能実習を行えるようにしたのです。
ここで重要なのは、技能実習制度は、当初から独立した制度として設計されたわけではなかったということです。
制度の構造としては、
研修(修得) → 技能実習(より実践的な修得・錬成)
という二段階の仕組みでした。
つまり、技能実習は、「研修で身に付けた技術・技能・知識を、実際の業務を通じてさらに高める後半部分」として構想されていたのです。
この点は、今日「技能実習制度」という名称だけを見ていると見落とされがちですが、制度創設時の理念を理解するうえで極めて重要です。
もちろん、ここでいう技能実習は、企業との雇用契約の下で行われる就労活動です。
したがって、研修生と技能実習生とは、制度思想も法的地位も異なります。
しかし、両者は切り離された別制度ではなく、「研修で修得した内容をさらに実践の中で発展させる」という一つの流れとして制度設計されていたのでした。

おわりに

平成5年(1993年)に創設された技能実習制度は、
法律改正ではなく、
行政の運用による制度対応でした。
ここには、
制度目的を維持しながら、
社会の変化へ対応しようとする行政の工夫を見ることができます。
しかし、この運用による対応も、やがて新たな課題を抱えるようになります。
「特定活動」という運用だけでは、制度全体を支えきれなくなっていくのです。
そこで政府は、ついに制度そのものを法律上の在留資格として再設計することになります。
次回は、平成22年(2010年)の入管法改正による在留資格「技能実習」の創設と、その背景について見ていきます。

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