なぜ今、あらためて日本の外国人受け入れ政策を論じるのか【第19部】在留資格「技能実習」の創設――制度運営では対応できなくなった課題に、制度設計はどう応えたのか

はじめに

前回、第18部では、在留資格「研修」の制度と、その限界に対して行政運用によって対応した時代を振り返りました。
平成5年(1993年)、法務省は法改正を行うことなく、法務省告示第141号により、在留資格「特定活動」の一類型として技能実習制度を創設しました。
これは、研修で修得した技術・技能・知識を、企業との雇用関係の下で、より実践的に錬成する仕組みでした。
つまり、技能実習制度は、当初から独立した制度として始まったのではありません。
「研修で修得したものを、実務を通じてさらに伸ばす後半部分」
として制度設計されたのです。
しかし、その運用を続ける中で、新たな課題が明らかになっていきました。
そして平成22年(2010年)、政府はついに、制度運用だけでは対応できなくなった課題に対し、制度そのものを見直すことになります。

在留資格「研修」と在留資格「特定活動(技能実習)」は一つの制度だった

制度創設当初の研修・技能実習制度は、二段階構成でした。
第一段階は、在留資格「研修」。
ここでは、外国人は非就労資格として来日し、日本企業等で技術・技能・知識を修得します。
ここでいう「修得」とは、単に知識を学ぶことではなく、実際に身に付けることを意味します。
実務研修も制度の中に含まれていましたが、その活動は、
「商品を生産し若しくは販売する業務又は対価を得て役務の提供を行う業務に従事することにより技術、技能又は知識を修得する活動」
として位置付けられ、法的にはあくまで非就労活動でした。
したがって、
企業との雇用契約は存在せず、
受け取ることができるのも、
渡航費・滞在費等の実費や、それを超えない範囲の研修手当に限られていました。
続く第二段階が、
在留資格「特定活動(技能実習)」です。
ここでは初めて企業との雇用契約が結ばれ、
研修で修得した技術・技能・知識を、
実際の仕事を通じてさらに錬成することが認められました。
法務省自身も、
平成25年(2013年)公表資料『技能実習制度の現状と課題等について』の中で、
平成5年(1993年)の制度創設について、
「研修により一定水準以上の技術等を修得した外国人について、研修1年+技能実習1年(その後2年)を認め、研修で修得した技術等をより実践的に修得することができるようにした」
と整理しています。
つまり、
技能実習制度は、
研修制度を補完・発展させる制度
として設計されたのであって、
当初から外国人労働者受入れ制度として構想されたものではありませんでした。

なぜ制度設計の見直しが必要になったのか

しかし、制度運用を続ける中で、
制度本来の趣旨から逸脱する事例が次第に目立つようになります。
法務省は当時、
制度改正の背景について、次のように説明しています。
「一部の受入れ機関において、本来の目的を十分に理解せず、研修生・技能実習生を実質的に低賃金労働者として扱うなどの問題が生じていた。」
さらに、
賃金不払い、
労働関係法令違反、
監理団体の監理不足、
ブローカーの介在など、
制度運用だけでは是正し切れない問題も顕在化していきました。
つまり、
制度運用の改善だけでは、
制度目的を十分に守れなくなっていたのです。

平成22年改正――在留資格「技能実習」の創設

こうした状況を受け、
平成21年(2009年)改正入管法が成立し、
平成22年(2010年)7月1日、新しい研修・技能実習制度が施行されました。
ここで最大の制度変更は、
在留資格「技能実習」の創設です。
もっとも、
これは全く新しい制度を一から作ったという意味ではありません。
従来、
「研修」

「特定活動(技能実習)」
という二段階で運営されていた制度を、
法律上、
「技能実習1号」
「技能実習2号」

という独立した在留資格として再設計したものです。
制度目的は、
依然として、
我が国で開発され培われた技能・技術・知識を開発途上国等へ移転し、その国の経済発展を担う人づくりに寄与すること
でした。
変わったのは、
制度目的ではなく、
制度を実現する法制度の構造だったのです。

実務研修は労働法の保護の下へ

この改正で、
従来「研修」に含まれていた実務研修は、
原則として、
雇用契約に基づく技能実習
へ整理されました。

その結果、
技能実習生には、
労働基準法、
最低賃金法、
労働安全衛生法など、
日本人労働者と同様の労働関係法令が適用されることになります。
法務省も、
「実務研修を行う場合には、原則として雇用契約に基づき技能等修得活動を行うことを義務付け、労働関係法令上の保護が受けられるよう措置した」
と説明しています。
つまり、
制度目的を変更したからではなく、
制度目的を適正に実現するため、
制度設計を見直したということです。

監理団体の責任も法制度として強化された

今回の改正では、
監理団体の責任も大きく見直されました。
従来は、
技能実習期間についての監理は十分とは言えませんでした。
そこで、
技能実習期間についても、
監理団体が継続的に監理・指導を行うことが義務付けられました。
さらに、
毎月の訪問指導、
定期監査、
相談体制、
地方入国管理局への報告義務なども整備されます。
制度運用上行われていた監理を、
法制度として明文化したと言えるでしょう。

それでも制度評価は終わらなかった

平成22年(2010年)改正は、制度にとって大きな前進でした。
しかし、制度評価は、ここで終わりませんでした。
その後も、
技能実習生の失踪、
技能実習生に対する人権侵害、
監理団体の形骸化、
制度悪用など、
新たな課題が次々に指摘されることになります。
ここで重要なのは、
制度改正が行われたからといって、直ちに制度設計の失敗を意味するわけではない
ということです。
一方で、
制度評価の結果として、
制度目的そのものを見直さざるを得なくなり、
制度設計を改める場合もあります。
技能実習制度から育成就労制度への転換は、
まさにその代表例です。
つまり、
制度は、
制度評価を通じて、
時には運営を見直し、
時には制度目的そのものを見直しながら、
社会の変化に対応していくものなのです。

おわりに

平成22年(2010年)改正は、
制度運営だけでは吸収し切れなくなった課題に対し、
制度設計そのものを見直した最初の大きな転換点でした。
しかし、それでもなお、制度評価は続きました。
そして、その評価の積み重ねの先に、
平成28年(2016年)技能実習法が制定されます。
そこでは、
制度運営の改善ではなく、
制度全体を再構築するという、
さらに大きな制度改革が行われることになります。
次回は、
平成28年技能実習法による制度全体の再構築を通じて、
制度評価が制度設計をどのように変えていったのかを考えていきます。

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