なぜ今、あらためて日本の外国人受入れ政策を論じるのか【第20部】技能実習制度の再構築──技能実習法は何を変えたのか

はじめに

前回、第19部では、平成22年(2010年)の入管法改正によって、在留資格「技能実習」が創設された経緯を見てきました。
それまで技能実習は、在留資格「研修」を経た後、在留資格「特定活動」の一類型として認められる制度でした。
しかし、制度の拡大とともに、一部の受入れ機関において、
・技能移転という本来の目的から逸脱する事例
・技能実習生を実質的に低賃金労働者として扱う事例
・賃金不払いや労働関係法令違反
などの問題が顕在化しました。
そのため、平成22年改正では、技能実習生を労働関係法令によって保護する仕組みを整備し、制度上の位置付けを明確化しました。
しかし、その後も新たな課題が明らかになります。
在留資格として技能実習を法律上位置付けるだけでは、制度全体を適正に運営するための監理・監督体制や、技能実習生を保護する仕組みを十分に確保することが難しい面があったのです。
そこで、さらに一段進んだ制度改革として行われたのが、平成28年(2016年)制定、平成29年(2017年)施行の、
「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下「技能実習法」
でした。
今回は、この技能実習法が何を目的として制定され、どのような制度再構築を行ったのかを見ていきます。

技能実習法が制定された背景

技能実習制度は、本来、
日本で培われた技能・技術・知識を開発途上地域等へ移転し、人材育成を通じて国際協力に貢献する
という目的を持つ制度でした。
しかし、制度が拡大するにつれて、一部では本来の趣旨とは異なる運用が行われるようになります。
例えば、
・技能実習生を単なる労働力として扱う
・技能実習計画に沿わない活動を行わせる
・監理団体による指導・監督が十分に機能しない
・技能実習生が相談できる環境が整っていない
といった問題です。
つまり、問題の中心は、単に「在留資格の制度設計」だけではありませんでした。
制度を社会の中で適正に機能させるためには、
・誰が監理するのか
・誰が監督するのか
・問題が発生した場合、誰が技能実習生を保護するのか
という制度運用そのものを改めて整理する必要が生じたのです。

技能実習法の目的

技能実習法第1条は、この法律の目的について、次のように定めています。
技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の移転による国際協力を推進すること。
ここで重要なのは、技能実習法が単に「技能実習生を保護するためだけの法律」ではないという点です。
もちろん、技能実習生の保護は重要な柱です。
しかし、それだけではありません。
技能実習制度本来の目的である、
「技能等の移転による国際協力」
を適正に実現するために、
・技能実習の適正な実施
・技能実習生の保護
を制度的に確保することが目的なのです。
つまり、技能実習法は、
国際協力という制度目的を維持し、その目的を適切に実現するため、制度実施の仕組みを再構築した法律
と位置付けることができます。

外国人技能実習機構の創設

技能実習法による大きな変更の一つが、
認可法人 外国人技能実習機構(OTIT)
の創設です。
技能実習制度は、それまで、
・法務省(入国管理局及び地方入国管理局)が、出入国・在留管理を担当
・厚生労働省が、労働関係法令に関する行政を担当
するなど、それぞれの行政機関が所掌事務に応じて対応していました。
しかし、技能実習制度は、単なる在留管理でも、単なる労働行政でもありません。
技能実習計画の認定、
監理団体及び実習実施者に対する実地検査、指導
技能実習生からの相談対応、
技能実習生の保護
など、制度全体を専門的かつ横断的に支える仕組みが必要となりました。
そこで、新たに外国人技能実習機構を設置し、技能実習制度の適正な実施を支援するとともに、監理団体や実習実施者に対する実地検査・指導等を担う専門機関として位置付けたのです。

