政策を考えるための視点――出入国・在留管理行政から学ぶ「制度・現実・未来」の見方【第4部】政策には「正解」ではなく「選択」がある――外国人政策に求められるバランス感覚

何を優先し、何と何のバランスを取るのか

ここまで、私は
「問題意識」
「原因分析」
「制度目的」
「行政の役割」
について述べてきました。
では、それらが整理できれば、
「正しい答え」
が見つかるのでしょうか。
実は、そうではありません。
政策には、多くの場合、
唯一の正解は存在しないからです。
ある課題を解決しようとすると、別の価値との調整が必要になります。
政策とは、様々な価値の間で最適な均衡点を探す営みでもあるのです。

外国人政策は、典型的な「バランスの政策」である

外国人政策ほど、このことがよく表れる分野はありません。
例えば、
ルール違反には厳しく対応しなければなりません。
しかし同時に、
適法に在留する外国人の権利や、国際的な人権保障も尊重しなければなりません。
また、
審査は厳格であるべきです。
しかし、
審査が必要以上に長期化すれば、企業活動や本人の生活にも大きな影響が生じます。
さらに、
退去強制は適切に執行されるべきです。
一方で、
送還の実現には相手国との協力や外交上の調整が不可欠な場合もあります。
つまり、外国人政策は、
一つの価値だけを追求すればよい政策ではありません。
様々な価値のバランスを取りながら制度を設計し、運用していく必要があります。

「厳しくすれば解決する」という単純な話ではない

SNSでは、
 「もっと厳しくすれば済む。」
という意見も見られます。
もちろん、制度の不備があれば見直すべきです。
運用に改善すべき点があれば、改善すべきです。
しかし、
「厳しくする。」
という言葉だけでは、政策にはなりません。
例えば、
何を厳しくするのでしょうか。
審査でしょうか。
収容でしょうか。
送還でしょうか。
あるいは在留資格の要件でしょうか。
その一つ一つについて、
どのような効果が期待でき、
どのような副作用が生じるのか。
そこまで考えて初めて、
政策論になります。

制度は、「理想」だけではなく「実現可能性」も問われる

私は長年、出入国・在留管理行政の仕事に携わる中で、地方の現場業務だけでなく、本省で制度や政策に関わる仕事にも従事する機会がありました。
その経験から実感していることがあります。
それは、政策を考えるときには、「何を実現したいか」と同じくらい、「それを現実に実現するためには何が必要か」を考えなければならないということです。
制度は、理想だけでは動きません。
法律という根拠があり、それを運用する職員がおり、必要な予算や施設があり、国際的な協力関係があって、初めて現実の行政として機能します。
例えば、
「不法残留者を速やかに送還する。」
という目標には、多くの人が賛成するでしょう。
しかし、その実現には、退去強制手続を担当する職員だけではなく、収容施設、送還先となる国との調整、本人確認や旅券の発給、航空機の確保など、数多くの条件が必要になります。
つまり、
目標を掲げることと、
それを実現する体制を整えることは、別の課題
なのです。
私は、制度設計に携わる中で、この二つを切り離して考えることの危うさを何度も見てきました。
制度の理念だけが先行しても、現場が実行できなければ政策は機能しません。
反対に、現場に努力を求めるだけで、制度や体制を見直さなければ、改善にも限界があります。
だからこそ、政策を評価するときには、
「何を目指しているのか。」
だけではなく、
「そのための制度や執行体制は整っているのか。」
という視点が欠かせない
のです。
私がこのようなことを書くのは、行政を弁護したいからではありません。
政策は、現実に機能して初めて意味を持つものだからです。
制度を改善するためにも、まず制度がどのような仕組みで動いているのかを正しく理解することが、建設的な議論の出発点になると考えているからです。

批判は重要である。だからこそ、より精密であってほしい

私は、
行政への批判そのものを否定するつもりは全くありません。
むしろ、
民主主義社会において、
行政は不断の検証を受けるべき存在です。
しかし、
より良い政策につなげるためには、
批判もまた、
事実に基づき、
制度を理解し、
原因を分析したものであってほしいと思います。
例えば、
「現場が怠慢だ。」
という批判より、
「この制度では、現場だけでは解決できない。」
という分析の方が、
はるかに建設的です。
批判の目的は、
誰かを責めることではありません。
問題を改善することです。
そのためには、
感情よりも、
制度設計に目を向ける姿勢が求められます。

政策論とは、「誰かを悪者にすること」ではない

SNSでは、
一つの問題が起こると、
「誰が悪いのか。」
という議論になりがちです。
しかし、
現実の政策課題は、
一人の責任で説明できるほど単純ではありません。
制度設計、
政治判断、
行政運営、
予算、
人員、
国際情勢、
社会経済の変化。
こうした様々な要素が重なって、
一つの結果が生まれます。
だからこそ、
政策論に必要なのは、
犯人探しではなく、
構造を理解することなのです。

結び

外国人政策は、
「賛成」か「反対」か、
「厳格」か「寛容」か、
そのような二者択一では語れません。
国家として守るべき価値は一つではないからです。
だからこそ、
政策を考えるときには、
問題意識を持つこと。
原因を丁寧に分析すること。

そして、
制度の目的と、現実に実行できる手段の両方を見ること。
その積み重ねが、
より実効性のある政策につながるのではないでしょうか。

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