はじめに
第12部から前回まで、私たちは日本の外国人受入れ政策を、「制度設計」と「制度運用」という二つの視点から見てきました。
第12部では、出入国・在留管理行政における制度設計とは何かを確認しました。
第13部、第14部では、平成元年(1989年)の入管法改正が、どのような政策判断の下で行われたのかを振り返りました。
第15部では、日系二世・三世の受入れに対応する「身分又は地位に基づく在留資格」が、どのような制度思想に基づいて設計されたのかを考えました。
そして、第16部では、留学生に対する資格外活動許可制度を例に取り上げ、制度目的を維持したまま、社会の変化に応じて制度運用が見直されてきた過程を見てきました。
ここまで見てくると、一つの疑問が自然に浮かんできます。
制度は、制度設計と制度運用だけで十分なのでしょうか。
答えは、「そうではない」です。
制度は設計され、運用されるだけでは終わりません。
制度は、その結果を検証し、必要に応じて見直されなければならないのです。
今回は、その「制度評価」という視点について考えてみたいと思います。
制度評価とは何か
行政の世界では、新しい制度を作れば、それで仕事が終わるわけではありません。
むしろ、本当の仕事は、その制度が動き始めてから始まると言ってもよいでしょう。
制度が実際に社会の中で運用されると、
・制度目的は達成されているか。
・予想していなかった副作用は生じていないか。
・現場ではどのような問題が起きているか。
・制度そのものを見直す必要はないか。
こうした点を継続的に検証する必要があります。
これが、ここでいう制度評価です。
制度評価とは、単に「制度が成功したか失敗したか」を判定することではありません。
制度が現実社会の中でどのように機能しているのかを客観的に把握し、必要があれば制度運用を改善し、それでもなお対応できない場合には制度そのものを見直す、その一連の営みを意味します。
行政学では、このような考え方は決して特別なものではありません。
制度は一度作れば終わりではなく、社会の変化に合わせて不断に検証し続けることが求められる――これは、多くの行政分野に共通する基本的な考え方です。
制度評価で最も重要なこと
制度評価を行う際に、最も注意しなければならないことがあります。
それは、
制度目的と制度の結果とを混同しないこと
です。
どれほど丁寧に制度を設計しても、社会の変化や制度利用者の行動によって、当初は想定していなかった結果が生じることがあります。
しかし、その結果だけを見て、
「最初から制度設計が間違っていた」
あるいは、
「制度目的そのものがそうだった」
と結論付けてしまえば、制度を正しく評価することはできません。
重要なのは、
まず制度目的を確認し、
次に制度運用の実態を把握し、
その上で、制度目的と制度運用との間にズレが生じていないかを検証することです。
制度評価とは、制度を批判するための作業ではありません。
制度をより良いものへ育てていくための作業なのです。
制度運用だけでは対応できないとき
前回、第16部で見た留学生に対する資格外活動許可は、制度運用の見直しによって社会の変化へ対応してきた代表例でした。
制度目的そのものは変えず、法が行政庁に認めた自由裁量の範囲内で運用を調整することによって、多様な現実へ対応してきたのです。
しかし、すべての制度が、そのような方法だけで対応できるとは限りません。
社会の変化が制度の前提そのものを大きく変えてしまった場合や、制度の利用実態が制度設計時の想定から大きく乖離した場合には、制度運用だけでは制度目的を十分に実現できなくなることがあります。
そのようなときには、制度そのものを見直す必要が生じます。
つまり、制度評価とは、制度を残すか廃止するかを判断することではなく、
制度運用によって対応可能なのか、それとも制度設計そのものを見直す必要があるのかを見極める作業
でもあるのです。
制度改正は、何を意味するのか
ここで誤解してはならないことがあります。
制度改正が行われたという事実だけをもって、
「制度は失敗だった」
と評価することは適切ではありません。
制度改正が必要となる理由は様々です。
制度目的は維持したまま制度運用を見直すことで対応できる場合もあります。
一方で、制度評価の結果、制度目的そのものや制度設計そのものを見直す必要があると判断される場合もあります。
つまり、制度改正とは、一律に制度設計の失敗を意味するものではありません。
社会の変化への対応として行われることもあれば、制度評価の結果として制度目的や制度設計そのものを再構築する営みでもあるのです。
重要なのは、
制度が改正されたという事実ではなく、
なぜ改正が必要になったのか
という理由を丁寧に検証することです。
日本の外国人受入れ政策にも、その典型例がある
日本の外国人受入れ政策にも、このような制度評価を経て、制度そのものが再設計された代表例があります。
それが、
研修制度から技能実習制度、そして育成就労制度へと続く制度の変遷
です。
もっとも、この制度の変遷は、単なる制度運用の見直しではありません。
制度評価の結果、従来の制度では社会の要請に十分対応できなくなり、
制度目的そのものを見直す必要が生じた
ことによって、制度そのものが再設計されることになりました。
したがって、この制度改正は、
制度目的を維持したまま制度運用を改善した事例ではなく、
制度評価を通じて制度目的そのものを再構築した事例として理解する必要があります。
ここに、留学生に対する資格外活動許可制度との大きな違いがあります。
次回から見ていくこと
技能実習制度については、現在でも様々な評価があります。
人権問題として語られることもあります。
労働力政策として論じられることもあります。
しかし、本シリーズで考えたいのは、賛成か反対かという議論ではありません。
私たちが確認したいのは、
制度は、
どのような目的で設計され、
どのように運用され、
どのような制度評価を経て、なぜ制度目的そのものの見直しに至ったのか
という一連の過程です。
この視点を持つことで、
研修制度、
技能実習制度、
育成就労制度は、
それぞれ独立した制度ではなく、
日本の外国人受入れ政策が、社会の変化に対応しながら試行錯誤を重ねてきた一つの歴史として理解できるようになるでしょう。
おわりに
制度は、作れば終わりではありません。
運用すれば終わりでもありません。
制度は、社会の中で動き、その結果を検証し、必要に応じて修正され、時には制度そのものが再設計されます。
第12部から第15部では制度設計を、第16部では制度運用を見てきました。
そして今回確認したのは、
制度評価とは、制度運用を検証するだけでなく、必要に応じて制度目的や制度設計そのものを見直す営みでもある
ということです。
次回から取り上げる研修制度から技能実習制度、さらに育成就労制度への変遷は、まさにその具体例です。
制度設計、制度運用、制度評価。
この三つが相互に循環しながら制度は発展していく――そのことを、次回から具体的に見ていきたいと思います。