「監理」という考え方の発展──技能実習法による制度的強化

技能実習法による大きな変化の一つとして、「監理」の仕組みが、より明確な法制度として整備されたことが挙げられます。
ただし、ここで注意しなければならないことがあります。
「監理」という考え方自体が、技能実習法によって初めて導入されたものではない
という点です。
技能実習法以前から、研修制度や技能実習制度において、受入れ団体等が研修・技能実習の実施状況を確認し、適正な実施を確保するための仕組みは存在していました。
特に、平成元年(1989年)の入管法改正後、団体監理型の研修が認められるようになったことにより、
・研修事業の主体となる団体
(中小企業協同組合、商工会議所等)
・その組合員や会員である受入れ企業等
という形態で研修を実施することが可能となりました。
この場合、研修事業の主体は、単に外国人を受け入れる窓口となるだけではありませんでした。
傘下の受入れ機関における研修が、制度目的に沿って適正に実施されるよう、必要な指導や確認を行うことが求められていました。
つまり、制度上すでに、
受入れ機関を監理する主体を置くという考え方
が存在していたのです。
ここでいう「監理」とは、単なる事務的な「管理」を意味するものではありません。
「監理」とは、
ある人又はある機関の行為が、その遵守すべき義務に違反することがないかどうかを監視し、それが正しく行われるように指導・統制すること
を意味します。
つまり、
制度目的に沿って活動が行われているかを確認し、
問題があれば改善を求め、
適正な実施を確保する。
これが「監理」の本質です。

技能実習法による「監理」の制度的強化

技能実習法は、このような従来から存在していた監理の仕組みを、さらに明確な法律上の制度として再構築したものです。
技能実習法第1条は、技能実習制度について、
「技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識(以下『技能等』という。)の移転による国際協力を推進すること」
を目的として掲げています。
この目的を実現するためには、単に技能実習生を受け入れる仕組みを整えるだけでは十分ではありません。
技能実習が本来の目的に沿って実施されているかを確認し、必要な指導を行う仕組みが不可欠です。
そこで技能実習法では、
・監理団体の許可制度
・監理団体の業務内容や義務の明確化
・実習実施者に対する指導・監理責任の明確化
・外国人技能実習機構による検査・指導体制の整備
などが行われました。
つまり、技能実習法による改革の本質は、
「監理」という新しい考え方を導入したことではありません。
むしろ、
従来から存在していた監理の仕組みについて、責任主体、権限、義務、行政による関与を法律上明確化し、より実効性のある制度へ発展させたこと
にあります。
これは、第18部・第19部で見てきた、
「制度運用による対応」
から、
「制度そのものを法律によって再設計する段階」
へ進んだことを示す重要な変化でした。

監理団体の責任強化――既存の監理の仕組みを、より実効的な制度へ再構築した

技能実習法による重要な変更の一つは、監理団体を主務大臣による許可制としたことです。
しかし、ここでも誤解してはならないことがあります。
それは、
技能実習法以前の制度が、
「誰でも技能実習生を受け入れることができる制度」
であったわけではないということです。
また、
「誰でも監理団体になることができる制度」
であったわけでもありません。
技能実習法制定以前においても、外国人が技能実習生として入国・在留するためには、入管法令に基づく審査において、技能実習を適正に実施できる体制が整えられていることが求められていました。
その中には、監理を行う団体に関する要件も含まれていました。
つまり、技能実習法以前から、
監理団体の適格性や責任は、入管制度上の審査や運用を通じて一定程度確保されていた
のです。
では、なぜ技能実習法によって監理団体の許可制度が設けられたのでしょうか。
その背景には、技能実習制度の拡大に伴い、一部の受入れ機関において制度趣旨を十分に理解しない不適正な運用が発生したことがあります。
例えば、
・技能実習生を実質的に低賃金労働者として扱う事例
・賃金不払など労働関係法令違反
・監理団体による指導・監理が十分に機能しない事例
などが問題となりました。
こうした課題に対応するため、技能実習法では、従来存在していた監理の仕組みを、より明確な法的枠組みの中に位置付けました。
具体的には、
・監理団体を許可制とすること
・監理団体が果たすべき業務や義務を法律上明確化すること
・技能実習の実施状況を確認し、必要な指導を行う責任を明確化すること
・外国人技能実習機構による実地検査や指導体制を整備すること
などです。
つまり、技能実習法による転換とは、
「監理のない制度」から「監理を行う制度」への転換ではありません。
そうではなく、
従来から存在していた監理の仕組みについて、その責任主体、権限、義務、行政による関与を法律上明確にし、技能実習の適正な実施と技能実習生の保護をより実効的に確保する制度へ発展させたこと
にあります。
技能実習法は、過去の制度を全面的に否定して全く新しい仕組みを作ったものではありません。
制度運用の中で蓄積された経験と課題を踏まえ、既存の仕組みを法律によって再構築したものなのです。

技能実習生の保護という視点

技能実習法のもう一つの重要な柱が、技能実習生の保護です。
技能実習生は、言語や制度への理解、相談先の確保などの面で、日本人労働者とは異なる困難を抱える場合があります。
そのため技能実習法では、
・母国語による相談体制の整備
・不適正な実習実施への対応
・やむを得ない場合の実習先変更
・外国人技能実習機構による相談・援助
・監理団体による継続的な支援
など、技能実習生が安心して技能等を修得できる環境づくりが制度として整備されました。
ここで重要なのは、この保護が単なる「労働者保護」ではないということです。
技能実習法第1条が示すように、この制度の目的は、
技能実習の適正な実施と技能実習生の保護を通じて、技能等の移転による国際協力を推進すること
にあります。
したがって、技能実習生を守ることは、制度本来の目的を実現するための前提条件でもあったのです。

制度評価から制度再構築へ

ここまで見てきたように、日本の技能実習制度は、
制度運用による対応

法律改正による制度設計の見直し

制度全体の法的再構築

という段階を経て発展してきました。
平成5年(1993年)の「特定活動(技能実習)」創設は、行政運用による対応でした。
平成22年(2010年)の入管法改正は、技能実習を在留資格として法律上位置付ける制度設計の見直しでした。
そして平成28年(2016年)の技能実習法は、制度を適正に運営するための監理体制、監督体制、技能実習生保護の仕組みなど、制度全体を法律によって再構築したものだったのです。
ここで注目すべきなのは、これら一連の制度改正が、
「それまでの制度が全面的に誤っていた」
という評価から行われたわけではないということです。
むしろ、制度運営を通じて明らかになった課題を踏まえ、
制度目的をより適切に実現するために、制度を段階的に発展させてきた
という過程として理解する方が、実態に近いと言えるでしょう。
これは、第17部で整理した
「制度は学習し続けるものである」
という考え方を、そのまま示す事例でもあります。
制度は、社会との相互作用の中で改善され、必要に応じて再設計されていく。
技能実習制度の歩みは、そのことを端的に物語っています。

おわりに

研修制度から技能実習制度、そして技能実習法による再構築までを振り返ると、一つの重要なことが見えてきます。
外国人受入れ制度とは、単に外国人を受け入れるための仕組みではありません。
制度目的を定め、
制度を設計し、
制度を運用し、
その結果を評価し、
必要に応じて制度そのものを見直していく。
こうした一連の営みを通じて、初めて社会の中で機能する公共政策なのです。
技能実習法は、その時点における制度評価を踏まえた一つの到達点でした。
しかし、それで終わったわけではありません。
制度運用を続ける中で、なお様々な課題が指摘されるようになり、やがて政府は、技能実習制度そのものを見直す方向へと舵を切ります。
そして誕生したのが、育成就労制度です。
そこでは、制度の運営方法だけではなく、制度目的そのものにも大きな変化が見られます。
次回は、その「制度目的の転換」が何を意味するのか、技能実習制度との違いを比較しながら考えていきます。

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